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第10話 小さな冒険 爆音社長と裏山への道

街のパトロールは、だいたい平和だ。

ネコの気分次第で遠回りになったり、

道端で声をかけられたり、

たまに差し入れが増えたりするくらいである。

師匠からも言われていた。

「事故や事件には気をつけて」

でも、リトルさくやたちが一番警戒しているのは、事故でも事件でもなかった。

爆音である。

「……聞こえた?」

「聞こえた」

「風じゃない……これは……」

その瞬間だった。

「みぃつけたぁあああああああああああああああ!!」

声が、空気を裂いた。

全員が同時に立ち止まり、

背筋が条件反射のように伸びる。

「来た……」

「爆音……」

「目、合った……終わった……」

土煙を巻き上げて現れたのは、

七色マフラーのバイク。

金髪。サングラス。

黒革のツナギ、深めのジッパー。

セクシーダイナマイトボディ。

街の男性が反射的に視線を送るのも無理はない。

なお、その視線の回数はすべて

「不審記録ノート」に記載済みである。

バイクは派手にスライドして停止した。

「さぁ~~!こっちおいでぇぇぇぇ!!」

両手を広げ、突進。

「来た来た来た来た!」

「無理!」

「捕まったぁぁ!」

爆音のハグは、兵器だった。

10人ほどまとめて抱え上げられ、

ぎゅうぎゅうの団子状態で宙に浮く。

「かわいすぎるやろぉぉぉぉ!!!」

ひとしきり抱きしめ、手を振って去って――

……いくと思わせて、

振り返り、全員に投げキッス。

被害者たちは、

ネコ台車の上でしばらく動けなかった。


この件を受け、

忍者部隊の常時同行が正式に決定された。


忍者部隊(簡易解説)

リトルさくやの中で、

気配を消して動ける子たちの集まり。

正式な組織ではなく、

「気づいたら助かってる」現象の正体。

役割

先に危険に気づく

逃げ道を作る

何も起きなかったことにする

 

爆音やトラブルは止められないが、

被害を最小にするのが仕事。

だが、天敵はもうひとついた。

カラスである。

帽子を奪われ、

時には空中に引き上げられそうになる。

忍者部隊が即座に救出していたが、その日は違った。


「きゃっ!」

「やめて!」

「ひぃぃ!」

五人が囲まれ、

一人が宙へ持ち上げられた、その瞬間――

ドゴゴゴゴゴゴッ!!!!!

空を割る音。

「うちのリトルさくやになにしとんじゃあああああああ!!!!!」

爆音だった。

その一声で、

カラスは散り散りに逃げていった。

リトルさくやたちは、

地面にへたり込み、息を整える。

爆音は、バイクに跨ったまま、

震えている一人をそっと抱き上げた。

「……怖かったやろ」

さっきとは別人の声だった。

バイクのサイドカーには、

小さな寝台が設えられていた。

一人ずつ、

毛布に包まれ、

丁寧に寝かされていく。

「もう大丈夫や」

「うちが送ったる」


数十分後。

オフィスの前に、爆音のカスタムカーが横付けされた。

側面には、大きくʕ•ᴥ•ʔ のマーク。

爆音は後部ドアを開け、

包帯ぐるぐるのリトルさくやたちを

やさしく、しかし雑に、

ポイ、ポイ、ポイと並べていった。


そこへ、師匠が出てきた。

静かに状況を見て、

小さくうなずく。

「……助けてくれたんだね」

その一言で、爆音は固まった。

「う、うち……べつに……」

「たまたま通っただけで……」

サングラス越しでも分かるほど、顔が赤い。

ダイナマイトボディが、なぜか縮こまっている。

医療班が到着し、手際よく運び出していく。

その途中、ストレッチャーの上から、かすれた声がした。

「……ば、ば……ばくおんしゃちょう……」

師匠は、ほんの一瞬、微笑んだ。

「……爆音社長か」

「そうだね」

その言葉は、包帯の中のリトルさくやたちにも、ちゃんと届いていた。

爆音は、何も言わず、

ただ少し照れたようにエンジンをふかした。

その音は――

もう、怖くなかった。


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