26 先程初めてお会いしたばかりですが、王女様
――― 橘雪乃 ―――
ギルドの前にあるカフェ、森の妖精に来るとカフェは多くの人でほとんどの席を埋めていた。あたりを眺め探すと先程の女性が座っていた。
真実を確かめないと。私は悲壮な顔をしているのだろうか、それとも好奇心に満ちた顔をしているのだろうか。そんなことを考えながら彼女のテーブルに向かい合って座った。
大きな青い瞳で見つめて来る。睫が長い。一切の化粧っ気はないが化粧しているようにしか見えない。白い肌の小さな顔に大きなパーツが犇めき合っている。少々諄いが絶妙なバランスで端正さが破綻していない。
彼女は妙な事を言い始めた。
「久しぶり、橘。俺だよ、俺。」
え?先程初めてお会いしたばかりですが、王女様。
「初対面ですよね。」
「そうだった。あまりに嬉しくて忘れていたよ。最後に会ったのはバスの中だったね。あの日後ろから見てたら突然橘の周りが光って周りが見えなくなったんだ。その後、橘消えてるし。」
「え?え?え?どう言う事?何?俺俺詐欺?」
「今から言う事は内緒にしてほしいんだけど、俺は後藤だよ。」
「え、ここは異世界よ。嘘でしょ?やっぱり、オレオレ詐欺?でもなぜバスの出来事を知ってるの?」
頭の中がクエスチョンマークで埋まってしまった。
「橘が消えた後、運転手が、光が眩しすぎて周りが見えなかったみたいで赤信号で交差点に突っ込んだんだ。その時に横からバスが来て、ほぼ死んだ。だから、異世界夏休みだよ。」
「夏休みって、また戻れるの、元の世界に。」
「戻れるらしいよ。夏休みの間だけ異世界で過ごしたいってお願いしたら神様がオッケーしてくれて。橘が消えたのはもしかしたら異世界に召喚されたんじゃないかと思ってたし、俺は勇者の召喚に紛れ込ませてもらってこの世界に来たから会えるかもとは思ってたけど、本当に会えてよかったよ。」
「私も。会いたかった。後藤君に会いたくて、会いたくて、何としてでも元の世界へ帰ってやろうって思ってて、まさかここで会えるなんて思わなかった。本当に驚いた。本当に嬉しい。」涙が出て来た・・
「俺に会いたかったの?」聞かないで(*^。^*)ポッ!!
「おーい、雪乃!お城へ帰るよ。」優等生勇者の田中が呼んでるよ、いい所で・・
「ところで、今どこに泊まってるの?大事な話があるから今度会いに行くから。」
「ホテルレハストンの501号室だよ。」
「ホテル?高そうだね。」
「王城の南門から出て南道路と第二環状道路の交差点にある五階建ての白いホテルだからすぐわかるよ。」
「明後日会いに行くから。どこにもいかないで。じゃあ、行くね。明後日ね。必ずね。」
「大丈夫、待ってるよ。」
会えた。まさか会えるとは思わなかったけど会えた。見かけは違ったけど会えた。性別も違ってたけど会えた。だけど、衝撃が大きすぎて大事な事が全く聞けなかったな。王女かどうかだけでも聞けばよかった。
辺りは既に歩く人も居らずただ夜空の星々だけがその存在を誇示するかのように瞬いていた。
星明りだけの暗い街を私たち勇者仲間五人と騎士一人は王城へと急いだ。
――― 第二王女アリエノール ―――
「失礼します。大事なお話があります。入室を許可して頂けないでしょうか。」
「誰だ。」
「勇者の指導をしております、ダミアンです。」
「ダミアンか。勇者に何かあったのか?」
「いえ、本日は勇者の件ではありません。実は第四王女が生きております。」
「何?ターニャは殺したはずだろ?病気にして弱ったところを森で魔物と部下に襲わせて殺したはずだ。死んだとの報告を受けているぞ。」
「いえ、生きてます。イサドヌイン商会の会長が王と二人で内密に会い第四王女が生きていると報告していたとの噂があったのですが、単なる噂だと取り合わなかったのです。しかし、今日、この目で見ました。しかも、勇者の一人と話していました。もしかすると第四王女が勇者と接触し何らかの情報を与え味方に引き込んだのかも知れません。」
「勇者の誰だ?誰と会っていた?」
「タチバナユキノです。」
「ユキノに見張りを付け監視しろ。しかし、ターニャが生きているのは不味い。あの戦闘力で歯向かわれたら計画が頓挫する可能性が高まる。ガラメデオン侯爵を呼べ。」
一時間も経たずガラメデオン侯爵がやって来た。どうやら城の中にいた様だ。
「どうされましたか。何やら重大事が起きたとか。」
「そうだ、第四王女が生きていた。更に勇者を味方に引き入れようと画策している様だ。すでに勇者の一人、タチバナユキノと接触を図ったらしい。」
「いえ、そんなはずは御座いません。だとすれば一年を掛けた計画が頓挫したという事でしょうか。いえ、手の者を使い確実に殺し、死んだのも確認しました。あの化け物を殺す為に死亡に至る不治の病を誘発させ一年もかけて徐々に弱らせ、更に追い打ちをかけ体を麻痺させる薬を当日に服用させ、体を麻痺させた上で暗殺者に殺させたのです。生きているはずがありません。」
「しかし、生きているぞ。計画を早めた方が良くはないのか。」
「はい。早めなければ確実に計画が頓挫するでしょう。既に、殺されかけた真相を探る為に勇者に接触したのでしょうから。もう我々の計画に辿り着いているかもしれません。早急に前回の勇者も呼び寄せましょう。」
