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15ただいま

 空路を進み空間転移門を通過して、翌日の昼前にエルフの村、リューンへと到着した。

 

 

 

 二週間ちょっと振りに訪れた村は何の変わりもなく、その長閑な雰囲気に胸の空くような郷愁すら覚えた。

 

 秋に差し掛かり晴れ渡ったその日、多くの村人は狩りに出かけており、広場で遊ぶ子供や家事を行う主婦の姿しか無かった。

 

 

 

 俺の姿を確認すると皆駆け寄り集まってきた。そして口々に「おかえり」と俺を歓迎してくれる。

 俺としても嬉しいの山々だが、状況が状況なだけに素直に喜べない部分もある。

 

 知らせを受けたスレイダ村長も出迎えてくれ、満面の笑顔で俺の帰還を喜んでくれた。そのまま、俺達は彼の屋敷へ向かい歓迎を受けつつ事の報告を行った。

 

 

 

「……と言う訳で俺、アドレニック帝国の皇帝になっちゃったんだ……」

 かいつまんでこれまでの経緯を伝える。

 

「なんとまぁ、それ程までにダイシ殿…いや、皇帝閣下のお力が認められたとは、嬉しい限りではございませんか」

 とは言うものの、若干複雑な想いを顔に表すスレイダ村長。

 

「ダイシ殿で良いよスレイダさん。でも、本当は俺はこの村に戻ってきて暮らしたかったんだよ?」

 

「それはもう、我々も帰って来て頂けるのを心待ちにしておりましたが。特にユーチェアなどは……」

 

「それでさ、出来ればなんだけど俺ユーチェアをお嫁さんに貰いたいんだ。ユーチェアとサナト君にはご両親が居ないから、スレイダさんの許可が欲しいんだ」

 

「ほっほっほ、ユーチェアが皇后様ですか。無論、私は反対などしませんが問題はサナトでしょうなぁ」

 

「ありがとう、スレイダさん。でも、そうなんだよね。どうやってサナト君を説得するか……」

 

 

 

 少し間が空いたところでジョロッチがスレイダ村長へ真紅の袋を二つ差し出した。


「スレイダ村長。こちら、ダイシ様よりのお土産と帝国からのお礼でございます。また、ユーチェアさんが帝国へ嫁がれる事になりましたら、村の働き手の補充としまして帝国より腕の立つエルフを数名派遣させて頂きますので」

 

 スレイダ村長は袋の中身を検めると驚きの表情を浮かべる。

「こ、これは。こんなにも宜しいのですか?」

 

 袋には金貨や、大きな宝石が入っていてこちらの国でも換金すればかなりの額になるものだ。

 

「うん、リューンの村じゃあまり必要ないかも知れないけど、いざって言う時に使ってよ」

 

「いえ、とんでもございません。誠に有難う御座います」

 深々と頭を下げるスレイダ村長。

 

 一通り話を終え、ユーチェアや他の皆が狩りから帰ってくるまで、ジョロッチとザムちゃんに村の中を案内したりして時間を潰すことにした。

 

 

 

 獲物の解体所や保管庫、共同浴場や炊事場、村の畑など二人にとっては取るに足らない物かも知れないが、俺にとっては何とも言えない感慨がある。

 

 そうして、おばちゃんエルフとお喋りしたり子供達と遊んでいると、ぼつぼつ狩りから帰ってくる村人が増えてきた。

 彼らもとってきた獲物そっちのけで俺の元に集まり、それぞれに歓迎してくれた。

 

 

 

 村人達に囲まれ談笑していると防壁の門から待ち人がやってきた。

「ユーチェア!」

 俺は思わず彼女の名を読んだ。

 

「ダイシ……?ダイシ!」

 ユーチェアはサナト君と二人で丸太に括り付け、担いで来た獲物を放って此方に向かって駆け出す。

 

 俺も人垣を抜けユーチェアを迎える。

 ユーチェアは勢い良く全身で俺の胸に飛び込んできた。

 

「ダイシ……おかえり、ダイシ」

「ただいま、ユーチェア……」

 抱き合ってお互いの顔は見えないが、二人とも涙声だった。

 

 ゆっくり離れるとユーチェアは涙混じりに微笑む。

「フフッ、どうしたのその格好?」

 

 仕立ての良い派手な俺の衣装が気になったようだ。

「ああ、実はね……」

 と言いかけた時。

 

「あーーーーーーーーっ!」

 防壁門付近にいたサナト君が大声を出し駆け出した。

 ユーチェアに似た金髪の美少年だが、相変わらず寝癖がひどくソバカスが目立つ。

 

 サナト君は俺達を横切り、後ろにいたザムちゃんの前に立ち、緊張した声で喋りだした。

「あ、あの。【凶黒の魔王】グランザム様ですよね?」

 

「いかにも。今は名を改めザムザと名乗っているがな」

 

「うっわー、すっごーい!本物だー!」

 

 大好きな有名人に会えた様な感激を目一杯表している。

 

「ねぇユーチェア。あいつそんなに有名なの?」

「私はよく知らないけど、【凶黒の魔王】の英雄譚はサナトの一番のお気に入りみたいよ」

 

 ザムちゃんがサナト君を少々煙たそうにしていると、勘の良いジョロッチが何やらザムちゃんに耳打ちをする。

 するとザムちゃんは営業スマイルを浮かべて、色々と話し始めた。

 

 ナイス。これで一番のネックだと思っていたサナト問題は片付きそうだ。

 ザムちゃんには今度何かお礼をしておこう。

 

 

 

 *****

 

 

 

 その晩、村中のエルフが集まり宴が開かれた。

 

 村の広場に設えられた木製のテーブルには、辺境の村とは思えない豪華な食事とお酒が用意され、皆思い思いに楽しんでいる。

 

 俺はユーチェアに経緯を説明しつつ、これから始まる一世一代のイベントに緊張を感じていた。

 こんな時に一発【勇気付与】が欲しくなる。

 

 

 

 宴もたけなわになった頃、スレイダ村長の計らいで俺とユーチェアは一段高くなっている広場の舞台に上がった。

 

 ユーチェアも今から何が行われるかは感づいていて、顔を赤らめ緊張している。

 皆が手を休め静かにこちらを見守る中、俺は懐からこの日のために準備した小さな箱を取り出す。

 

 そして、意を決して想いを伝える。

 

「ユーチェア……」


「は、はい」


「君が森で俺を助けてくれて、この村で一緒に過ごした時間が俺の人生で一番楽しくて素敵な時間だった。これからもずっと一緒にいたい……」


「……」


「結婚してください!」

 俺は箱を開けて指輪を差し出す。

 

「……はい……喜んで」


 元の世界では考えられなかった、人生初のプロポーズ。喜びと共にユーチェアを抱きしめる。

 

 

 

 会場からは拍手喝采。ザムちゃんは「やったね。おめでとう師匠!」と喜び、隣でサナト君が不承不承手を叩く。ジョロッチは感極まって泣き出していた。

 

 

 

 こうして俺はめでたくユーチェアと結ばれ、アドレニック帝国の皇帝として異世界での人生を歩む事となった。 


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