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■第246回 リトルピープル 東の風雲編 「火鉱石の地図」



三人が地図を囲む夜、敵の野望が形を成す。

爆発の光が世界を白く染めた。

しかし光鉱石がある限り、道は消えない。


■ 三人の会議

 師匠のオフィスに、久しぶりに三人が揃っていた。

 師匠、爆音社長、そしてマダム。

 大きなテーブルに広げられた世界地図には、いくつもの印がつけられていた。光鉱石の青、火鉱石の赤。色が増えるたびに、世界の複雑さが静かに増していく。

「光鉱石が十分にあります。火鉱石の探索は不要でしょう」

 師匠が地図を見ながら丁寧に結論を述べた。

「せやな。光鉱石だけで、当分はエネルギー問題ないやろ」

 爆音社長が豪快に椅子に座り直した。金髪を揺らし、腕を組む。まるで女海賊の船長のようだった。

「ただ、ラッキーなことに、モーガンの火山島とエレナの北の国で火鉱石が発見されました」

「火山島? あのモーガンのとこか?」

 爆音社長が身を乗り出した。

「ええ。リトルブレイドとリトルバルコによる強制労働……造成開発箇所で発見されたそうです」

 師匠が苦笑した。

「ガハハ! あいつら、働かされてんのか! ざまあみろや!」

「あら、あの子たち、更生の機会をいただいておりますのね。素晴らしいことですわ」

 マダムが優雅にティーカップを持ち上げ、一口飲んだ。

 同じ事実を、三人がそれぞれの色で受け取っていた。


■ 鉱石の地図

「エレナの国では、北のさらに寒い地帯で、白熊が発見したとのことですわ」

「白熊が? 面白いやん!」

「これで、残る四か所のうち、二か所を抑えることができましたわね」

「でも、カイザーはどうなってんねん?」

 爆音社長が地図を睨んだ。

 師匠が地図上の印を静かに指差した。

「カイザーも動いています。南の無人島と鳥の島で発掘したようです」

「つまり——」

 マダムが静かに計算した。

「火鉱石八か所すべてが、発掘されたということですわね」

 師匠が地図に線を引いた。


【鉱石の現状】

光鉱石 三か所 → さくや側が全保有

火鉱石 八か所 → さくや側:三 カイザー側:五

輝鉱石 一か所 → 所在不明・未発見


「カイザーの方が多いやんけ……」

 爆音社長が眉をひそめた。

「火鉱石の数だけならそうです」

 師匠は静かに首を振った。

「しかしエネルギー量で見れば、光鉱石三か所を全保有している私たちが圧倒的にリードしています。火鉱石は数が多くても、光鉱石一か所に遠く及ばない」

「なるほどな」

 爆音社長が腕を組んだ。

「せやけど……輝鉱石はまだ見つかってへんのやろ?」

 その言葉に、部屋の空気がわずかに変わった。

「ええ」

 師匠が地図の空白を見つめた。

「輝鉱石は、一か所しか存在しない。そしてそのエネルギー量は——光鉱石の比ではありません」

「つまり」

 マダムが静かに続けた。

「輝鉱石を手に入れた方が、すべてを制するということですわね」

 誰も何も言わなかった。

 地図の上で、印のない空白が、不思議な重さを持って見えた。


■ マートルのオフィス

 高層ビルの最上階。

 広いオフィスに、夕陽が斜めに差し込んでいた。

 マートルは革張りの椅子に深く腰かけ、足を組んでいた。縫い目ひとつ乱れないグレーのスーツ。190cmの長身が、椅子の上でさらに大きく見えた。

 その机の上に——

 十人のカイザーが、ずらりと並んでいた。

 華美な鎧。整った顔立ち。圧倒的な覇気。美しくも冷酷な佇まいだった。全員が腕を組み、ふんぞり返っている。物理的には完全に見上げているはずなのに、その視線はどこまでも上から目線だった。

