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■第92話 小さきもの大航海編 初めての貿易船

島と島が、初めて繋がった日があった。

小さな船が、大きな海を越えてきた。

港に広がったのは、誰も見たことのない世界だった。


■ 島側——気づき始める

リアンの島に来て、数日が経った。

さくやは毎朝、島のリアンたちが夜明け前から漁に出るのを見ていた。

戻ってくる網の中には、毎回大量の魚が跳ねていた。

「……毎日こんなに獲れるの?」

「毎日獲れる」

「全部食べるの?」

「食べきれへんから加工する」

リアンが工場に案内してくれた。

入口で白衣を渡された。

「着てから入って」

「え、白衣?」

「清潔にしてるから。外のものを持ち込まんように」

さくやが白衣を着た。ジュウベェも白衣を着た。

「……ジュウベェ、白衣が似合わへんな」

「……武士に白衣は似合わぬでござるな」

中に入ると、広い工場だった。

床が磨き上げられていた。壁が白く塗られていた。島のリアンたちが全員白衣を着て、黙々と作業していた。

干物が並んでいた。塩漬けにした魚が並んでいた。燻製にした貝が並んでいた。全部、丁寧に処理されて整然と並んでいる。

「……すごい。めちゃくちゃ清潔やな」

「食べものを扱うから」リアンが当然のように言った。「これが普通や」

「こんな工場、うちの拠点にもないで」

「そうなの?」

「そうやで」


■ 島側——缶詰と衣装工場

次に果樹園の加工場に連れて行かれた。

ここでも白衣を着た。

棚にずらりと缶詰が並んでいた。あのグロテスクな黒紫の果物が、缶の中に収められている。

「……缶詰まで作ってるんや」

「果物は傷みやすいから」リアンが笑った。「遠くまで届けたいから缶詰にした」

「どのくらい持つの?」

「一年以上は持つ」

「一年!?」

服の工房では、島のリアンたちが色鮮やかな布を丁寧に縫っていた。

真っ青、真っ赤、鮮やかな黄色——南国の色が溢れていた。

さくやが布を手に取った。軽くて、さらさらしていた。

「……ねえ、リアン」

「何?」

「これ、全部——うちの拠点に輸出してくれへん?」


■ 島側——さくやの提案

「さくやの拠点に?」

「そう。干物も、缶詰も、服も、全部。うちのとこの小さきものたち、絶対喜ぶ」

「どうやって取引する?」

「うちの拠点にあるものと交換する。食べ物、道具——リアンの島にないものを持ってくる」

リアンが一瞬考えた。

「ええで」

「考えんでいいの?」

「やってみたいから」リアンが笑った。「それだけや」

ジュウベェが静かに言った。

「……さくやの拠点に流れ着いた10人が船頭役になれば、航路も安心でござるな」

「そうやな。あいつらに頼む」


■ 師匠、動く

さくやが現場監視システムに繋いだ。

師匠が現れた。

「師匠、リアンの島から貿易船を出してもらうことになりました。干物、缶詰、服——全部質がいいです」

師匠がほほえんだ。

「それは楽しみですね。では、こちらも準備しましょう」

通信が切れた。

すぐに、連絡システムが三つの拠点に繋がった。

さくやの農園。ジュウベェの村。レイナの海の拠点。

師匠の声が届いた。

「リアンの島から貿易船が来ます。各拠点の特産品を港に集めてください。さくやさんの農園から果物、野菜、ジャムを。ジュウベェさんの村から米俵と和服を。レイナさんは乳製品を。数日後、海の拠点の港に集合です」

