■第247回 東の風雲編 「東へ」
サムライたちは散り、村は静まり返っていた。
しかし師匠の勘は、いつも正しかった。
東の森に、何かが息を潜めている。
■ ジュウベェの千人
リトルジュウベェは、今や各地に散らばっていた。
三百人がマケダとの光鉱石発掘に参加している。二百人が貿易船の護衛。百人が海の拠点の護衛。百人が飛行場の護衛。百人が湖の拠点の護衛。百人が東の森鉄道の運営。
そして、東の村に残っているのは——わずか百人だった。
マサムネはヒジカタの街開発に全員動員されてしまい、村には門だけが残っていた。他のサムライ陣営も、護衛に人手を取られている。
東の一帯は、かつてないほど手薄だった。
師匠がさくやたちに東の探索を命じたのは、理屈ではなかった。
ただの——勘だった。
■ 東の森
光鉱石発掘チームの五十名は、東の一帯の調査を開始していた。
サムライの国々の近況、チンギスの暮らし、そこから先の未踏の土地。ヒジカタが思いのほか近くにいたことで、師匠はふと思ったのだ。
(まだ知らないことが、すぐ近くにあるのではないか)
東の森の探索は、予想以上に楽しかった。
「あのジャングルに比べたら、天国やな」
さくやがのんびりと歩きながら言った。
「ワニのモグラ叩きもないしな」
ラーシュが笑った。
「ピラニアもいない」
ユーリが付け加えた。
「神輿に乗せられることもありませんわ」
レイナが恥ずかしそうに言った。
「キウイに乗って疾走することもありませんね」
エレナが微笑んだ。
過酷な冒険を続けてきた一行にとって、東の森はまるでピクニックのようだった。
■ 白き再会
その時、白い影が木々の間を駆けていくのが見えた。
「あ!」
ユーリが目を輝かせた。
久しぶりの——白き巨大ヤマネコだった。
「お前か! 久しぶりだな!」
ユーリが駆け寄ると、ヤマネコは嬉しそうに鳴いた。尻尾をぶんぶん振っている。
「覚えててくれたんやな」
さくやも近づいた。ヤマネコがユーリの顔を舐めた。
「わっ、くすぐったい!」
ユーリが笑った。
しばらくじゃれ合った後、ヤマネコが背中を低くして合図した。
「荷物を乗せろってことか?」
一行の荷物を背中に乗せると、ヤマネコは満足そうに鳴いた。そして、森の奥へと歩き出した。
「ガイド付きやん。ラッキー」
さくやが喜んだ。
■ 修学旅行
随分と時間をかけて、丁寧に探索した。
新たな橋をかける時には、ラーシュが木を担ぎ、ユーリが縄で結び、さくやが指示を出す。
「もうちょい右!」
「右って、どっちの右や!」
「こっちの右!」
「わかるか!」
わちゃわちゃしながらも、立派な橋ができあがった。
道を整備する時には、エレナが「ここの角度が十七度傾いています」と正確に測り、さくやが「そこまで正確にせんでええねん」と突っ込む。
「でも、精度が高い方が……」
「ええねん、ええねん。森の道やし」
レイナは休憩時に、美味しい食事を作った。
「今日は森で採れた山菜の天ぷらですわ。ウフフ」
「うまい!」
「レイナの料理は最高だな」
ヤマネコも、魚を咥えて持ってきた。
「お、お前も手伝ってくれるのか」
ユーリが笑った。
そしてようやく、東の村へ到着した。皆、鉄道を使わず森を抜けたのは久しぶりだった。
「なんか、修学旅行みたいやったな」
さくやがしみじみと言った。
■ 閑散とした村
東の村は、確かに閑散としていた。
いつもなら賑やかな通りが、静まり返っている。人の気配は少なく、どこか寂しげだった。
ラーシュとユーリは、無言で顔を見合わせた。
「……何かいるな」
ラーシュが小声で言った。
「ああ、感じる」
ユーリも頷いた。
「少し長居した方がいいかもな。さくや、何か改造しようぜ」
「ヤマネコに乗って、周辺を探索してくる」
ユーリが白き巨大ヤマネコに跨った。
「お侍の文化を学びたかったので、嬉しいですね」
エレナが微笑んだ。
「墨と筆で描くというのを教えてもらいたいですし、仏様も知りたいですわ」
レイナが楽しみそうに言った。
「近くに温泉宿あるで。師匠に聞いとくわ」
さくやが無線機を取り出したその時——
ジュウベェが駆けてきた。
■ ジュウベェの告白
「これは皆さん! せっかく来ていただいたのに、迎えもできず、かたじけない!」
ジュウベェが深々と頭を下げた。
「ジュウベェ、村はどう? 何か問題ない?」
「それがですな……」
ジュウベェが困った顔をした。
「モノが減っているのでござる」
「気のせいかと思っておったのですが、コメの減りが若干早いなとか、刀の本数が合わなかったりするのでござる」
「もうビンゴやんな」
さくやが頷いた。
「マサムネは全員ヒジカタのところへ動員されてしまったでござる。ノブナガとシンゲンに留守を頼むと言い残して」
「あちゃー、村の中身が残っているといいな」
さくやが心配そうに言った。
「今、何かあったら総勢七百人……でも総動員したら、村はもぬけの殻や」
「そうでござる……」
ジュウベェが肩を落とした。
「護衛を次々と引き受け、逆に心配をかけるとは……切腹に値するでござる」
ジュウベェが刀に手をかけた。
「ちょ、ちょっと待って!」
さくやが慌てて止めた。
「神様、どうかこの方を……」
レイナが祈りを捧げ始めた。
「レイナもやめて! ジュウベェも落ち着いて!」
「切腹はあかん! 絶対あかん!」
さくやが必死に説得した。
「でも、拙者の不手際で……」
「不手際やない! みんなが頼りにしてるからや!」
ラーシュも加わった。
「そうだ。お前がいないと困るんだ」
ユーリも頷いた。
ようやく、ジュウベェは刀から手を離した。
「……かたじけない」
ジュウベェが深々と頭を下げた。レイナも祈りをやめ、ほっとした表情を浮かべた。
「とりあえず、温泉行こか。落ち着いて作戦立てよう」
さくやが提案した。
一同が頷いた。
東の村に、何かが潜んでいる。
師匠の勘は——やはり、正しかった。
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