■第47話 地底探索編 滝裏の古代遺跡
朝のざわめきから始まる新たな発見
見えない守護者の静かな戦い
古代文明の謎がついに姿を現す
■朝のざわめき
第2層の朝が来た。湿った空気に包まれて、時おり草葉の隙間を縫う冷たい風が、静寂の中に不思議な緊張感を運んでくる。
「ふわぁ〜……」
テントからもそもそと顔を出したリトルさくやの髪は、まるでタコの足のように四方八方に跳ねていた。続けてあちこちから這い出してくる仲間たちも似たり寄ったり。
「みんな、寝癖がアートレベルやで」
一番早起きしたリトルさくやが、仲間の頭をぽんぽん叩いて回る。
「やめて、余計ひどくなる」 「師匠に見られたら恥ずかしい」 「でも、師匠おらんやん」 「写真撮られてたらどうするん」 「誰が撮るねん、こんな地底で」
テントの外は一面の青緑。苔に覆われた地面のあちこちから、まるで温泉のように湯気がゆらゆらと立ち上っている。
白トラ一家の姿は見えない。でも不思議と、見守られているような温かな安心感だけがそこにあった。
「白トラさんたち、どこ行ったんやろ」 「朝の散歩ちゃう?」 「散歩で狩りしてそうやけど」 「血だらけで帰ってくるパターンやな」
調査開始、でもその前に
「さぁ、今日も調査や!」
ひときわ元気なリトルさくやが帽子をぎゅっとかぶって飛び出そうとする。
「ちょっと待て、ご飯は?」 「歯磨きは?」 「昨日の記録、まとめてない子がいる」
「あ……」元気印のリトルさくやが固まった。「えーっと……」
「基本的なことから忘れるタイプやな」 「冒険家の前に、生活習慣やろ」 「師匠に『規則正しい生活』って言われてるやん」
5分後、みんなでぱぱっと朝食を済ませ、身支度を整える。
「道具持った」 「昨日のあの動く葉っぱ、まだ動いてるか見てくる」 「転びやすいところに赤いテープ貼っといた」 「準備良すぎやろ、みんな」
■滝の調査と小さな発見
第2層の空間は思った以上に広い。滝の轟音が響き渡る中、水しぶきのかかる場所に近づくと、見上げるような大岩の壁に苔と蔦がびっしりと張り付いて、水滴がキラキラと宝石みたいに垂れている。
「きれいやな」 「でも滑りそう」 「濡れた岩は要注意や」
リトルさくやたちは、そんな美しくも危険な場所でひたすらメモを取り続けた。
「この葉っぱ、触るとざらざらしてるのに……なんでこんなにやわらかいんやろ?」 「この水、透明やけど飲んでも……」 「ちょっと待て!勝手に飲んだらあかん!」
「そやそや、師匠に『食べられないように』って言われたやん」 「飲み物も危険かもしれん」 「毒があったらどうするん」 「でも、のどかわいた…」 「我慢せえ」
きゃあきゃあ言いながらも、調査記録のページはどんどん埋まっていく。
「この植物の生態系、地上と全然違うな」 「光がないのに、どうやって育ってるんやろ」 「地熱で温室効果とか?」 「専門家ちゃうから分からんけど」
見えない守護者の戦い
でも、リトルさくやたちが知らない場所で、静かに何かが起きていた。
崖の向こうの暗がり。巨大な犬のような獣が3匹、牙を剥き出しにしてリトルさくやたちの方を狙っていた。その筋肉質な体は、明らかに狩りに慣れた捕食者のものだった。
草陰から顔を出した獣の目が、一斉にリトルさくやたちの方へと向けられる。
その瞬間——
ドサッ。ドサッ。ドサッ。
音もなく、抵抗する暇もなく、獣たちは倒れた。
白トラの父親だった。その後ろから母親と白い子トラたちが続く。口元には血がついているけれど、その眼差しは変わらず優しい。
リトルさくやたちは、そんな命がけの守護を知らないまま、今日も元気に笑っていた。
「この岩の模様、面白いな」 「人工的に見えるけど、自然のもんかな」 「どっちでもええから、早く調べよ」
■新たな発見
「あれ……?」
調査班の一人が滝の奥を指差す。
「なんか……光ってる?」
その声に、全員がそちらに注目した。水しぶきの向こう。わずかに差し込む光が岩の隙間に吸い込まれるように揺れている。
「裏になにかあるんちゃう?」 「滝の向こうに洞窟?」 「秘密の隠し部屋みたいやな」 「ゲームでよくあるパターンや」
リトルさくやが興味深そうに歩を進める。水しぶきを浴びて足元が冷たくなりながらも、慎重に岩をよじ登り、ついに滝の背後へ——
「うわああああ……!」
そこには予想を超えた広い空間が広がっていた。まるで岩をくりぬいて作られたような天然の建物。
壁一面に蔦が絡まり、光る苔の淡い光がその合間をゆらゆらと踊っている。床にはなめらかな石が敷き詰められ、よく見ると古い文様のようなものが刻まれている。
「これ……建物や。遺跡や……!」 「ついに見つけた」 「古代文明の痕跡や」 「でも、なんでこんなところに…」 「隠してたんやろな」
あの石板の地図、これを指していたのだ。
「これで師匠に報告できる」 「信じてもらえるかな」 「写真撮っとかな」 「でも、暗くてよく写らんやろ」
■夜の焚き火と師匠への想い
滝裏の新たなキャンプ地。小さな焚き火を囲んで、リトルさくやたちは肩を寄せ合っていた。
「そういえば、この間師匠に怒られたやつ覚えてる?」
一人が切り出すと、みんなの顔に苦笑いが浮かんだ。
「レポート未提出事件やろ」 「あー、あれな」 「師匠の顔、忘れられへん」
「『報告は大事です』」
一人が師匠の口調を真似して言うと、みんながくすくす笑った。
「『何度言ったら分かるんですか』」 「『基本的なことから、きちんとしなさい』」 「声のトーンまでそっくりや」
「でも、あの時の師匠の顔、ほんまに困ってたよな」 「怒ってるというより、心配してた感じ」
笑い声が少しずつ静かになっていく。
「師匠、私らのこと本気で心配してくれてるんやな」 「『食べられないように』も、本気で言ってたんやろな」 「実際、危険やったし」
焚き火がパチパチと音を立てる。
「師匠、今頃何してるやろ」 「無線も通じへんし、心配してるんちゃう?」 「私らが無事やって知らせたいな」
滝の音が遠くで響いている。
「でも、師匠やったら『きちんと調査して帰ってきなさい』って言うやろな」 「そやな」 「最後まで、ちゃんとやろう」
その向こうで、白トラ一家が静かに番をしていた。
今夜もまた、見えないところで命がけの守護が続いていた。
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