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14エンペラーと呼ばないで

 先の戦争から一週間後、とっととリューンの村に戻りたいのに俺はまだアドレニック帝国にいた。

 

 この一週間の間に、帝都の大通りを練り歩く戦勝パレードが盛大に執り行われ、最大の戦果をあげた俺は一番の主役となり散々もてはやされた。

 

 褒美もしこたま下賜された。授与式は皇帝が不在の為、恐竜ヅラのペロボック宰相が代理をした。

 金貨や宝石、領地なども与えられたが正直邪魔なので、ユーチェアやリューンの村へのお土産分以外はジョロッチに預けて上手いことやってもらう手筈にしておいた。

 

 そして今、帝城の一階にある大きな会議室で何度目かの円卓会議に参加させられている。

 

 上座にはがっしりとした体格の青年、ガウラム・アドレニック第一皇子。その右隣にはまだあどけなさの残る美しい少年、キュレム・アドレニック第三皇子。

 第一皇子の左隣はペロボック宰相、更に左にジョロバケット宮廷魔道士長、そして俺が座っている。

 

 他の面子は戦略会議の時と同じ強面の将軍達と、線の細いコバンザメの様な文官長が数名いる。

 アドレニック帝国は軍事政治の為、文官達は非常に肩身が狭く、あらゆる場面において発言権は皆無に等しいらしい。

 

 そんな豪放磊落な性質の多い将軍達が、熱を込めて議論している議題はとんでもない事に『ダイシ・ヤマダ様をアドレニック帝国皇帝にしよう!』的な事だった。

 

 しかも、それを提案したのは跡継ぎ争いをしていた第一、第三皇子の二人からだと言うから驚きだ。

 ジョロッチから聞いた話だと実は帝国の歴史上、皇帝の座を世襲する方が珍しく、相当の実力を持つものがその座につく事が多いとの事。

 その歴史的事実もあり、皇子達は甚大な力を持つ俺を先んじて皇帝の座へ推挙する事により、先代の息子としてより良い要職の地位を狙っての算段だと推測される。

 

 

 

 

 

「先の戦の所業を見たであろう! 我々が頂く皇帝はダイシ様が相応しい!」

 

「それは認めるが、ダイシ様はまだこの地の参られたばかり。早計ではないか!?」

 

「そんな事は関係ない! かつてこれ程強大な武力を備えるお方がいたであろうか!?」

 

「しかし、それだけでは帝都の民が納得するだろうか!?」

 

「マクドゥル以東の勢力に対抗するためにもダイシ様のご威光は必須!」 

 

 俺をそっちのけで相応しいか否か、皇帝に就くべきか否か、将軍たちが轟々と議論を重ねる。

 

 会議室四方の壁に置かれた椅子には皇子達の派閥の大貴族や、将軍達の参謀連中、ジョロッチの側近の三人も各々議論している為、室内は広いのにも関わらず騒然としている。

 

 俺は黙って杯に注がれたお水をチビチビ飲む他ない。

 

 そんな折、俺の後ろから大きな声で一喝が入った。

 

「貴殿ら面倒くさい事を言うな! 一番強い奴が上に立つ! 我々魔族はずっとそうしてきただろう!?」

 壁際の椅子から立ち上がり叫んだのは元マクドゥル共和国元首・グランザム、改めザムザだった。

 

 一時は牢獄へ上下半身別に幽閉された身であったが、色々とあって右胸にアドレニックへの隷属魔法紋、左胸に俺への隷属魔法紋を施す事により、俺の付き人兼、一番弟子兼、直属の部下となりこの場にいる。

 

 俺に切断された胴は何とか繋がり左腕も生やしたが、額の相角はまだ小さく髪も短い。

 

「貴殿らの中にも、この【凶黒の魔王】と呼ばれたこの俺に敵うものはいまい。その俺が指一本触れられずに屠られたのだ。何を躊躇う必要がある!?」

 更に熱弁をふるうザムザ君に一瞬、場が静まり返る。

 

「貴様が何を偉そうにぬかすか!!」

「上等だやってやる表でろ!!」

「調子乗るなよ!! 燃やすぞ!!」

 立場を弁えない発言に、将軍達の怒号が響く。

 

 あ、やめて、物は投げないで。俺に当たるから。

 

 

 *****

 

 

 と言う訳で、俺が転移召喚されて三ヶ月と二週間とちょっとでアドレニック帝国皇帝の座に就きました。

 

 なんと言う異例のスピード出世。流石、異世界チート無双俺TUEEE。これといった艱難辛苦などなくトップの座を手中に収めた。元の世界じゃ考えられません。皆んなもおいでよ異世界へ。

 

 違う! そうじゃない! 俺が望んでいたのは帝位などではなくユーチェアとの村での暮らし。

 しかし、俺の即位に反対するのは俺自身しかいない。流れに流されNOと言えないダイシに成り下がっている。

 

 会議から三日後、戴冠の儀は謁見の間で盛大に、つつがなく執り行われた。

 神位を持つ巫女っちが、普段とは違う豪華な身なりで戴冠してくれたのだが、俺が終始不満に満ちた眼差しを送り続けると「わしが悪い訳ではないが、なんか……その……スマンのぅ」としょぼくれていた。

 

 その後、都民へのお披露目や祝賀会が行われたが、俺のストレスは貯まる一方だった。

 

 

 

 

 

 

 翌朝、白と金と赤を基調とした皇帝然とした豪華な衣装に着替えさせられた俺は、朝食の席にペロボック宰相、ジョロッチ、グランザム改めザムザを呼んだ。

 

 昔のお金持ちの食卓場面によくある長いテーブルの端で朝食を摂りながら俺は宣言する。

 

「ペロボッ君、俺は取り敢えずリューンの村に行ってくるからあとの事は宜しくね」

 

「巫女神様から話は伺っておりますが、これまた急なご出発で」

 ペロボッ君(恐竜宰相)はトサカをポリポリ掻きながら困り顔をする。

 

「俺からしたら急じゃないよ! 予定より二週間以上も待ってたんだからね」

 

「左様でございますか、すみません。それで、あちらでの滞在はどれ程になりますでしょうか?」

 

「こんな事になっちゃったからさ、ユーチェアをこっちに連れてこれれば良いんだけど。上手く説得できるかどうか……取り敢えず二週間くらいみといてよ。それ以上掛かりそうなら連絡するから」

 

「そうですか……お供の方はどうしますか?戦車なども用意させますが?」 

 

「ううん、進行が遅くなるからいらない。ジョロッチとザムちゃんだけでいいよ。ザムちゃんは置いとくと不味い事しそうで不安だしね」

 

「ハハハ、何をおっしゃいますか師匠。このザムザ、問題行動など起こしませんよ」

 白い歯を見せ自信げに答えるザムザ。

 

「うん、こないだの会議を思い出してみようか? あと師匠はやめてね。何も教える事はないし」

 やんわり突っ込むと彼は真顔になった。

 

「さてと、お腹もいっぱいになったし、そろそろ行こうかジョロッチ、ザムちゃん」

 

「はい、ダイシ様。では私が先導致しますのでついてきて下さい。ペロボック宰相、あとの事は宜しくお頼み申します」

 丁寧に挨拶をするジョロッチを、俺とザムちゃんは部屋の窓から出てバルコニーで待つ。

  

「うむ。くれぐれも気を付けて参られよ。ダイシ閣下を宜しく頼むぞ」

 

 そうして俺達三人はリューンの村へと向かった。

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