■第93話 小さきもの大航海編 大きな船が、海へ出る
小さな貿易が、大きな夢になった。
港が変わり、船が変わり、世界が広がっていく。
それを見ていた二人は、もっと先を見ていた。
■ 師匠と爆音社長——議論する二人
コントロールルームに、師匠と爆音社長がいた。
モニターにリアンの貿易船の映像が映っていた。
港に着いた小さな船。降ろされる荷物。大騒ぎする小さきものたち。
爆音社長が腕を組んだ。
「……見てたら思うんやけどな」
「何ですか」
「あの船、小さすぎひんか」
師匠がモニターを見た。
「小さいですね」
「もっとでかい船作ったら、もっとたくさん運べるやろ」
「そうですね」
「港もな、あのままやと大型船入れへん」
「拡張が必要ですね」
「倉庫も要る。荷物を一時保管できるくらいでかいやつ」
師匠がほほえんだ。
「爆音社長、随分具体的ですね」
「貿易船見た瞬間から考えてたんや」爆音社長が笑った。「小さきものの世界、もっと広げられるで」
「同感です」
師匠がモニターから目を離さずに言った。
「やりましょう」
■ 海の拠点——変わり始める
翌日から、海の拠点が動き始めた。
まず、港の拡張工事が始まった。
桟橋が伸びていく。一本、また一本。大型船が接岸できるよう、幅も深さも広げられていく。クレーンが設置され、重い荷物を積み下ろしできるようになった。
「……港、でかくなってるな」
レイナが工事の様子を眺めながら言った。
「大型船が入れるようにするらしいです」
「大型船って……どのくらい?」
「今のリアンの船の、何倍も」
次に、倉庫群の建設が始まった。
港の裏手に、次々と倉庫が建っていく。
一棟、また一棟。
倉庫は巨大だった。小さきもの仕様とはいえ、港全体を見下ろすほどの高さがある。壁は白く塗られ、屋根は赤い。倉庫と倉庫の間に整備された通路が走り、フォークリフトが行き来できるようになっていた。
「……でかいな」
「五棟建てるらしいです」
「五棟!?」
「それだけ荷物が来るということですから」
レイナが倉庫群を見上げた。
白い壁が空に映えていた。
■ 完成した港
工事が終わった日の朝、レイナが港に立った。
変わっていた。
以前の港とは別物だった。
桟橋が何本も伸び、大型船が何隻も同時に接岸できる。クレーンが何基も並び、荷物の積み下ろしを待っている。港の裏手には巨大な倉庫が五棟、整然と並んでいた。
倉庫の扉は高く、広く、大きな荷物でも難なく通れる。倉庫の中は冷暗所になっており、食品から工芸品まで何でも保管できるようになっていた。
港全体が、一つの街のようだった。
「……すごいな」
レイナがぽつりと言った。
「ここから、いろんなものが行き来するんですね」
■ 各拠点——荷物が集まる
師匠から連絡が入った。
「大型貿易船が完成しました。各拠点の特産品を港に集めてください。今回は量を増やして」
三つの拠点が、また動き始めた。
さくやの農園では、トラックが何台も並んだ。
前回より多い。荷台いっぱいに果物、野菜、ジャムの瓶が積まれ、トラックの列が長く伸びていた。
ジュウベェの村では、貨物列車が何両も連なった。
米俵が積まれ、和服の箱が積まれ、列車がゆっくりと動き出した。
レイナの拠点では、保冷トラックが何台も並んだ。
バター、チーズ、牛乳の瓶が丁寧に積まれていく。
港の倉庫に、荷物が次々と運び込まれた。
倉庫の中が、各拠点の特産品で埋まっていく。
リンゴ、レモン、トマト。米俵、和服。バター、チーズ。
「……たくさん集まりましたね」
レイナが倉庫の中を眺めた。
「これが全部、船に積まれるんですね」
■ 巨大貿易船
港の端に、巨大な船が停まっていた。
リアンの貿易船の何倍もある。帆が何枚も張られ、甲板が広く、船倉が深い。
小さきもの仕様とはいえ、その存在感は圧倒的だった。
「……でかいな」
さくやが船を見上げた。
「……これに乗るんでござるか」
ジュウベェも見上げた。
「乗る」
レイナが二人の横に立った。
「私も乗ります」
「レイナも?」
「船の上で絵を描きたいんです」レイナが静かに言った。「海の上からしか見えない景色があると思うので」
さくやが笑った。
「ええやん。一緒に行こ」
荷物が積み込まれていく。
倉庫から運ばれた果物、野菜、ジャム。米俵、和服。乳製品の保冷箱。
クレーンが荷物を持ち上げ、船倉に降ろしていく。
何時間もかけて、船に荷物が満載された。
■ 出航の朝
夜明け前、港に人が集まっていた。
荷物を積み終えた巨大貿易船が、桟橋に静かに浮かんでいた。
さくやが甲板から港を見下ろした。
ジュウベェが甲板から一礼した。
「……必ずや立派な航海をしてみせるでござる」
レイナが甲板の端に立っていた。
スケッチブックを抱えていた。
「……出航したら、すぐ描き始めます」
「何を描くの?」
「全部です」レイナが静かに言った。「見えるもの全部」
帆が風を受けた。
ロープが解かれた。
船がゆっくりと桟橋を離れていく。
港の小さきものたちが手を振った。
「「「いってらっしゃい!!」」」
船が波を切り、沖へと進んでいく。
■ コントロールルーム——祝杯
モニターに、出航する巨大貿易船が映っていた。
師匠と爆音社長が並んでモニターを眺めていた。
帆が風を受けて膨らんでいく。船が波を切り、沖へと進んでいく。甲板でレイナがスケッチブックを開いている。さくやが海を見ている。ジュウベェが空を見ている。
しばらく、二人とも黙っていた。
爆音社長がグラスを二つ取り出した。
なみなみと注いだ。
一つを師匠に渡した。
「……ええ景色やな」
「そうですね」
「小さきものの世界、広がってきたな」
「ええ」師匠がグラスを持ったまま、モニターを見た。「最初はさくやさん一人でしたからね」
「それがこんなことになるとは思わんかったわ」
「思いませんでしたね」
二人がグラスを合わせた。
「……乾杯」
「乾杯」
モニターの中で、船が地平線へと向かっていく。
小さきものの世界が、また一つ広がっていく。
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