11ドキドキッ♡はじめての空間転移
戦車に乗り込みアドレニック帝国への帰路に着く。
黒く異様な軍団の列がゆっくり進む。
戦車の内部は非常に快適だった。ほぼ移動するホテル。20畳程の室内にリビングセットとベッドが2つ、壁際には落下防止を工夫した棚も建てつけられている。
乗員は俺とジョロッチと巫女っちの三人なのでとても広く感じる。振動が少し気になるが、かなりくつろげる。
俺とジョロッチはソファーに向い合わせて座り、食事を摂りつつ現状の質疑応答をする。
巫女っちはベッドに横たわっているが寝息は立てていない。
「でもジョロッチ、なんで陸路で戻るの? アドレニックの位置とか分かんなんけど、飛んでった方が早くない?」
「リューンの村からアドレニックは、遥か南西の方角にあります。飛んで行けなくも無いのですが、ニ週間程度かかりますし魔力の消費も大きなものになります。今から向うのはリューンの村とサテラの街の間にある、空間転移門です。そこを通れば3日で到着します」
サテラの街はリューンの村に一番近い街だ。話には聞いていたけど、俺は行ったことない。
「おお、空間転移しちゃいますか。こんなに大勢でも通れるんだ」
空間転移にときめく俺。
「はい、ちょっとした王城の城門程の大きさがありますから、余裕ですよ」
「でもさー、どうしてこんな軍隊連れて来ちゃったの?村が侵攻受けるかと思って焦っちゃったよ」
「ダイシ様がどういった状況であったか不明でしたので念のために。これでも最低限の数なんですよ」
ジョロッチはにこやかに淡々と答える。
そうなのか。まぁ全部合わせても150くらいの兵数か。しかし実際みると意外と多く見えるもんだな。戦争だとどうなってしまうんだろう。
「で、その戦争する国ってどんなの? なんで戦争になるの?」
「マクドゥル共和国と言いまして、昔、アドレニック帝国の統治から逃れた様々な魔族の部族が寄り集まって出来た国です。我が帝国と同じ平野の西方にあるのですが、昨年、アドレニック皇帝が崩御しましてから戦機を狙っていたようなのです」
「え? 今って皇帝居ないの?」
「はい、現在は第一、第三皇子が帝位を求め熾烈な争いをしている最中です。帝国が一枚岩になり切れぬ所を攻められる形となってしまったのです」
少し顔に陰を落すジョロッチ。
第ニ皇子はどこいっちゃたのか、気になるところもあるけどまた今度にしよう。
窓から外に目をやると辺りは日が落ち暗くなっていた。
「ジョロッチ。外、暗くなってるけど野営とかしないの?」
「はい、夜もこのまま進みます。トロールも巨人兵もアンデッド騎士もインプも皆体力ありますし夜目が効きますから。明日の朝には転移門へ到着するでしょう」
人使いっていうか魔物使い荒っ。そんなものなのか。
「それで開戦はいつになるの?」
「そうですね、早くて一週間後、遅くても二週間後といったところでしょうか。なにせマクドゥル共和国は各部族が集まった烏合の衆。色々読めないところがあります」
一週間か〜、即実戦って感じだな。まぁ三ヶ月も行方不明だったしな。
「マクドゥル共和国って事は王は居ないってことだよね?」
「はい。今はグランザムと言うとある部族の長が元首となっております」
「そいつやっつければ終わりって訳にはいかないんだよね?」
「そうですね。その辺りが共和国の厄介なところです」
色々考えても仕方ないか。出たとこ勝負だ。
「他にご質問ございませんか?」
「うん、えっとそれじゃ〜」
その後も細かな事をいくつも聞いたが、途中で睡魔に襲われた俺はそのままソファーで寝落ちした。
*****
「ん、ん〜」
リューンの村ですっかり規則正しい生活になった俺は、朝の気配を感じ目覚めた。
軽く伸びをして身体を起こすと、窓から外を眺めるジョロッチがいた。
