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■第34話 霧の谷編 白き神の去りしあと

嵐のあと、復興が始まる。

レイナの料理が、心を温める。

そして――別れの時が来る。


■ 嵐のあと

翌朝、村はまるで台風の直撃を受けた現場のようだった。インフラ設計士として駆け出しのさくやは、師匠に習ったばかりの知識を総動員して被害状況を把握することにした。

「えーっと、水路の……石積みが崩れてる」

「側溝の蓋も飛んでもうてるやん」

「師匠が言ってた通りの被害パターンや」

二百人で手分けして被害調査を行う。まだ経験は浅いが、だからこそ真剣だった。屋根は飛び、花壇はなぎ倒され、水路の石垣も外れていた。畑のリンゴの木は全力でふんばっていたが、何本かは根から倒れている。

けれど、白いユキヒョウたちは無事だった。あちこち傷だらけで包帯ぐるぐる巻きだったが、しっかり生きていた。

「よう頑張ったなあ、お疲れさん」

チュールをたくさん差し出すと、三匹とも疲れ切った顔で完食していた。その様子を見ながら、さくやは心の中で安堵した。

神殿では、レイナが感謝の祈りを捧げていた。嵐の最中でも、危険が迫っても、祈りを欠かさない信心深さには本当に頭が下がる。その姿は美しく、静かで、神聖で、温かかった。


■ 復興の日々と驚きの発見

「よし、復旧工事や!」

二百人のさくやたちは張り切っていた。駆け出しのインフラ設計士として、師匠から教わった知識を全部使ってやろうという意気込みだった。

「水路の勾配、えーっと……師匠は1/100から1/200がベストって言ってたな」

「石積みも、もうちょっと頑丈にしたい」

作業を進めるうち、さくやは村の水路システムの独特さに気づいた。

「あれ、この水路……なんか変やな」

「普通の水路と違う」

よく見ると、村の水路は巧妙な分水システムになっていて、各家庭に平等に水が行き渡るよう設計されている。しかも、途中に小さなため池のような貯水部があり、水位を一定に保つ仕組みまで備わっていた。

「これ、めっちゃすごくない?」

「自動で水位調整してる」

「師匠でも知らん技術やと思う」

レイナと一緒に働く。言葉は通じないが、一生懸命に図面を描けば理解してくれる。しかも、レイナの方がよっぽど経験豊富で、さくやの青い設計図を見ながら、実用的な修正を加えてくれる。

「レイナ、この水路システム誰が設計したん?」

身振り手振りで聞くと、レイナは空を指さして、祈るような仕草をした。

「神さまの設計?」

「それとも昔の人の知恵?」

木を運ぶ。釘を打つ。土を掘る。汗をかく。疲れる。でも、現場での実践は本当に勉強になる。特にこの村独特のインフラ技術には感動の連続だった。


■ 村の高度な技術

作業を続けるうち、さくやは村のインフラの高度さに次々と驚かされた。

「この石積み、継ぎ目から水が滲み出てる」

「あ、これ意図的やん」

「地盤の水分調整してるんや」

石垣の継ぎ目から適度に水が滲み出ることで、地盤の含水率を一定に保ち、建物の基礎を安定させている。現代工学でも難しい技術だった。

「師匠に見せたいなあ」

「絶対びっくりするで」

さらに、村の道路も独特だった。石畳の間に小さな隙間があり、雨水が地下に浸透する仕組みになっている。しかも、その隙間に植えられた苔が天然のフィルターの役割を果たしていた。

「これ、天然の雨水浸透システムや」

「現代の都市計画でも採用されてる技術や」

「いや、これの方が進んでるかも」

レイナが誇らしげに頷いている。この技術への深い理解と愛着を感じる。

「レイナ、この技術すごいなあ」

「手作業でここまでできるんや」

「師匠も知らん技術や」


■ 共同作業の中での学び

ある日、避難所の取り壊しを始めようとしたところ、レイナが慌てて駆けつけた。首をぶんぶん振りながらスケッチブックを取り出す。描かれた絵には、迷路に花が咲き誇り、中央の広間には祭壇が置かれ、その中心には ʕ•ᴥ•ʔ の銅像があった。

