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13ケチョンケチョンにしてやんよ

 俺とグランザムは宙空で対峙する。

 

 遠く地上では両軍が激突し、衝撃音と戦士の雄叫びが混ざり合い、地鳴りの様に聞こえてくる。

 

 俺達の周辺だけは静まり、吹き付ける風切り音が大きく鳴る。

 後方で不安げな表情のジョロッチと部下二人が見守る中、グランザムが口を開く。

 

「これ程の強者と間見える事が出来るとは、戦は負けだが僥倖と言うものか。それでは、ぼちぼち行……」

 

「喰らえっ!!」

 

 グランザムが言い終わるかどうかのタイミングで、俺は先制攻撃を仕掛けた。

 

 顕現させたのは尖端が鋭利な鋼鉄の弾丸。拳程の大きさに数は500発。それを至近距離から超高速で奴に撃ち込む。

 

「ぐあぁぁっ!!」

 反射的に二本の剣で何割かの弾丸を逸されたものの、多くを被弾させ腕や脚、腹の肉を抉りとった。

 

 その被害を確認する前に、既に準備しておいた次の攻撃を実行する。

 

「【メテオ・インパクト】!!」

 

 遥か上空から赤赤と熱せられた高温の巨岩が煙の尾を引いて墜ちてくると同時に、グランザムを刈り取り共に地上へと落下する。

 

 激しく重い衝突音に続き、熱せられた巨岩が弾け飛ぶ爆発音が大きく響く。地表には砂埃に透けて巨大なクレーターが出来ているのが見える。

 

「ああ、気持ちいいぃ」

 

 強大な力の行使に顔を弛め、悦に浸る。

 巫女っちがかけてくれた魔法のせいだろうが、まだ体中が熱く破壊衝動が鎌首をもたげ続けている。

 

 

 

 


  

 俺は左腰の剣を抜き、クレーターの中央へ降り立つ。

 隕石の瓦礫がプスプスと煙を上げる。所々まだ赤い。

 

 剣と足先で崩れた隕石を爪弾き、なんとなく奴の死体を探してみる。これで生きてたらバケモンだよなと思いながら。

 

 ガラガラ……少し離れた所で音がした。そっちを見やると満身創痍のグランザムが立っていた。

 

 左腕は肩から千切れて無くなり、腹部には風穴があき、二本の角が頭皮ごと抉り取られている。

 綺麗だった長い黒髪は焼け縮れて短髪になり、青黒い肌は赤い血にまみれている。

 残った右手に持つ剣以外は全て焼失し全裸である。

 

「おまえ、バケモンだなぁ」

 俺は喜悦の表情を浮かべ、グランザムの方へと近づく。

 

「どっちがだよ!?」

 言うやいなや奴は地を蹴り、剣を上段から振り下ろして来た。

 

 俺は半身をずらして左に躱す。それを追いかけるように横なぎの剣閃。バックステップで躱し大きく距離を取る。

 剣術初心者の俺には剣で剣戟を受け流す事など出来ず、身体能力で躱すに留まる。

 

 しかし満身創痍だと言うのに、グランザムの剣先は鋭い。このまま躱すだけではジリ貧になってしまうので反撃に出る。

 

「【爆龍炎】!!」

 左腕を突き上げ、龍をかたどった炎を奴に向けて放つ。

 俺は炎龍のあとを追い、間合いを詰め剣戟を見舞う。

 

「むぅっ!!」

 炎はグランザムにぶつかり霧散する。思った通りダメージはない。同時に俺の上段からの攻撃を難なく剣で受け止める。

 

 構わず俺は宙に浮き、角度を変えながら連撃を叩き込む。タウンゼントとの訓練の時と大差はない。しかし、今の俺は冴え渡っている。

 

 連撃する事で上段の攻撃を意識させておき、虚をついて着地し下段からの薙ぎ払いへ切り替える。

 低い姿勢で一回転し、遠心力と共に奴の右脇腹へ斬り込む。

 剣で受けられるが満身創痍の右手一本。止められるはずも無く、俺の剣はグランザムの胴を両断した。

 

 分断された下半身が倒れ込み、その上に上半身がドサリと落ちる。

 

「お、俺の負けだ。ゴフッ、全く歯が立たなかったな」

 吐血しながらグランザムが自嘲気味に負けを認める。

 

 その時、それを見下ろしていた俺は、急に血の気が引くのを感じた。さっきまで火照っていた身体が、寒気すら感じる。

 

(あれ? なんだ、これ?)

