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■第48話 地底探索編 黒豹との盃

不穏な空気に包まれた円形広場

ちゅ〜るを介した謎の儀式

新たな仲間との地下への旅立ち


■不穏な空気の広場

 冷たい岩肌の空洞を抜けた先に広がっていたのは、濃密な湿気と青臭い草の香りが混じり合う円形の広場だった。天井の割れ目から差し込むわずかな光が、まるで舞台のスポットライトのように地面を照らしている。

「……なんか、空気がピリピリしてない……?」

 リトルさくやがぽつりと呟いた瞬間だった。

 ザッ……

 足音。いや、音のない"気配"が四方八方から静かに広がる。岩陰から、木陰から、ゆっくりと──それも一頭、また一頭と──音もなく、まるで黒い霧が形を成すように姿を現していく。

「黒豹や……」

 仲間の一人が震え声で呟く。

 数は、5……10……いや、それ以上。まるで黒い波が押し寄せるように、広場をぐるりと囲んでいく。

「完全に囲まれた」 「これ、会議室で上司に囲まれる悪夢と同じパターンや」 「でも、こっちの方が命に関わる」

 小さな存在を見下ろす、金色の瞳。その中には敵意とも興味ともつかない、なんとも言えない光が静かに揺れていた。

 だが次の瞬間──

 ガォォォォォ!!!!!

 空気を引き裂く咆哮が、広場全体をビリビリと震わせる。飛び出してきたのは白トラの父親!

「白トラさん、タイミング完璧やん」 「でも、多勢に無勢ちゃうか」

 その後ろには母トラと3匹の子トラたち。全員、鋭い牙をむき出しにして臨戦態勢。

 しかし、予想外のことが起こった。

 黒豹たちの態度が一変したのだ。

 ざざざっ……と全員が前足を揃えて、ぺたん、と地面に伏せる。そして頭を低く──まるで王に"ひれ伏す"ように──白トラ一家の前に整列した。

「……これ、降参?」 「それとも、格上への挨拶?」 「動物界にも上下関係あるんやな」


■謎のちゅ〜る儀式

 すると父トラは、おもむろにリトルさくやの方へ振り向き、ぺたぺたと優雅に歩み寄ってくる。

 よく見ると、父トラは口に何かくわえている。それは──

 ちゅ〜るだった。

「どこに隠し持ってたん、それ」 「在庫管理、完璧やん」 「営業マンより商品知識豊富やな」

 ピカピカの銀色パウチを大事そうに前足でリトルさくやに差し出す。

 恐る恐るちゅ〜るを受け取った瞬間、父トラがずず……っと黒豹たちの方へ歩いて戻り──バフッ!と地面にどっかりと座った。

「これ、完全に儀式やん」 「盃交わすみたいな雰囲気」 「ちゅ〜るが仲裁役って、どんな世界や」

 その様子は、まるで"盃を交わす"ような厳粛な儀式。なぜかそんな雰囲気が場を支配している。

 リトルさくやはなんとなく空気を読んで、そっとちゅ〜るのパウチを開けると、まず父トラに一口、それから黒豹たちにも順番に一口ずつ配っていく。

「これ、接待の基本やな」 「まず上司から部下に」 「動物も人間社会と変わらん」

 黒豹たちは静かにそれを受け取り、もぐもぐと味わった後……満足げな表情で、ぺたぺたとリトルさくやの周りに座り始めた。

「なんか、舎弟みたいになってない?」 「私ら、いつの間に組長になったん?」 「ちゅ〜る一本で組織拡大とか、効率良すぎやろ」

 母トラが「ふふん」と得意げに鼻を鳴らし、子トラたちは尻尾をぶんぶん振っている。

「この子ら、全部計画通りって顔してる」 「戦略的思考できるんやな」

 

■新たな移動手段の確保

 黒豹たちは、まるで盃を交わした若頭のように、リトルさくやの前にずらりと整列し──そのうちの一頭が、静かに奥の暗闇を示した。

 そこには、ぽっかりと口を開けた石のトンネル。

「あの下か……」 「でも、行くしかないな」

 リトルさくやが思わず後ずさりすると、今度は黒豹の一頭が、しゃがんで背中を差し出してきた。

「乗れってこと?」 「タクシー代わり?」 「これ、VIP待遇やん」

 その黄金の瞳は「当たり前やろ」とでも言うように優しく輝いている。

 リトルさくやは、恐る恐る黒豹の背中によじ登る。

「うわ……ふかふかや……高級車のシートみたい」 「毛並み、つやつや」 「乗り心地、期待以上や」

 黒豹が小さく「フル」と鳴くと、他の仲間たちも次々にそれぞれの黒豹の背に乗り、なんとも立派な騎馬隊ができあがった。

「なんか、パレードみたい」 「VIP移動やな」 「これ、交通費かからんし、環境にも優しい」

 

■組織拡大への気づき

「……なんなん、今日……」

 リトルさくやが黒豹の背中でぽつりと呟く。

 でも不思議なことに、どこか深い安心感に包まれている自分がいることに気づいていた。

「この感じ、師匠のチームビルディング研修で習ったやつや」 「信頼関係の構築」 「まさか動物と実践することになるとは思わんかった」

 背中の黒豹たちは時おり「フル」と鳴いて、まるで「心配するな、任せとけ」と言っているみたい。

「師匠に報告するとき、なんて説明したらええんやろ」 「『ちゅ〜るで組織拡大しました』?」 「『動物との信頼関係構築に成功』?」 「どっちも胡散臭い自己啓発セミナーみたいやな」

 トンネルの向こうから聞こえてくる水音が、だんだん大きくなっていく。

「でも、これも一つの成長体験やな」 「予想外の展開に対応できた」 「柔軟性とか適応力とか、身についたかも」 「まあ、生きてるうちはな」

 新たな冒険の始まり。しかも今度は、予想外の方法で仲間を増やしながら。

「人生、何が起こるか分からんな」 「でも、それが面白いところでもある」 「ちゅ〜る持参で正解やった」

 地下の深淵へと向かう小さな探検家たちの列は、これまでになく堂々としていた。そして何より、予想もしなかった形でのチーム拡大を実現していた。

 


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