23 がめつい
森を抜け盗賊を括りつけた場所に戻った。既に日は落ちかけているだけにも拘らず森の中には黄昏の薄明かりなど存在せず逢魔が時の様相を呈し始め、風が森の木々を怪異な物の様に蠢かせている。
盗賊は魔物に襲われる事も無く無事に木に括られていた。
「許してくれ、もうしないから。」
「盗賊が許しを請う時の常套句ね。信憑性がないわ。」アル、頼れるわぁ。
「だったら私だけでも。私はこいつらに雇われただけよ。盗賊なんかじゃないわ。」
「いえ、あなたがボスでしょ。指示出してたじゃない。」
「ぐぅっ・・・」
「ところで盗賊のお宝は討伐した者の所有になるのだけど、どこに隠したの?」アルは剣を出して脅しながら聞いている。さすが守銭奴だ。
「そ、そんなものは無い。」当然そう言うよな。
「今までも女を捕らえて奴隷商人に売却しただろう。その金があるはずだよな。今教えてくれるのなら逃がしてあげるか考えてもいいぞ。」
俺は黄金の懸け橋を与えてみた。もちろん自由へは続いてはいない。
「本当か。」
「本当だぞ。どこだ?」
「今から案内する。」
「簡単な説明でいいよ。行ってみて、嘘でなかったら良いけどな。」
説明を聞き『ぐるぐる異世界』で確認すると少し離れた場所に小屋があるのが分かった。アルに説明するわけにもいかず、盗賊の説明で理解できたと思わせる事にして小屋へと向かった。
「小屋があったわ。あれね。一見分かりにくくなってるわ。」
アルがドアを開けた。
「助けて‥助けてください・・」小屋の中から声が聞こえる。
中へ進むと女性が捕まっていた。二十歳くらいの冒険者の様だ。中々の別嬪さんだ。でも捕まっているのはエルフのお姉さんと言うのがテンプレだと思ったのだが・・・
「大丈夫か?一体何があった。」
「昨日、キャスと言う女に一緒に狩りに行こうと誘われて森へ来たらあいつの仲間がいて捕まりました。」
「あの貧乳、昨日の約束ってこれだったのか。碌な事しないなぁ。」
「ワタシ達もあいつに騙されて森へ来たら盗賊に捕まりそうになったわ。」
「大丈夫だったんですか。」
「返り討ちにして捕まえてやったわ。今木に括り付けてるから。後で衛兵に引き渡すわ。」
「ちょっと、これ見ろ!!」キャビネットがあったので扉を開けると見つけた!巨大な卵だ。
「これ何の卵?」
ダチョウの卵の倍くらいある。
「これ周りが鱗の様になってる。もしかして竜?異世界のテンプレ竜の卵?孵るよねこれ!やったぁ!!(๑•̀ㅂ•́)و✧」
余りの興奮に我を忘れて叫んでいた。
「それ?それってトカゲの卵でしょ。」
アル、夢が無い(T_T)。少しは夢を見せて。
よし!!暫く暖めよう!コモドオオトカゲが生まれれば捨てればいいし。異世界には鳥獣保護法も動物愛護法も無いだろうし。後は誰かが退治してくれるだろう。取敢えずアイテムボックス作ってそれに入れておこう。
付与魔法で指輪にでも空間魔法付与すればアイテムボックス作れるだろうか。『亜空間収納』は時間が止まるから、止まったら卵が孵化しないだろう。作れない時は小さいのでも買おうかな。小さいのなら安いだろう。
「なぁ、アル。アイテムボックスの小さいヤツの金額って知ってるか。」
「あなたアイテムボックス持ってるじゃない。あー、持ってるアイテムボックスが小さいからもう入らないのね。そうね、極小だと30万ゴールド、小だと50万ゴールド位ね。」アル、ナイス勘違い。
「高いよ!極小ってどれ位の小ささだよ。」
「ほぼ人間一人分くらいかな。小だと2,3人分くらい入るらしいけど。」
「仕方ない、カバン買って入れとくか、まぁ、トカゲだし。あ!現金置いてあるけど折半ね。」
「何を言ってるの。あなた卵貰うのでしょ。その分ワタシが多く貰うわよ。」
「いや卵必要ならあげるし、トカゲだから俺要らないし。」
「ワタシもいらないわよ、そんな爬虫類の卵。じゃあ現金折半でいいわよ。でもアイテムか武器先に選ばせてもらうわ。」
「オッケー、じゃあ武器先に選んでいいよ、俺魔法使いだし。」
「ねぇ、今まで言わなかったけど、なぜ俺って言うの?顔と似あってないわ。」
「ちょっと事情が・・・」
「あのぉ、私も貰っていいですか?」捕虜のお姉さんが言う。
「あなたはただ捕まっていただけだわ。貰う権利は無いと思うわ。」
アルは、ちょっと他人に厳しい。
「でも、現金少しならあげてもいいんじゃないか?」
「だったらあなたの分あげれば良いじゃない。」アル現金にシビア。
「じゃあ、現金少しと何か適当なアイテムがあればそれあげるから。」
「本当ですか?ありがとうございます。」
盗賊の現金は1,205,034ゴールドだった。冒険者を奴隷に売ったお金だろう。
他には、ブロードソードがある。『鑑定』してみた。
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名前:鋼鉄のブロードソード
