表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
99/177

■第96話 小さきもの大航海編 鳥に攫われる

海は、いつも何かを隠している。

静かな水面の下に、まだ見ぬ命が息づいている。

そして空もまた、油断のならない場所だった。


■ 火山島を出る

翌朝、船が火山島を離れた。

ジュウベェが甲板に立っていた。

頭から足の先まで、包帯でぐるぐる巻きだった。

「……ジュウベェ、大丈夫?」

「問題ないでござる」

「絶対問題あるやろ!!」

「動けるでござる」

「包帯が動いてるだけやろ!!」

桟橋にレッドが立っていた。

ジュウベェを見て、笑いを堪えた。

「……そのなりで来たんか」

「参上したでござる」

「昨日より増えてるやないか、包帯」

「念のためでござる」

レッドが我慢しきれずに笑い出した。

「……また来い」

「来ます」さくやが言った。「荷物も持ってきます」

「包帯も持ってこい。大量に」

「ジュウベェのためだけに?」

「次もモーガンに挑むやろ、こいつ」

ジュウベェが真顔で言った。

「……挑むでござる」

「ほら言うた」

さくやが苦笑いした。

「レッド、モーガンのこと、よろしく伝えといてください」

「伝えたらなんて言うかな」レッドが笑った。「あいつ、お前らのこと気に入ってるで」

「どこで?」

「九回吹き飛ばした相手を気に入るやつや、あいつは」

「……変わってるな」

「そうや」レッドが笑った。「だからオレもついてるんやけどな」

船が動き出した。

「レッド!!」

さくやが振り返った。

「また来ます!!絶対来ます!!」

「待ってるで」

レッドが手を振った。

笑顔だった。

目も笑っていた。


■ モーガンの見送り

船が沖に出た時、小高い丘を見上げた。

固まった。

丘の上に、ごついのがずらりと並んでいた。

モーガンが先頭に立って、こちらを見ていた。

「……全員来てるやないか」

「見送ってくれてるんやな」

さくやが手を大きく振った。

リアンも振った。

ジュウベェは包帯が邪魔で片手しか上がらなかったが、それでも振った。

モーガンは動かなかった。

ずらりと並んだごついのも、誰一人動かなかった。

ただ、そこに立っていた。

「……不器用やな」

「せやな」

船が進んだ。

火山の煙が、遠ざかっていった。


■ 白いくじら

沖に出て、しばらく経った頃だった。

リアンが舵を握りながら言った。

「……あれ」

「何?」

「海の色が変わった」

さくやが海面を見た。

確かに変わっていた。

深い青から、不思議な緑がかった色に。

「……なんで?」

「わからん。でも——」

リアンが言いかけた時、海面が盛り上がった。

ゆっくりと、巨大な何かが浮かび上がってくる。

白かった。

真っ白だった。

くじらだった。

船の横に、巨大な白いくじらが浮かび上がってきた。

でかかった。

尋常じゃないでかさだった。

「……でか」

さくやが言葉を失った。

「船の、何倍あるの……」

「……十倍はある」

リアンの声が震えていた。

「リアン?」

「……嘘やろ」

「どうしたの?」

「これ——」リアンが舵から手を離した。「これ、伝説のくじらや」

「伝説?」

「白いくじら。この海に一頭だけいると言われてる。オレが子どもの頃から話は聞いてたけど、まさか本当におるとは——まさか会えるとは——」

リアンの声が震えていた。

今度は恐怖ではなかった。

「……信じられへん」

白いくじらが船と並んで泳いでいる。

巨大な体が水面すれすれを漂い、白い背中が陽光を受けてぼんやりと輝いていた。

その目が、こちらを見ていた。

やがて、くじらがゆっくりと体を傾けた。

「……え?」

船が持ち上がった。

「……ええ!?」

くじらの背中に、船が乗っていた。

「乗せてる!!くじらが船を乗せてる!!」

「……揺れてへん」

ジュウベェが静かに言った。

確かに揺れていなかった。

くじらは船を背中に乗せたまま、ゆっくりと泳ぎ始めた。

波もなく、揺れもなく、ただ静かに、海を進んでいく。

誰も何も言えなかった。

さくやが海面を見た。

くじらの白い体が、水の中で光っていた。

「……きれいやな」

リアンが呟いた。

涙をこぼしていた。

「リアン、泣いてる?」

「泣いてへん」

「泣いてるやん」

「……子どもの頃から、ずっと会いたかったから」

さくやが黙った。

くじらはしばらく泳いだ。

そしてゆっくりと体を傾け、船を海面に戻した。

一度、大きく息を吐いた。

潮が上がった。

さくやたちが全員濡れた。

「……冷たい!!」

くじらがゆっくりと海に沈んでいく。

白い体が、青い海に消えていった。

しばらく誰も何も言えなかった。

「……また会えるかな」

さくやが海を見つめながら言った。

「わからん」リアンが言った。「でもあいつは、ずっとこの海にいると思う」

