12ガクガクブルブルはじめての戦場
アドレニックに戻ってきてから大変だった。
マクドゥルとの戦争に向けて毎日の様に戦略会議が開かれ、俺も強制参加させられた。
悪魔面やトラ頭の各軍の将軍15名が喧々諤々と熱い議論を繰り広げる。俺は何を話してるのかさっぱり解らず、かつての学生時代の授業のように睡魔と闘っていた。
ジョロッチ曰く、俺は遊撃手として自由に戦えば良いとの事だが、下手して後で怒られないか心配だ。
あとは俺の力を効率よく使う為の訓練と、個人的な戦術の座学が行われた。慣れない詰め込みに毎日ヘトヘトになっていた。
そんなこんなで一週間が過ぎ、予定通り開戦となった。
*****
戦場はアドレニック帝国から東、マクドゥル共和国との間にあるイオナ平原。乾燥しきった、だだっ広い荒野に両軍が砦を構え睨み合っている。
アドレニック軍12万。マクドゥル軍18万。
敵軍の方が6万も多いが、アドレニックは統率のとれた巨人兵や騎馬兵、特殊装甲騎士など個々の戦力が高いから大丈夫ですとはジョロッチの弁。
しかし此方もあちらも見渡す限りの兵士達。
その壮大な景色を眺め、俺は砦の上でブルってた。
「ジョロッチー。俺やれるかなー?大丈夫かなー?」
金色のプレートアーマーに真紅のマント、両の腰に名工が叩き上げた殺傷能力がすこぶる高い宝剣を装備させられた俺は、生まれたての子ヤギの様に足を震わせていた。
「大丈夫ですよ。戦闘力だけで言えばこの戦場でダイシ様が一番ですから」
魔道士用の蒼い軽量アーマーを纏ったジョロッチは、いささか緊張した面持ちで勇気付けてくれる。
遊撃手として立ち回る予定の俺の補助にジョロッチとその部下の、タウンゼント、ヨキーム、ビンスミの三人がついててくれる。
三人も口々に「大丈夫です!」「ダイシ様ならやれます!」「私達もついてます!」と鼓舞してくれるが
「う、うんー」
ビビり過ぎて情けない返事しかできない。
「なっさけないのー! いっつもわしに食ってかかってくる時の勢いはどうしたのじゃ?」
見かねた巫女っちも発破をかけてくる。
「そんな事言うなら巫女っちがやればいいでしょー」
「阿呆。わしは戦闘には向かん。だからお主を召喚させたんじゃ」
「………」
そんな事を言ってる間に戦場の中央で両軍の代表による(形式だけの)宣誓も終わり、いつ戦闘開始になってもおかしくない状態となった。
「ったく、しょうがないのー。ダイシ、こっち来い。わしが勇気の湧く魔法をかけてやる」
おずおずと巫女っちの側に行き魔法をかけてもらう。
巫女っちは俺の胸の辺りに手のひらを当て、魔法を発動する。
「【勇気付与−ブレイブリーグラント】!」
身体の芯がじんわり熱くなるのを感じる。
「どうじゃ?」
「ん? ああ。良くなったかも。巫女っちもっとかけて」
「おお、そうか! なら幾らでもかけてやるぞ!」
「【ブレイブリーグラント】【ブレイブリーグラント】【ブレイブリーグラント】【ブレイブリーグラント】【ブレイブリーグラント】【ブレイブリーグラント】…………」
*****
俺は黒曜石で造られた砦の屋上で、両腕を組み勇壮な面持ちで彼方を見つめる。
「ジョロッチ。戦闘開始の合図はまだか?」
「ダイシ様、もう間もなくかと?」
「フフフ、滾る! 血が滾るのだ! 早く開放させてくれと俺の血が騒ぐのだぁーーーーーっ!!」
「ありゃ〜、ちょっとやり過ぎたかのぅ?」
巫女っちの勇気付与を受けて、さっきまでの臆病風が嘘みたいに掻き消え、俺は戦いたくて仕方ないほどに熱く燃え上がっていた。
「フゥー、フゥー、フゥー」
「ダイシ様? 突っ込み過ぎてはいけませんよ。本軍の出方と同調して戦って下さいね」
「フゥー、フゥー、フゥー」
魔法のせいで興奮し過ぎて敵軍に突っ込む事しか考えていない俺の耳には、ジョロッチの忠言は届いていない。
その時、アドレニック軍の先鋒隊の一軍が雄叫びをあげ進軍し始めた。閧の声が瞬く間に拡がり、軍全体が一つの生き物の様に動きだした。
それに反応してマクドゥル軍も動き出す。
戦闘開始だ!!
