25 青天の霹靂
――― 橘雪乃 ―――
冒険者ギルドへ入る。日が落ちた後のロビーは相変わらず酒臭い。素材の買取カウンターへ並ぼうとすると女性が近づいて来た。綺麗なプラチナブロンドの髪を腰まで伸ばした長身の女性だった。大きな胸を揺らしながら近づいて来る。ブラジャーのない世界だから仕方ないとしても嫌味としか思えない。草食動物の様に長い脚、細い体に巨大な胸をまざまざと見せつけながら近づいて来る。
そして、青い大きな瞳で見つめながら嬉しそうに問い掛けて来た。
「橘さんですよね。」
やはり知らない人だ。
「あれ?誰かに似てませんか。王室関係者の方ですか。」
既視感がある。記憶を辿る。そうだ、王女に似ているんだ。気が付かなかったのは、彼女は化粧っ気が無いのに対し、王女は厚化粧で直ぐにはその類似性に気付かなかったからだ。
「いえ、そんな大層な者ではありません。少々お話宜しいでしょうか。」丁寧だ。好感が持てる。
「では、素材を卸した後でよろしいでしょうか。」
「では、外のカフェでお待ちしてます。」
彼女はギルドを出て夜の帳の中へと消えて行った。
「なぁ、雪乃。俺エール飲んで来るから納品しておいてくれない。それにしても今の人綺麗だったな。誰かに似てないか?」
「青山ぁ、あなた17歳でしょ。勘弁してよ。一緒に並びなさい。」
「何言ってんの。ここ日本じゃないよ。」この金髪ヤンキーは我儘だ。
冒険者ギルドは待つ時間が嫌いだ。ギルドの事務所なのに酒場が併設する謎仕様の所為でロビーでは必ず声を掛けられる。
特に夕方は酷い。
既に酔っ払いが大半を占めるギルドのロビーは喧騒に包まれ会話さえ真面に出来ない状態だ。ただ、酔っ払いが掛けてくる声だけが耳障りに響く。
あなたはパーティーに加入しました。脱退するには一晩付き合いなさいと言うワンクリック詐欺まがいの脅迫はまだ良い。
ただ手を掴み連れて行こうとする犯罪紛いの、いや、紛いではない逮捕監禁罪を堂々と敢行する勧誘も堂々と強制わいせつを敢行する輩にも辟易してしまう。
そんな奴等には『Z』の文字を刻んでしまう。
例え、こちらの傷害行為が、相手の暴行又は逮捕監禁行為等の急迫不正の侵害に対する防衛行為としても正当防衛が成立する事はなく、武器が対等ではなく相当性の原則を逸脱し過剰防衛に成り下がる行為だとしても暴力の支配する異世界であるが故にある程度の過剰は許されてしかるべきであろう。盗犯等の防止及び処分に関する法律の異世界版と言ったところだ。相当性の要件を緩和してくれるだろう。
などと自分の行為を正当化して『Z』の文字を刻み続ける。
モヒカンでない場合は『肉』でも良いな等と考えながら。
しかし先程の女性は第二王女に似ていた。それを隠していたという事は秘密にする事情があるのだろうか。考えてみれば、王女は四姉妹だと言うが第一王女と第二王女は城にいる。第三王女は外国にいるらしい。第四王女は亡くなったと言う話だ。だとすれば彼女は他人か親戚か。それにしては第二王女とよく似ている。そう考えれば外国から帰って来た第三王女とも考えられるが、それならなぜ城に帰らない。何かの理由で城に帰れないのだろうか。
それならば第四王女の可能性も考えられる。例えば第四王女は死んでおらず何らかの理由で出奔したか、暗殺されようとしたが、生き残り身を隠しているとも考えられる。
だとすれば、第四王女である方が理に適う。
それなら犯人は誰だ。
城にいる第一王女か第二王女か。又は男兄弟、つまり王子か。城で一番問題になるのは跡目争いだと言える。しかし、第四王女は王位継承権の序列で言えば一番王位に遠い存在だと言える。だとしたら別の目的での暗殺だろうか。情報が少なすぎる。
しかし、言動の胡散臭さで言えば第一容疑者は第二王女ではないのだろうか。第二王女が第四王女の暗殺を企んだのかも知れない。理由は分からないが。
王位継承権を狙ったのなら、第四王女の殺害は迂遠だろう。別の目的の為の邪魔者と考えるべきか。それとも第二王女の背後に第二王子がいるとすれば直接の目的は第一王子で、第四王女はその邪魔者として暗殺されようとした?
まさか、第二王女が自分以外の兄弟を全て暗殺して継承権を得るのが目的とも思えない。だとすれば、現実的に考えれば、より直接的なのはクーデターではないのだろうか。そうならば、王女一人が企んでいるのだろうか。勇者の召喚はクーデターの為ではないのか。分からない事が多すぎるがクーデターの可能性も高いかもしれない。
推測だがある程度確かな事は、カフェで待つ女性は第四王女。クーデターの可能性が高いという事。そして首謀者は第二王女。勇者召喚はクーデターの為の布石。
但し、黒幕がいる可能性もある。その場合、国の中枢にいる者の可能性が高い。いなければ外患を誘致する作戦か。
もしかすると、カフェの第四王女は勇者である私にこの現状を伝え仲間にしようとしているか、スパイにしようとしている可能性もある。
第四王女に早急に会わなければいけない。早く計算して代金支払ってほしい。男どもはエールを飲んでここにはいないし。奥之院は何処?何処にいるの!こんな時に限って。
相変わらずあの巨乳は、胸も態度もデカいわ。
やっと査定が終わり現金を貰った。
酒場にいる男どもと現金を分けカフェに向かう。早急に確かめないと、第四王女か、殺されそうになったか、犯人は第二王女か、王子は危険ではないのか。聞きたい事が色々ある。
私はギルドを出、既に闇が支配する中にある街頭で作り出された小さな昼間の中を抜けカフェに向かう。