「会えてよかったな、リアン」

リアンが笑った。

まだ少し目が赤かった。

「……うん」


■ 無人島でキャンプ

夕方、小さな無人島に船を寄せた。

焚き火を起こした。

リアンが魚を焼いた。

さくやが木の実を集めた。

ジュウベェが薪を割った。包帯がほどけそうになった。

火を囲んで、三人が座った。

「……今日だけでどんだけすごいもん見てん」

さくやが言った。

「モーガンとの別れ、白いくじら——」

「包帯も追加でお願いするでござる」

「それはすごくない!!」

波の音が続いた。

焚き火が揺れた。


■ 海の拠点から連絡

夜、現場監視システムに連絡が入った。

レイナからだった。

「さくや、聞こえますか」

「聞こえる。どうしたの?」

「レッドが——レッドの島の方々が、海の拠点に到着しました」

さくやとリアンが顔を見合わせた。

「……もう来たんや。はやいな」

「それで」レイナが少し間を置いた。「爆音社長のところへ案内したんですが」

「うん」

「爆音社長が、レッドを小突いて——」

「あー」

「レッドの皆さんが、半泣きになっています」

さくやとリアンが同時に笑い出した。

「相変わらずやなぁ、爆音社長」

「リトルレッドたちも災難やな」

「笑いごとではないんですが……」

「ごめんごめん。でも大丈夫、あの洗礼は通らなあかんから」

「……そういうものですか」

「そういうもんや。レッドによろしく言っといて」

「……伝えます」

笑い声が夜の無人島に響いた。

焚き火が揺れた。


■ 鳥の島

翌朝、航海を再開した。

しばらく進むと、大きな島影が見えてきた。

朝もやの中に浮かんでいる。

これまで見てきたどの島よりも大きく、山が高く、深い森に覆われていた。

「……でかいな」

「港が見えへん」リアンが言った。「無人島かもしれん」

さくやが空を見上げた。

島の上空に、無数の鳥が舞っていた。

白い鳥、黒い鳥、色とりどりの鳥。何百羽、何千羽もの鳥が島の上を旋回していた。

「……鳥の島や」

「こんなに鳥がおる島、見たことない」

「上陸してみよう——」

リアンが言いかけた時だった。

一羽の大きな鳥が、船に向かって降りてきた。

翼が広く、爪が大きかった。

「……さくや、動くなよ」

「うん——」

大きな爪がさくやの服を掴んだ。

「——え」

さくやが宙に浮いた。

「さくや!!」

「え、え、えええええ!!」

鳥がさくやを掴んだまま、島へ向かって飛んでいく。

「ちょっと待って!!おろして!!おろして!!!」

鳥は止まらなかった。

ジュウベェが舷側に立った。

包帯がほどけた。

「……小型船を出すでござる」

「急いで!!」


■ 救出

さくやは島の大きな木の上に運ばれた。

かなり高いところだった。

鳥が巣を作っている枝の上に、そっと置かれた。

「……なんで」

鳥がさくやをじっと見た。

首をかしげた。

「……珍しいから持ってきたんか」

鳥がまた首をかしげた。

「おろして」

鳥は動かなかった。

さくやが下を見た。

めちゃくちゃ高かった。

「……降りられへん」

しばらくして、下から声が聞こえてきた。

「さくや!!」

リアンとジュウベェが木の下に来ていた。

「無事か!?」

「無事やけど高い!!降りられへん!!」

「今行くでござる!!」

ジュウベェが木に登り始めた。

包帯が枝に引っかかった。

「……でごぁ」

「ジュウベェ!?」

「……問題ないでごぁ」

「問題あるやろ!!」

なんとか登り着いた。

鳥が今度はジュウベェを見た。

包帯だらけの謎の物体を、首をかしげて眺めた。

「……拙者は珍しくないでござるか」

鳥が少し考えるような顔をした。

それからゆっくりと翼を広げ、飛んでいった。

「……行った」

「行ったな」

「……なんやったんやろ」

さくやが鳥の飛んでいった空を見上げた。

色とりどりの鳥が、島の上を舞っていた。

「……きれいな島やな」

「そうやな」ジュウベェが言った。「ただ、次は攫われないようにするでござるよ」

「気をつける」

下からリアンが叫んだ。

「……二人とも、降りてこれる!?」

「降りられる!!」

「よかった!!で——降り方わかる?」

二人が顔を見合わせた。

「……わからん」

「わからんでござる」

「どうすんねん!!」

島に、さくやの笑い声が響いた。

鳥たちが一斉に鳴いた。

まるで一緒に笑っているようだった。




#小さきもの大航海編

#包帯ぐるぐる巻きのジュウベェ

#次もモーガンに挑むでござる

#目も笑っていたレッド

#ずらりと並んで見送るモーガン

#伝説の白いくじら

#くじらが船を背中に乗せて泳ぐ

#リアンの涙

#リトルレッドたちが爆音社長に小突かれて半泣き

#降り方わからん




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