「あ、おはようございますダイシ様。もう少しで空間転移門に到着しますよ」
「おはよ、ジョロッチ。寝てなかったの?」
「ええ、誰か起きてないといけませんですし、私は一日や二日なら寝なくても平気ですので」
ベッドに目をやると巫女っちがお腹を出して爆睡していた。くわーくわーと可愛いイビキをかいている。
「転移門くぐる時、外から見たいんだけど出来る?」
「はい。奥の階段から戦車上部のデッキに出られますので」
ジョロッチは部屋の奥の階段を指差す。
「へぇー、ちょっと見てくる」
階段をのぼり天井にある扉を上へ開くと外の空気が流れ込んできた。俺はそこから上半身を出して周囲を観察する。戦車の最上部はけっこう高く、見晴らしがよかった。
朝の冷たい風が寝起きの頭に心地良く染みる。
開けた扉の上に座って、上空を忙しなく舞うインプ達を眺める。今は森林沿いの道を進んでいるのだが、時折その森へインプ達が入っていく。
何してんだろ? と見ていると、そのうちの一匹が自分より大きなイノシシの様な獣をその鋭い鉤爪の両足で捕まえて森から出てきた。
インプはそのまま後ろの巨人兵へと向かって獲物を投下する。
ナイスキャッチ。巨人兵の一体が大きく口を開け獲物に喰らい付く。その凶暴な牙と顎門で咀嚼する。
そうか、夜な夜なこうやってエネルギーを補給しながら、行軍してたんだな。有り難う、バケモノたち。
そうしていると、進行方向に森の開けた部分が見えてきた。そこには何やら石造建造物の陰が見切れている。近づくに連れてその形がハッキリする。
門だ。ジョロッチが言ってた通り、戦車も巨人兵も余裕で通れそうな大きな門。黒くくすんだ門扉には苔や蔦が貼り付いている。繋がる左右の防壁は10メートルくらいでボロボロに崩れている。
廃墟感が半端なく、正直おもってたんと違う。
門の前まで進むと全軍停止し、ジョロッチが戦車から出て、近くの小屋に入っていった。
暫くすると三人の神官らしき人達と小屋から出てきた。
「ダイシさまー。今から門を通って転移しますので、しっかり掴まっててくださいねー」
下から叫ぶジョロッチに手を振って答える。
いよいよワープ初体験だ。おれは期待に胸を膨らませる。
神官の人達が門の前で何やら作業を行う。
すると、鈍く重い音と共に、門がひとりでにこちら側へ開き始めた。
開いた門からは向こう側の景色は望めず、パステルな虹色の膜が光り輝きながら内側一面に貼り付いている。カラフルな光の膜は絶えず渦を巻くように蠢いている。
(うわ~っぽいっぽい。こうでなくっちゃ)
眼前に拡がる不思議な光景にワクワクする。
ジョロッチが戦車に乗り込むと、転移門に向かって動きだす。いよいよだ。
先ずは戦車を引くトロール達が光の膜へと入っていく。俺はデッキからそれを眺める。戦車の先端、前輪部分と徐々に転移門を通過する。
そしてついに光の膜は俺の目の前に迫ってきた。
心踊らせながら一時も目を離すまいと瞬きをせず、その瞬間を待つ。
ワープ空間の道はどんな派手な演出があるのか?
身体にかかる影響は?
やがて俺は光の膜に触れ、転移門を通過した。
???はぁっ???
視界に入ってくるのは先程までと変わらぬ森林風景。
若干、樹木の種類や背丈が違うのかも知れないが、言われなければ解らない程度。
俺はグルリと周りを見渡す。
後ろには転移門。そこから後続がゾロゾロ出てきている。
「…………」
階段を降りて部屋にいるジョロッチの元へ向かう。
「ねぇジョロッチ。もう転移したの?」
「はい。あと少しでアドレニックに着きますよ」
「空間転移ってもっとこうブワーッとかキラキラーとか眩い演出はないの?」
「はぁ? 特に何もないですけど……」
「マジかぁ〜。期待はずれだぁ〜」
俺は大袈裟に肩を落として落胆した。
巫女っちはまだ寝てる。