「マートル」

 カイザーの一人が口を開いた。

「海の拠点を一度襲撃したが……あいつら、まあまあ強いぞ」

「存じております」

 マートルは表情ひとつ変えなかった。

「スキンヘッド軍を総投入すれば、何とかなるか?」

「難しいでしょうね」

 あっさりと言った。

「何だと?」

 カイザーの眉がわずかに動いた。

「彼らには光鉱石があります。火鉱石が五か所あっても、光鉱石三か所を全保有している相手には、エネルギー量で大きく劣ります。真正面からぶつかるのは——得策ではない」

 カイザーが舌打ちした。

 その瞬間、マートルはティーカップを口に運んだ。

 ほんの一瞬だけ——口の端が、わずかに上がった。

 カイザーは気づいていなかった。

「何か策でもありそうだな」

「ええ」

 マートルが地図を広げた。机の上のカイザーたちが、一斉に地図を覗き込む。

 その様子を、マートルは視線だけで静かに眺めた。

「小さきものの世界には、紛争地域がございます。リトルアドルフ、リトルポト、リトルキム——いずれも各地で勢力を拡大しております」

「使えるのか、そんな奴ら」

「さあ、どうでしょうね」

 マートルが薄く笑った。

「ただ——」

 一瞬、視線を落とす。

「仲間にする前に、師匠一味に倒されるかもしれませんね」

「チッ、使えねぇな」

「やっぱり、あの湖を叩いた方がいいんじゃないか?」

 カイザーが腕を組んだまま、机の上で足を踏み鳴らした。小さなコツコツという音が、広いオフィスに響いた。

「武力を使うのは最終手段ですよ」

 マートルは、まったく動じなかった。

「焦らず、確実に進めましょう。本当の勝負は——輝鉱石が見つかってからです」

 その一言で、カイザーたちの動きが止まった。

「輝鉱石を制した者が、すべてを制する」

 マートルは静かに続けた。

「ならば今は、力を蓄える時です」

 カイザーたちは、無言でマートルを見た。

 マートルは涼しい顔で、再びティーカップを口に運んだ。

 机の上の十人が、自分の思い通りに動いている。

 それが——どこか、楽しかった。


■ 無人島の閃光

 広大な無人島に、巨大な実験施設が建てられていた。

 サイレンが鳴り響き、研究員たちが慌ただしく避難していく。

 ドォォォォォン!

 地面が揺れた。衝撃波が広がり、きのこ雲が空を覆う。爆発の光が、一瞬だけ世界を白く染めた。

 煙が晴れると、巨大なクレーターができていた。

 後日、マートルはカイザーへ報告した。

「試作品です。実用化には、まだ時間がかかります」

 淡々とした声だった。感情の色がない。

 しかし——その目の奥だけが、静かに、確かに光っていた。


■ 夜の地図

 その頃、師匠の拠点では——

 夜が更けていた。オフィスには、まだ明かりが灯っている。

 師匠が、一人で地図を見つめていた。

 空白の部分——輝鉱石がまだない場所——を、静かに見つめていた。

 ドアが開き、マダムが入ってきた。

「まだ起きておられましたの?」

「ええ、少し考え事をしていました」

「……輝鉱石、ですわね」

 師匠は答えなかった。答えなくても、わかっていた。

「カイザーも、マートルも——同じものを見ているでしょう」

 しばらくの沈黙の後、マダムが口を開いた。

「あなたなら、必ず見つけ出せますわ」

「……買いかぶりすぎですよ」

「いいえ」

 マダムは静かに、しかしはっきりと言った。

「私はいつも、正しいものに投資してきました」

 一拍置いて。

「あなたも、その一つです」

 師匠は少しの間、マダムの顔を見た。

 それから、静かに微笑んだ。

「……ありがとうございます」

「さあ、今夜はもうお休みなさいな」

 マダムが立ち上がった。その背筋は、夜の中でもまっすぐだった。

「輝鉱石は、逃げませんわ」

 ドアが閉まった。

 師匠はもう一度だけ地図を見た。

 空白が、さっきより少しだけ——小さく見えた。




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