追加:騎士の嫉妬
彼女は自分に好意を持っていた。それは絶対的なものだったはずだ。親にも愛されなかった少女は懸命に涙を堪えていた。彼女に優しくするのは騎士として当然のことだ。その彼女から信頼以上の好意を得られるのは自分でも当然だろうと考えていた。
アイラが学園に入ってきてからは、彼女を構えることに幸福を感じた。彼女の視界に自分を移すことに喜びを感じた。
妹のリリーが嫉妬を感じないわけがないだろう。
それでなくても感情を見せない彼女は完璧に装っていたが、確信的に自分に対する好意は感じていた。
じりじりと嫉妬をしているだろうと感じながらも、彼女の心は今更自分から離れていかないことだろうと思っていた。彼女に微笑むこともせず、アイラにのみ話しかけ、笑いかけ、他に奴らと競った。どれだけ彼女の関心をかえるか。
心地よかった、アイラの声が、微笑が。後悔などしないだろうと思っていた。
できることなら、アイラを妻にとも考えていた。彼女のためなら領主の仕事も手伝うだろうし、騎士の道も諦めることもいとわない。
彼女を支えていけることはすばらしいことだ。
彼女に選んでもらうために必死だった。気づけはガーデンパーティー。
そこで、リリーは予想外のことに婚約を発表した。王太子との婚約。将来の王妃としての教育は昔からされている。その中でも、最有力として揺らぎなくなったから正式な婚約を結んだのだ。それでなくても、人材を確保するために保険として第二王子の婚約者だったのだ。
王太子に話しかけられて、恥ずかしげに微笑み、何かを返す初々しい姿は今まで見たことがないものだ。年相応のその姿に酷く驚いた。
一体、何をそんなに楽しそうに話しているのだろう。
そんなに、その男と話して楽しいことがあるのだろうか。
不敬にもそんなことを考えてしまった。
今までに見たことのない彼女の表情。
アイラを見る冷ややか過ぎる王太子の視線。
リリーの生い立ちを知るのであれば、正常な反応かもしれないが、アイラの愛らしさを知ってはとてもそんなことは考えられないはずだ。
討伐を考えるほどの害獣だと、王太子が非公式に口にしたことを第二王子がいきり立っていた。彼らにとってはそうなのかもしれない。どうして、アイラの価値がわからないのか不思議だ。
あれほど、嫌がっていたのに、陛下も第二王子の下ることを認めるほどだ。
胸に広がる嫌なもの。
その答えは、わからない。
リリーだけは別の世界のように幸せな空気を纏っている。
こんなにアイラの視線を奪うために必死なのに、関係ないと笑っているのが許せない。
理不尽だ。
お前はオレのことを好きだったんじゃないのか。
絶対的な自信が崩れていく。