「うおっしゃー!! 行くぞコラァァァー!!」
俺は砦のへりを蹴り、マントをはためかせ飛行魔法で敵軍へと飛び立つ。
「あぁっ! ダイシ様!!」
イキナリ飛び出した俺を追いかけるジョロッチとその部下達。しかし、俺は気にも留めない。
自軍の先鋒隊も抜き去り、俺はグングンと敵軍へ近づく。
黒い塊に見えていた敵軍が人影の集合体程度に目視できる迄に近づくと、俺に向かって無数の矢が飛来してきた。
「しゃらくせぇっ!!」
矢に気づいた俺は空中で静止し、身をかがめ両手を右の腰に置き魔力を溜める。
「かー」
魔力が凝縮し両掌の間で青白い光を放つ。
「めー」
光は次第に大きくなり手から放射状に溢れ出す。
「○ー」
魔力が凝縮と膨張を瞬時に繰り返し、俺を中心に膨大な光量で周囲を照らす。
「めー」
はちきれんばかりに溜まった魔力は、出口を求め激しく蠢動する。
「波ぁぁっーーー!!」
放たれた狂気の閃光は、空中の数多の矢を蒸発させそのまま敵軍を舐める。
閃光が描いたのは一本の道だった。おびただしい数の敵軍の間に死体が重なって左右を分断する道が出来た。
まだ距離もあったから一万も削れていないだろう。
道の左右に位置する敵兵達は、目の前で起きた惨劇に動揺し、隊列を乱している。
俺は上空から近づき、追撃を仕掛ける。
先ず左側。
装着している金色の鎧の胸部に埋め込まれている半球体の水晶(装飾)に魔力を集める。
方法と原理はさっきと同様。
巨大に膨れ上がった魔力の光を、敵軍にぶち込む。
「喰らえっ!! ユ○・ビーーーームッ!!」
胸元から奔り出た極太の蒼い閃光は、着弾時に広範囲に拡がり敵を焼き尽くす。
(さっきのと合わせて2万はいったか!?)
正直、見た目で兵数など解らないから上空から見て消失した面積での概算だが。
さてと、次は右側だな。
くるりと方向を変えると「次は俺らが殺られる!?」と慄いた敵兵達が俺をめがけて魔法や矢を放ってくる。
「ハハハハッ!! ぬるい、ぬるいっー!! メガフレアーッ!!」
右手を突き出し、魔力の閃光と共に爆発のイメージを加える。
先程よりは細い一筋の閃光が通った後、数瞬の時間差で爆発が起こる。圧し潰すような力強さはないが、効果は抜群だ。
爆発や爆風に巻き込まれた敵兵から、多くの断末魔が聞こえてくる。
(ん? こっちの方が起動時間も短いし楽だな)
直感的に悟った俺は敵軍に向かって乱発する。
「メガフレア!! メガフレア!! メガフレアァーッ!!」
繰り出される閃光と爆発。地上に打上げられた花火は綺麗な光と轟音を奏で、敵陣を灰燼と化した。
面積換算で6万といったところか?
「ダイシさまーっ!」
「おお、ジョロッチ。遅かったな」
遅れてやってきたジョロッチ以下三名が目の前の光景に息を飲む。
「こっ、コレは……ダイシ様が……」
「そうだ。思ったより上手くやれたんじゃないか?」
「は、はい……想像以上です……」
あれ? もっと絶賛してくれると思ったが?
「まぁいい。まだ血の滾りが収まらないからな、もっと狩りに行こうか……」
と言って移動しようとした時、俺が消し炭にした敵陣の中から人影が動くのが視界に入った。
そいつは両手に剣をぶら下げて宙に浮き、ゆるりと此方へ向かって来る。
距離が縮まりそいつの姿が明らかになる。
2メートル程の長身の男。黒髪を胸の辺りまで伸ばし、細見の鎧の上に今は煤けているが白いロングコートを羽織っている。
肌は青黒く額から太い角を二本生やしている。
瞳は燃えるような赤に、口を閉ざしていても除く牙。
鼻筋が通った面長のイケメンだ。
「はぁーぁ。長年かけてここ迄こぎ着けたのによぉ。もう敗戦確実じゃねーかコレ」
長髪の角男は暢気な口調で喋りだした。
「誰だおまえ? あの中をよく生きていたな?」
男はふぅーっとため息をつき、名乗りだす。
「俺はグランザム・ユリキシス。マクドゥル共和国元首。我が軍に甚大な被害を与えた貴殿の名を伺いたい」
「俺はダイシ。ダイシ・ヤマダだ」
「聞き慣れない名前だ。アドレニックの人間じゃないな? まぁいい。おい、そこの!」
剣先で後ろのジョロッチを指す。
「は、はい」
「この度の戦、マクドゥルの負けだ。と言ってもうちの奴らは最後まで戦おうとするだろう。だから出来るだけ殺さんでやって欲しい。頼めるか?」
「はいっ。畏まりました」
ジョロッチはタウンゼントに指示し、本陣へ伝令に行かせる。
「それと、ダイシとやら。何の働きも出来なかったこの敗戦の将の頼みを聞いて欲しい」
「何だ? 言ってみろ」
「貴殿を極大の力を持つ勇者と見込んで、決闘を申し込む!!」
俺は口の端を釣り上げてニヤリと嗤う。
「望むところだ!!」