 

 足元で大量に血を流し、上下で折り重なるグランザムを見ると急に怖気が込み上げてきた。

 巫女っちの【勇気付与】の効果が切れたのだ。

 

 俺は頭を抱えてその場にしゃがみ込み、震えだした。

 

 憶えている。ハッキリと憶えている。感情の昂りのままここ迄飛んできて、思いっ切り何度も無属性魔法をぶっ放して、何万という敵兵を殲滅した。

 

 目の前に倒れているグランザムに対しても、力を行使してその快楽に浸り、喜びのもとに闘った事を。

 

 そして今、やってはいけない事をやってしまった罪悪感と、自身が行った残忍な行為に対する恐怖感が、大きくこの身に襲い掛かってきている。

 

 これは、あれだ、あれによく似ている。

 ベロンベロンに泥酔して、気が大きくなって色々とやらかしてしまった明くる日、二日酔いの中で死にたくなる程後悔し、自責の念に苛まれるやつだ。

 それの拡大版だ。

 

「あああああああ、なんて事をしてしまったんだ……」

 

「お、おい。どうしたんだ?」

 真っ二つにされながらも、俺の急激な変化に戸惑い心配するグランザム。変な奴だ。

 


 

 


 

「ダイシさまー!!」

 戦闘後の俺の異変に気付いたジョロッチとその部下が駆け寄ってきた。

 

「ダイシ様。大丈夫ですか?」

 俺の肩を抱き支えながら顔を覗き込む。

 

「あああああ、ジョロッチィィー」

 今にも泣きそうな顔でジョロッチを見上げる。

 

「何処か痛いですか? お怪我はありませんか?」

 

「ううん、俺は何ともないよ。死にそうなのはあっち。俺はとても酷いことをしてしまったんだぁ」

 

「大丈夫です。あの方は魔族の中でもかなりの上位者なので、もっと細切れにして焼かないと死にません」

 サラッと酷いことを言う。

 

「あえ? そうなの? でも、沢山の敵兵の命を奪ってしまったし……」

 

「何をおっしゃいますか。ダイシ様が歴然たる力差を見せてくれたからこそ、戦死者が少なく済むんですよ。今回は恐らく想定合計戦死者の三分の一で済みます」

 

「そうなの? 結果的に割りといい事しちゃった感じ?」

 

「そうですとも。最良の結果です」

 

 胸を張って答えるジョロッチに少しばかりは気が安められた。

 

「そっか……ありがとう、ジョロッチ」


「それでは一旦、砦まで戻りましょう。巫女神様も心配なさっているでしょうし」


「う、うん。あの、グランザムって人はどうするの?」


「もちろん、敵国の長として捕らえさせて頂きます。丁度いいので上下半身を分断したまま連れていきます。ほっとくと自己再生能力でもとに戻っちゃいますからね」

 

 そう言うと背後で従う、ヨキームとビンスミに指示を出して捕縛させる。魔道士然とした二人の女は呪文が描かれた厚手の包帯で、グランザムを上下半身毎に巻き上げる。

 彼はそれを静かに受入れているが、鋭い眼光の生きた瞳は俺を睨み続けている。それは怒りの感情なのだろうか。

 

 

 *****

 

 

 砦につく頃、戦闘は終盤に差し掛かっていた。マクドゥルの兵士は敗走したり捕らえられたりし、反撃の力は底を尽きているようだ。

 

 俺とジョロッチが砦の一階部分に設けられている会議室に入ると、巫女っちが満面の笑みを浮かべて迎えてくれた。

 

「おおーっ、ダイシー! 良くやったぞ! この上ない働きじゃったぞーっ」

 と言って俺の肩をバンバンと叩いてくる。

 

「全部、巫女っちのおかげだよ、さすが神様。ところで約束憶えてる?」

 

「おう、もちろんじゃ。ひとまずはこれで大事も片付いたし、お主はあの村へ戻ると良い」

 

 その時、ジョロッチが少し悲しそうな顔をしたのが気にはなったが、予定通り事が進みユーチェアのもとへ戻れる事に俺は安堵と喜びを感じた。

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