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9神は幸福と無情を等しく与える

 俺はリューンの村の狩人ダイシ・ヤマダ。

 ここはエルフの村で人間は今の所俺一人だが怖いくらい調子良くやらせてもらってる。

 

 この村で生活始めて3ヶ月が経ち、俺を召喚してくれたアドレニック帝国の面々を思い出す事も少なくなってきた。

 日々の活動の中で俺の身体は逞しく鍛え上げられ、昔では考えられなかった6パッドを手に入れた。

 

 ある朝、コンコンと俺の家の扉がノックされる。鍵はかけてないのでそのまま扉が開く。

 「ダイシ。起きてる〜?」

 「おはよう、ユーチェア。朝飯食べてるところだよ」

 

 そう、俺とユーチェアはこの3ヶ月でとても仲良くなり、今では呼び捨て合う間柄なのだ。

 

 ユーチェアは家の中に入ると、テーブルで朝食をとる俺の隣に座る。俺は魔法で水を出しヤカンに入れ簡易コンロに火をつけ、ユーチェアの紅茶を準備する。

 

 「ダイシ、今日の狩り一緒にいこう?」

 「もちろん良いけど、サナト君(弟)は大丈夫なの?」

 「うん、あの子はもう朝早くから西ルートの狩りに出かけたから、私達は東ルートで」

 

 イヨッシ!!ラッキー!!

 ユーチェアの弟のサナト君はシスコンの気があり、事ある毎に俺達の間を邪魔しようとする。

 まぁ家族がユーチェアしかいないから分からないでもないが、正直言ってサナト君はくっそ邪魔である。

 

 「じゃぁ俺すぐに準備するから、ちょっと待ってて」

 俺はドタバタと物置に向かう。

 「ハハハ、そんなに慌てなくていいよー」

 

 季節は夏の最中。と言っても標高の高いリューンの村はさほど暑くならない。元々あった魔法で凍らせた土を利用した冷蔵保管庫も俺の強力な魔法で高性能に改良し、更なる長期保存を可能にした。

 なので、取り急ぎ獲物を狩る必要はなく、二人で赴く狩りは殆どデートである。

 

 「準備できた!さぁ行こう、すぐ行こう」

 どっからどう見ても完璧な狩人ルックになった俺。

 散歩直前の飼い犬のように興奮している。

 

 「うん……その前にギュってして」

 うつむき加減で照れながら腕を広げるユーチェア。

 何?この可愛い生き物?これで96歳とか嘘でしょ。

 

 俺は躊躇わず優しくそして力強く抱きしめる。

 (はぁ〜幸せだ〜♡)

 過去の知識を辿れば、俺は今フェニルエチルアミンという恋愛脳内物質によってドーパミンという興奮脳内物質が過剰に放出されている状態だ。恋の麻薬中毒患者だ。

 

 名残惜しいが抱擁を解き、離れる。

 

 「ダイシは村の神様だからね。抱きつくと加護がもらえるんでしょ」

 ユーチェアははにかみながらそう言って、抱きついた体裁を取り繕おうとする。

 そんな照れ隠しの拙い言い訳も俺にとっては可愛い訳で。

 

 そんなラブラブムードの中、俺達は森の東ルートへ向かう。

 この世界には、映画もカラオケも遊園地も無いが、ユーチェアが居ればそんなものは不要だ。

 

 森の中に入れば手を繋ぎ歩く。普段の狩りでは目に留めない美しい草花を愛で、森林の薫りを楽しむ。

 時折現れるお邪魔虫(魔物)は仕留めず軽く追い払う。

 

 東ルートの森を進んだ先に見事な滝壺がある。豪快に落ちる滝の飛沫が見える近くの岩場に二人は腰をおろし、他愛もない話をする。

 

 調子に乗った俺はユーチェアの弱点であるその可憐な長い耳にちょっかいをかける。少し触るだけで身を悶えさせ恥ずかしそうにするユーチェア。でも、何だか嬉しそうなので思わず続けてしまう。

 