三つの拠点が、一斉に動き始めた。


■ さくやの農園——トラックが並ぶ

さくやの農園では、色とりどりの果物が次々と収穫されていた。

真っ赤なリンゴ、黄色いレモン、丸々としたトマト、季節の野菜。

ジャムの瓶が棚から運び出された。いちごジャム、オレンジジャム、ずらりと並んだ瓶が箱に丁寧に詰められていく。

農園の外に、トラックが並んだ。

小さきもの仕様の小さなトラックが、何台も何台も並んでいる。荷台に木箱が積まれ、果物とジャムが次々と載せられていく。

「全部港に運んで!!」

「「「わかった!!」」」

エンジン音が重なり合い、トラックが一斉に動き出した。

湖畔のコテージ風の建物の横を、トラックの列が通り過ぎていく。


■ ジュウベェの村——鉄道に積む

ジュウベェの村では、米俵が積み上がっていた。

ジュウベェたちが、米俵を一つずつ黙々と運んでいく。

「重いでござるが、気合いでござる!!」

「「「気合いでござる!!」」」

和服の箱も運ばれた。紺色、えんじ色、深緑——落ち着いた色合いの和服が丁寧に畳まれて箱に入っている。

村の端に、小さな鉄道の駅があった。

小さきもの仕様の小さな貨物列車が、ゆっくりと入ってきた。

米俵が積まれた。和服の箱が積まれた。

一人のジュウベェが腕を組んで言った。

「全力で積むでござるぞ!!」

「「「おおーっ!!」」」

汽笛が鳴った。

貨物列車がゆっくりと動き出した。

ジュウベェたちが手を振って見送った。


■ レイナの拠点——トラックが並ぶ

レイナが指示を出していた。

「バター、チーズ、牛乳の瓶——すべて冷やしたまま丁寧に運んでください」

「「「はい!!」」」

乳製品が丁寧に箱に詰められていく。

拠点の前に、トラックが並んだ。

荷台に保冷箱が積まれ、乳製品が次々と載せられていく。

レイナが積み込みを一つ一つ確認しながら言った。

「割れやすいものは特に気をつけて。大切な荷物ですから」

きびきびと動く小さきものたちを見渡してから、レイナが空を見上げた。

「……リアンの島からどんなものが来るんでしょう」

そっと微笑んだ。

「楽しみやわ」

また関西弁が出た。


■ 港に集まる

数日後の朝、海の拠点の港に荷物が集まってきた。

農園からのトラックが次々と到着した。果物、野菜、ジャムの瓶が桟橋に並んでいく。

貨物列車が終着駅に入ってきた。汽笛が鳴り、米俵と和服の箱が降ろされ、港へと運ばれていく。

レイナの拠点からのトラックが到着した。保冷箱が丁寧に降ろされた。

桟橋に、三つの拠点の特産品が並んだ。

リンゴ、レモン、ジャムの瓶。米俵、和服の箱。バター、チーズ、牛乳の瓶。

レイナが荷物を静かに眺めた。

「それぞれが育てたものが、ここに集まっているんですね」

港の小さきものたちが桟橋に立ち、沖を眺めていた。

まだ、船は見えなかった。


■ 船が来た

昼過ぎ、帆が見えた。

「……来た!!」

港の小さきものたちがざわめいた。

「リアンの島の船や!!」「貿易船や!!」「初めての貿易船や!!」

帆が大きくなっていく。船が近づいてくる。

甲板に積まれた荷物が見えてきた。

木箱が山積みになっている。布の束が積まれている。

桟橋に船がゆっくりと着いた。

ロープが投げられた。碇が下りた。

タラップが降りてきた。

10人のリアンが飛び降りてきた。

「タダイマ!!」

「「「おかえり!!」」」

港全体が沸いた。

レイナが桟橋の端に立って、静かに言った。

「よく来てくださいました。長い旅、お疲れさまでした」

10人のリアンが顔を見合わせた。

「……日本語、うまなったな」

「ありがとうございます」レイナが微笑んだ。「皆さんのおかげです」


■ 大騒ぎ——荷物が降りてきた

桟橋の上に、リアンの島の荷物が次々と降ろされた。

干物の木箱。缶詰の箱。色鮮やかな服の束。

港の小さきものたちが荷物を取り囲んだ。

まず、缶詰に手が伸びた。

「……これ、何?」

「果物の缶詰や。開けてみて」

一人がかじった。

「……うわ!!」

「甘い!!なんやこれ!!」

「もう一個!!」

あっという間に人だかりができた。

「食べてみて!!絶対食べてみて!!」

「でもこの見た目が——」

レイナが配り始めた。

「ぜひ食べてみてください!!本当においしいですから!!」

あちこちで「うわ!!」「甘い!!」「なんやこれ!!」「もっとある!?」が重なり合った。

次に干物を食べた小さきものたちが大騒ぎした。

「……うまい!!」「なにこれ!!」「こんな味したことない!!」

色鮮やかな服を広げた小さきものたちが大騒ぎした。

「……きれい!!」「こんな色見たことない!!」「着てみていい!?」「着てみて!!」

着てみた小さきものが仲間の前でくるりと回った。

「……どう!?」

「「「似合う!!!」」」

向こうの10人のリアンが米俵を手に取った。

「……これ、何?」

「お米や。炊いたら食べられる」

「こんな形のもん、見たことない!!」

ジャムを舐めたリアンたちが目を丸くした。

「……なんやこれ!!甘い!!」「とろとろしてる!!」

和服を見たリアンたちが大騒ぎした。

「……なんやこの服!!かっこいい!!」「着てみたい!!」

港全体が、笑い声と驚きの声と「なんやこれ!!」で溢れた。

どこを見ても誰かが大騒ぎしていた。

どこを見ても誰かが笑っていた。

レイナがその光景をしばらく眺めていた。

それから空を見上げた。

「……さくや、早く帰ってきてください」

少し間があった。

「こんな楽しいこと、一緒に見たかったわ」


■ 島側——さくや、知らない

同じ頃、リアンの島では。

さくやが浜辺で星を見上げていた。

「……向こう、どうなってるかな」

「着いてる頃やろ」リアンが笑った。「大騒ぎしてると思う」

「なんで?」

「あの果物、初めて見たら絶対騒ぐから」

さくやが笑った。

「……そうやな。うちも騒いだもんな」

「みんなそうや」

ジュウベェが静かに言った。

「……向こうも、こっちも、今夜は賑やかでござるな」

「せやな」

さくやが星を見上げた。

同じ星の下で、港も島も、笑い声に溢れていた。


#小さきもの大航海編

#白衣を着て清潔な工場で働くリアンの島

#食べものを扱うからこれが普通や

#農園のトラックが並ぶ

#ジュウベェの村から貨物列車

#レイナの丁寧な日本語

#タダイマ

#着てみたら似合う!!!

#こんな楽しいこと一緒に見たかったわ

#同じ星の下で


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