「前回の勇者はマー大陸で戦っているのではないのか。直ぐに呼び戻せるのか。」
「いえ、それは作戦の一部。王に対して前回の勇者の所在を誤魔化す為に詭弁を弄しただけで御座います。前回の勇者は西隣のピセーヌ王国で暗暗の内に訓練を続け計画開始を今か今かと待っております。洗脳されているとも知らずに。ですので直ぐに呼び戻せます。鳥を伝達に使いますので2,3日で到着するでしょう。」
「到着次第計画を実行するぞ。」
「御意。」
――― 後藤 ―――
橘と別れた後ホテルに戻った。
当然アルも一緒だ。もう自分の宿へ戻るつもりは無いのかも知れない。宿も既に引き払ったのだろう。さすがアルガメツイだ。がめつさは公爵級だ。だからアルガメツイ公爵と呼ぼう。
いつもの如くレストランでご飯を食べお風呂に入った。
「アル、そろそろ、ご飯は自分で支払った方が良いかもしれないよ。会長もいい加減怒るよ。」
「何を仰っているのかしら、あなたは。ご馳走してくれているのだから食べないと失礼だわ。怒られるなら、怒られた後で止めれば良いんじゃないかしら。」
「あーそうで御座いますか。アルガメツイ公爵。」いや、御馳走されているのは俺だし。何を言っても無駄らしい。
「誰それ?私は公爵ではなくってよ。」アルに嫌味は通じない。
もうこのホテル出て新しい宿を探した方が良いかも。もちろんアル抜きで。そのままアルはベッドで仰向けになって寝てしまったようだ。鼾かいてるし。俺は何処で寝るの?男なら犯してやるのに・・・ちくしょう。
そう言えば、今日から寝る前に枯渇するまで魔素を溜める予定だったのを思い出した。ステータスを確認すると時間が経過した所為か体内魔素量は最大に達していた。まぁ、魔素量は40mpしかないから溜まるのもあっという間だろう。
『亜空間収納』から杖を取り出し魔素を注ぐ。初めてなのでやり方が判らなかったが簡単に魔素を注ぐことが出来た。体内の魔素が枯渇するまで魔素を注ぐ。40mpの体内魔素を全て杖に注ぎ込んだ。これで杖に蓄えられる魔素は160mpだ。
ちょっと気分が悪いが日本でこっそりお酒を飲んだ時ほど酷くはない。しかし、この体の所為か食事中に少しお酒を飲んでも一切酔う事はない。多分、元の体と違いアセトアルデヒド脱水素酵素が豊富なのだろう。
翌日も早朝からゴブリンを狩りに出かける。本日も良く晴れ絶好の狩り日和だ。ゴブリンは依頼を受けなくても常時受け付けているので一々依頼を受ける必要はなく証明部位だけを持って行けば受け付けてくれる。5匹の討伐で一つの依頼が達成となる。
平素いつもの様に城門を潜り城壁の外へ出る。草原に出て最初に出くわすのは平常ホーンラビットだ。弱すぎて経験値が上がらない。早く無視できるようになりたいが自分も弱すぎる為相手をせざるを得ない。
ホーンラビットを三匹ほど倒し、更に森の奥へと進んだ。
森の中は相変わらず鬱蒼として日光を粗方遮っていた。それでもゴブリンの姿はなく出てくる魔物と言えばホーンラビットだけだった。
だから気が抜けていた。
警戒も用心も注意もしていなかった。
だから、気が付いた時には囲まれていた。
鬱蒼とした森は陰を作り、そしてそれは陰の中に潜伏していた。身を潜めていた豚が二足で立ち上がり周りを囲んで行った。巨大な魔物は皮の鎧で身を包み巨大な斧を手に持っている。頭から振り下ろされれば真っ二つにされてしまうだろうことは容易に想像できる。想像が恐怖を作出し体の動きを鈍くする。
アルは一瞬慄いたものの攻撃を開始した。一匹に向かって駆けだし剣を振るう。しかし、力の差は歴然とし攻撃を斧で防がれ体まで剣が届かない。
俺は初めて見た醜悪で巨大な二足歩行の豚に惧れ慄き体が固まったまま動けず、アルの攻防を見ているだけだった。
すると、オークがこちらに向かい駆け出した。斧はその峰をこちらに向けている。どうやら峰で攻撃して生け捕りにする気の様だ。此の侭では受付嬢の立てたフラグを回収してしまう。苗床にされてしまうだろう。俺は我に返り魔法で攻撃することにした。
『ファイアーショット』!当たった。倒れはしないがよろけた。そこに剣を叩き付け追い打ちをかけた。しかし弱い膂力では攻撃を簡単に防がれてしまう。杖を収納から出し左手で持った。剣は右手だ。剣を片手で持ってもあまりにも心許無いが仕方がない。
杖に溜めた魔素は40mp。2発は魔法が使える。
杖の魔素を使って更に攻撃する。『アイシクルブリット』!氷の弾丸で攻撃した。腹に突き刺さったようで蹲った。剣で追撃する。剣を上段から首に振り下ろした。首の半分で刀は止まってしまった、頚椎に当たって止まったようだ。しかし、血が噴き出し、そのまま力を無くし腹這いに倒れ、噴出した生暖かい血が辺り一面を濡らした。
運よく倒せた。アルも既に何匹か倒しているだろう。もう座って眺めているかもしれない。
周囲を見回した。
しかし、アルはオークに倒され意識を手放し、オークが抱え上げようとしてるところだった。
五匹いたオークのうち、四匹は未だ無傷のようだ。
一瞬で状況を理解した途端、二足歩行の豚に斧の峰で攻撃され、俺は意識を失った。




