■第35話 霧の谷編 ようこそ
師匠への報告会が3日3晩続く。
北の拠点が完成し、レイナたちとの本格的な交流が始まる。
友情に国境はない――新たな絆の物語が始まった。
■ 報告会
師匠への報告会は、3日3晩にわたって行われた。
大きな会議室に、帰還した二百人のさくやたちがチームごとに分かれて座っている。測量チーム、建設チーム、交流チーム、記録チーム――それぞれが準備した資料を手に、緊張した面持ちで順番を待っていた。
会議室の後ろには、レイナの村に行けなかった八百人のさくやたちが詰めかけていた。
「うらやましいなあ」
「私たちも行きたかった」
「どんなところやったん?」
大きなスクリーンには、南西のコテージからWEB参加している師匠の映像が映っている。
「それでは、測量チームから始めてください」
師匠の声は穏やかだった。
測量チーム二十人が前に出る。リーダー格のさくやが震え声で始めた。
「えーっと、まず吊り橋の構造調査結果なんやけど…」
「データがすごいんです!」
「このアーチ構造、計算上は不可能なはずやのに」
「でも実際に存在してる」
後ろで聞いている八百人からも「おおー」という感嘆の声が漏れる。
興奮のあまり、チーム全員が一斉に話し始めてしまう。スクリーンの師匠は静かに手を上げた。
「一人ずつ、お願いします」
次は建設チームの番だった。
「村の水路システムについて報告します」
「これ見てください、自動水位調整機能付きなんです」
「現代工学でも難しい技術やで…」
図面を広げながら熱弁を振るう建設チーム。途中で測量器具を倒しそうになり、慌てて支える。
交流チームは白いユキヒョウとの関係について報告した。
「チュール一本で完全に懐柔できました」
「費用対効果抜群やで」
「でもそれって工学的な報告なん?」
「重要な現地情報やから」
スクリーンの師匠は小さく笑った。初めて表情を崩した瞬間だった。
記録チームは村の生活や文化について詳細に語った。
「レイナの信仰心の深さは特筆すべきです」
「料理の技術も建設技術と同等のレベルやで」
「あ、私たちがジャムの作り方教えました」
「それも重要な技術移転やな」
「レイナ、めっちゃ喜んでくれて」
「パン持って全力疾走してたもんな」
三日間かけて、すべてのチームが報告を終えた。スクリーンの師匠は立ち上がり、深くお辞儀をした。
「皆さん、ありがとうございました。チームワークも素晴らしかったです」
別の画面には爆音社長の映像も映っていた。長身の金髪美女がタイトなつなぎ姿でコテージから参加し、静かにメモを取り、「……チームでようやったな」とぽつり。珍しく感動している様子だった。
■ 北の拠点建設
最終日の昼下がり、スクリーンの師匠が言った。
「今回行けなかった八百人のさくやたちにも、大切な仕事がある」
師匠は画面越しに霧に包まれた丘の方角を指さした。
「あそこに、北の拠点を建設してほしい。レイナたちとの交流基地として使う」
「私たちが作るん?」
「やっと出番きた!」
「師匠は来られへんの?」
スクリーンの師匠は首を振った。
「あちらは小さきものの世界です。私のような大きな存在は深く立ち入ることができません。だからこそ、君たちの力が必要なのです」
八百人のさくやたちは目を輝かせた。自分たちだけで建設プロジェクトを任されるなんて。
「設計図はこちらで用意しました。材料も調達済みです。後は君たちの腕の見せ所ですね」
「交代で参加してもらいます。一度に八百人では多すぎますからね」
爆音社長も画面越しから見守っていた。金髪を風になびかせながら。
「アタシも行きたいが……でかすぎるからな」
■ みんなで作った拠点
1週間後、霧に包まれた丘に2階建てのコテージが完成した。
「できたー!」
「めっちゃええ感じやん」
「師匠の設計図通りに作れた」
八百人が交代で参加したおかげで、作業は順調に進んだ。丸窓が並び、木の扉には ʕ•ᴥ•ʔ の飾り彫りを施した。屋根の端には白い孔雀のための止まり木まで据えた。
「孔雀さんの分まで考えてくれてる師匠」
「細かい心遣いやなあ」
「みんなで作ったから愛着わくわ」
師匠は南西のコテージから双眼鏡とWEBカメラで完成した拠点を眺めていた。
「準備は、愛情の表れである」
■ 内部の仕上げ
扉を開けると、やさしい灯りと木の香りが迎えた。
1階には広いリビングとちゃぶ台が10つ、奥には調理室と食堂、かまどには火が灯り、ʕ•ᴥ•ʔ マークの湯呑みが棚に整列。2階は寝室で、千はありそうなベッドと布団が並び、壁には桜と白壁の村の絵が飾られていた。
天井の梁には「登って寝ても良いが落ちないように」と手書きの注意書きがあり、笑いが広がった。
「これで準備完了やな」
「レイナたちも喜んでくれるかな」
「私たちも交流できるんやね」
師匠は画面越しから告げる。
「ここを北の拠点とします。1000人で交代しながら、レイナと相談して交流を続けてください」
爆音社長は画面越しにぼそりと呟く。
「住みたいけど……ちょっと小さいな」
■ 交流の始まり
村に行った二百人のさくやたちは月に1週間、白壁の村を訪れ、残った八百人は交代で北の拠点を守ることになった。吊り橋を渡っては帰り、帰っては渡る日々。
ある日、白いライオンがそっとレイナを何人か咥えて吊り橋の前まで連れてきた。神のしるしと感じた。
百人のレイナが選ばれ、パンとチーズ、そして手作りのリンゴジャムを抱え、霧に包まれた橋を渡る。向こうから金髪と青い目の一団が現れ、まるで幻想の中から祈りが歩いてきたように見えた。
橋のたもとで、北の拠点担当のさくやたちが出迎える。レイナは大きなものにひるむことなく整列した。
「サクヤ、シショー、コンニチワ」
師匠は南西のコテージから双眼鏡とWEBカメラで見守っていた。
■ 歓迎と絆
「日本語覚えてくれてる!」
「めっちゃ上手やん」
「可愛い発音やなあ」
「私たちも初めて会うけど、嬉しいわ」
その瞬間、百人のレイナが一斉にひざまずき、胸に手をあてて目を閉じた。
南西のコテージから師匠の声が聞こえてきた。
「ようこそ」
千人のさくやは思わず泣いた。
「なんで泣くん?」
「でも私も泣けてきた」
「もらい泣きやな」
「ええ光景やもん」
「みんなで作った拠点でお迎えできて嬉しいわ」
白い孔雀が霧を抜け、北の拠点の上空を静かに舞う。風が吹き、高く掲げられた旗が2つ、空を裂くようにはためいた。
一つは白いライオンの顔。もう一つは ʕ•ᴥ•ʔ の旗。
「両方の旗が一緒に…」
「友情の証やな」
「みんなで作った拠点の旗や」
レイナとさくやが並び、空を見上げる。南西のコテージから師匠の声が聞こえてきた。
「友情に国境はない」
爆音社長も画面越しから小さくつぶやく。金髪を風になびかせながら。
「ええ話やなぁ…」
どこまでも静かで、どこまでもやさしい時間。小さな者たちの大きな絆が、新たな物語を紡ぎ始めた。千人全員が、この新しい友情の一部となった。
#霧の谷編
#小さきものの物語
#守り手の存在
#静かな共存
#祈りのある暮らし
#北の拠点
#報告会
#文化交流
#友情に国境はない
#新たな絆