「あー、何か大切な場所にしたいんやな」

「それええなあ」

「みんなで頑張って作った場所やもんな」

「そのまま残しといたいよな」

レイナは満面の笑みで、両手で大きな〇を描いた。避難所は、何か特別な場所になる。みんなで作った、大切な場所として。


■ 喜びの時間と新しい発見

その後の五日間は、忙しくも充実した時間が流れた。さくやは持参した測量機器を使って地形を正確に把握しようと奮闘した。

「うーん、この測量器の使い方、師匠に教わった通りやったかな」

「あー、水準器の気泡が真ん中に来るようにして…」

測量を進めるうち、村全体が緩やかな傾斜を利用した巧妙な設計になっていることがわかった。

「この村、全体が一つの排水システムになってる」

「雨が降っても水が溜まらん仕組みや」

「設計者は天才やな」

村の奥のリンゴ畑では、収穫したリンゴでジャムを作った。レイナが一口舐めて驚愕し、焼きたての白いパンを三斤抱えて全力疾走で戻ってきた。

「うわ、めっちゃ走ってきたやん」

「そんなに気に入ったん?」

「ジャムとパンは最高やもんな」

「レシピも渡そう」

レシピを書いて渡すと、レイナは宝物のように抱きしめていた。料理への情熱も、建設への情熱と同じくらい純粋で深い人なのだ。


■ 白き守護者たちの副業と新インフラ

ある日、山のほうからモーモーと重低音の鳴き声が聞こえてきた。なんと白いユキヒョウたちが、狼に追われた牛の群れ五頭を引き連れて現れたのだ。

「また何か持ってきた」

「今度は牛さんや」

「ユキヒョウたち、多才やなあ」

「チュール代稼ぎかな」

牛たちは草原に案内された。その時、さくやは気づいた。

「あ、この牧草地の排水システムもすごい」

「牛の糞尿が自然に処理されて、畑の肥料になる仕組みや」

「循環型農業の完成形やん」

レイナが誇らしげに説明してくれる。身振り手振りだが、この村の先人たちが長い時間をかけて作り上げた技術だということが伝わってくる。

「これで酪農設備も作らなあかんけど」

「この村の技術を参考にしよう」

「師匠が昔話してくれた以上の技術や」

ヨーグルト、チーズ、牛乳。村が豊かになっていく。レイナが作ったクリームシチューにチーズを乗せて、さくやは目を閉じた。

「美味しい、天国の味や」

「こんな高度なインフラに支えられた村の料理や」

「そりゃ美味しいはずやわ」


■ 技術の融合と別れの準備

村の復興は順調に進み、以前よりも機能的で美しい村になった。さくやの現代的な設計と、村の伝統的なインフラ技術が見事に融合した。

「まあ、まだまだ師匠には及ばんけど」

「でも村の技術も学べたで」

「師匠に報告したら目を丸くするやろな」

「こんな高度な技術があるなんて」

レイナは村の入口に旗を立てた。白いライオンの顔が描かれた旗と、同じ大きさの ʕ•ᴥ•ʔ の旗が風にたなびいている。

別れの準備が始まる。さくやは工事で使用した測量機器を丁寧に清掃し、村のインフラ技術を詳細にスケッチした図面も整理した。

「この技術、師匠に見せなあかん」

「きっと学会で発表できるレベルや」

白いユキヒョウには、別れの前にチュールを山ほど与えた。

「これで当分の間は大丈夫やろ」

「また仕入れて持ってくるからな」

満足げに寝そべる姿を見て、さくやは静かに微笑んだ。


■ 技術者としての成長と絆

祈りが終わり、さくやは泣きながらその場を後にした。吊り橋のたもとで深く頭を下げる。

「この村の技術、絶対に忘れません」

「師匠にも伝えて、もっと多くの人に知ってもらいたい」

「今度は師匠と一緒に勉強しに来るかも」

レイナは手を振り、白いユキヒョウたちも小さく鳴いて見送った。橋を渡りながら、何度も振り返る。自分が設計した橋と、村の伝統技術が調和している光景に感動した。

橋を渡り終え、振り返る。霧の向こうに、白い村がある。駆け出しのインフラ設計士として、技術者として、人として、かけがえのない経験をした。

「また来る、必ず」

「師匠にこの技術を見せたい」

「現代技術と伝統技術の融合」

「それが未来のインフラや」

二百人の小さきものたちの手の中で、技術への憧れと心の絆が、静かに、深く、根を張っていた。駆け出しの全力と、村の叡智への敬意を胸に、次の現場へと向かっていく。師匠の元で経験を積んで、学んだ技術を活かして、いつかまた戻ってこよう。




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