グレード:B
ステータス:中古・要研磨
属性 : なし
効果 :力+10、スピード+10
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効果が付与されランクも高い、研磨すればかなり良いのではないだろうか。トカゲの卵を取ったから、このブロードソードを取られるのは割に合わないような気がするが、『聖剣』持ってるから良いか。そもそも剣使えないし、魔法使いだし。
「この剣高価じゃないか。これとトカゲの卵じゃ俺が損するよ。」
「何言ってるの?大して良くない剣だわ。鑑定したら多分ランクはEね。それでも私は我慢して剣を貰うの。そんな良い卵ではなくボロイ剣を貰うの。私の方が損だわ。」
こいつ、剣の価値知ってて言ってるな。しかも、さっきまでトカゲの卵とか言っていたのに、急に良い卵とか言い始めたし。アル、がめつい。もう名前はアルガメツイで良いんじゃないか。
「ねぇ、ターニャ、それでいいわよね。」
「何ですか?アルガメツイさん。」
「ワタシそんな名前じゃないわよ。」
一緒にパーティー組むの止めるか『鑑定』スキル持っているの暴露しないとやっていけないな。がめつ過ぎるよ。
【それは違うわよ。こっちの世界の人は豊かな世界で暮らしてないからがめつくもなるわよ】
なぜ豊かな世界から来たって知ってるんだ。神に聞いたかな。
捕虜のお姉さんには魔素回復薬を与えた。現金も少し与えた、5万ゴールド。だから俺の取り分55万ゴールド。アルさんは与えなかったが、それが異世界スタンダードらしい。
貰えるものは貰う。貰えなくても要求する。要求されても与えない。
これがスタンダード。
与えるのが間抜けだという事か。
この世界の民法は有名13契約ではなく、贈与契約や使用貸借の様な代価の発生しない契約は存在しないんだろうな。でもあると信じたい。
再び盗賊の元へと戻り、四人の盗賊を引き連れ帰路に就いた。
「おい、教えたら助けてくれるって言っただろ。」盗賊は食い下がる。
「いや、俺は考えるって言ったんだ。」
【黒い!黒いよ、なんて腹黒いの、この禿げは。さすが禿げだよ。】煩い。謀略だよ。って禿げてないし。
「俺は誘拐にはかかわっていないぞ、開放してくれ。」
「いや、盗賊になった時点で、誘拐、人身売買、強盗、馬車襲撃等の一連の盗賊行為の共謀があったと考えるべきだ。よって、共犯の射程には人身売買も含まれていると解するのが妥当だ。だとすれば、共同正犯の一部実行全部責任の原則から言えばお前も人身売買についての責任を問われるべきだと思うんだ。だからお前は人身売買についても責任を問われてしかるべきだな。」
「な、何を言っているのか分かりません(T_T)」盗賊泣き顔、泣いてはいないが・・・
ま、ここは異世界だからそんな理由がなくても盗賊は一蓮托生で罰せられるだろう。
既に日は沈み、辺りは凶悪な禍禍しい不穏な存在を覆い隠すかの如き漆黒の闇が支配し始めている。未だ月は見えず、ただ星だけがその存在を主張していた。月が辺りを照らすまでには時間がかかるだろう。
すると東から西へ星が流れた。
と思った瞬間、流れ星はジグザグに進み始めた。
「えー?あれUFOだよ、UFO!!見て、見て!」興奮した。
「なに、ゆーほー?あー、あれは流れ星の親戚でしょ。偶に流れるわ。」アル冷めすぎ。
この世界にもUFOがいるのか。もしかしたら宇宙人が攻めて来るとかないよな。既に機械の兵器を地下に埋めているとか。怖いよ、タコの化け物とか。まさかフラグ?(ヾノ・∀・`)ナイナイ。そもそも、俺二カ月しかいないし。
その後も何事も無く城門へとたどり着いた。
門の衛兵は俺と会うと敬礼して来た。理由を聞きたいけど、もういいや。状況を説明し盗賊と女性を引き渡した。
「承知いたしました、ターニャ様。後は全てお任せください。報奨金が多少出ます。そこの君にも報奨金が出るからギルドカードを提示してくれ、ギルドへ届ける様にするから。あっ、ターニャ様は結構ですので。」
衛兵は盗賊を牢屋へと引き立てながら説教を始めた。
「お前ら、どなたを罠にかけたか分かってるのか。斬首は免れないかもしれないぞ。」
俺ってどなた?教えて欲しい(T_T)。それにしても脅しにしては怖すぎる。本当なら尚更怖いし。
「ねぇ、衛兵がターニャ様って言ってたわ。今回は接客業じゃないし本当にあなた何者?」
「あー、それね。よく間違えられるんだ。なんでもこの世には似た人が三人いるって話だし。完全に俺を誰かと間違えてるんだよ。」
間違いではないのだろうけど、俺にも全く分からないし複雑だから誤魔化すしかないな。
「だったら教えてあげないと。」
「もう諦めたよ。」
「まだ俺って言ってるし。」
「男だからな。」
「そんなデカい胸した男はいないわ。綺麗な顔に『俺』は似合わないわよ。」
夏休みの終了まで残り57日です。