 すると今度は俺の方がヤバくなってくる。

 そのまま野外で致すのもやぶさかではないが、俺はまだユーチェアと関係を持っていない。

 この歳になって、こんなトキメキ溢れる恋が出来るなんて思ってもおらず、奥手になってしまっている。

 

 俺は火照った身体とあそこを冷やすため、上半身裸になり滝壺へ飛び込む。

 ここには大きなマスに似た魚が沢山いて、俺はそれを手掴みで捕獲する。今日の昼飯だ。

 

 焚き火を起こし魚を串焼きにする。味付けは塩のみ。食べ応えのある魚は大味かと思うとそうでも無く、繊細な旨味がたっぷり詰まっている。

 

 食休みに二人は森の木陰でよりそう。空腹も満たされ穏やかな空気が流れる中、お互い口数も少なくなり見つめ合う。次第に顔と顔が近づいて、自然に唇を重ねる。

 

 知ってる?33のおっさんでもこんなキスしちゃったら勃つんだぜ。

 

 余った魚を手土産に、帰路に着く。あまり遅くなっても怪しまれちゃうからな。

 帰り道、この幸せな一日が終わるのを淋しく感じるとともに、明日もまた続く事に感謝の気持ちが湧いてくる。

 

 「ユーチェア今日は楽しかったよ。ありがとう」

 

 「ううん、私の方こそ。でも魔物を狩って無いからサボりだね」

 

 「大丈夫だよ。こんなにいっぱい立派な魚があるんだから」

 

 俺はロープで括った魚を持ち上げる。微笑むユーチェア。

 そんな事を言いながら森の出口に差し掛かった時、村の異常事態に気が付いた。

 

 滅多に鳴らすことの無い見張り櫓の鐘が、ヒステリックに警告音を喚き散らしていた。

 

 刹那、鼓動が高まり俺とユーチェアはお互いの顔を見る。

 「ユーチェア、俺につかまって!!」

 ユーチェアは何故かと聞かず俺に身を預ける。

 

 イメージ、浮遊。イメージ、推力。

 練習していたものの、あれ以来上手く使いこなせない飛行魔法。だが差し迫った危機に今は難無く発動した。

 

 ユーチェアを抱え低空を猛スピードで飛行する。

 森を抜け、草原を突き抜け目の前に村が見えてきた。

 未だ村には何か起きている様子は無いが、防壁門から繋がる道のはるか向こう、右手側に黒い塊が見えた。

 

 軍隊だ!!

 進行速度は早くないものの着実に村へ向かって進んでいる。

 

 村に着くと門は固く閉ざされていた。上空から村に降り立ち、ユーチェアを降ろした俺は急ぎ見張り櫓へ駆け上る。

 

 見張りを続ける村人に使者や交渉の有無を確認するが特に無いとの事。

 単眼鏡を借りて黒い軍隊の様子を窺う。

 

 目に飛び込んで来たのは信じられない光景だった。

 

 先頭には筋骨隆々のトロール達が重そうに牽引する巨大な戦車。黒光りする車体にコレでもかと言うくらいの金の装飾が施されている。形状は宇宙刑事シャ○バンに出てくる変形前のグラ○ドバースの様な形の戦車だ。

 

 後ろに続くのは黒く長い両腕を垂らした醜悪な面持ちの巨人兵。10メートル以上あると思われるそれの数は約20。

 

 更に後ろに漆黒のフルプレートアーマーに包まれた騎士軍団。巨人兵に比べればよっぽど人間らしいが、皆2メートルを優に超える巨躯。その数100以上。

 

 その上空を警戒するように、索敵するように大きなコウモリの翼を持った紫色の人型の魔物が多数旋回している。

 

 村の皆は各々に剣を携え弓に矢をつがえ、魔法の使えるものは杖やロッドを握り締め、迫り来る侵攻に備えている。しかし、見た目からして彼我の力量差は明らかだ。

 

 俺は覚悟を決める。この命果てようともこの村を、何よりユーチェアを守る!!

 俺なら出来る!!こんな時の為にこそ、この俺の力があるんだ!!

 

 来るなら来い、化け物ども!!

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