↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
245/276

■第243回 湖畔の胎動編 「知性という名の来訪」

傷だらけの船が帰り、静かな青年が扉を叩いた。

精密な頭脳は、感覚の世界に骨格を与える。

文明は今、新たな柱を得た。


■ 帰還

轟音だった。

湖の上空に影が現れた瞬間、師匠は思わず目を細めた。

バスほどの大きさの機体が、白煙を引きながらゆっくりと高度を落としてくる。外壁は焦げ、羽根は半分以上が歪み、継ぎ接ぎだらけの補修痕があちこちに光っている。それでも機体は諦めなかった。最後の力を振り絞るように、南西の飛行場へじりじりと近づいてくる。

着陸の瞬間、地面が揺れた。

草が一斉になびき、光鉱石のコンテナがかたかたと鳴った。師匠の足元まで、その振動が伝わってきた。

(……よく帰ってきた)

タラップが開く。蒸気が勢いよく噴き出した。

一人、また一人と降りてくる。全員ヘトヘトだ。目の下に隈、服はボロボロ。師匠の膝下あたりにずらりと並んでいく彼らの顔には、しかし出発前にはなかった何かが宿っていた。戦いの色、とでも言うべきものが。

最後に出てきたさくやだけが、なぜか胸を張っていた。

「ただいま戻りました……! 報告、山ほどあります……!」

「……うん。よく帰ってきたね」

師匠がそう言った瞬間、数人がその場にへたり込んだ。


■三日間の会議

報告会は、始まった瞬間からカオスだった。

師匠の足元に50人が集まり、全員が一斉に喋り出す。

「ジャングルで!」「光鉱石が!」「サルが!」「滝が!」「バルコが!」

小さな声が重なり合って、師匠には何を言っているのかほとんど聞き取れない。

「——一人ずつ」

師匠の一言で、全員が止まった。

そこから三日間、昼夜問わず会議が続いた。WEB画面には各拠点が次々と繋がっていく。海の拠点、飛行場、ジャングル、竹林、荒野――画面の数がどんどん増えて、コテージの壁が足りなくなった。

光鉱石をめぐるプロジェクトは、すでに国家を超える規模になっていた。

その間にも拠点は動いている。巨大保管庫の建設。飛行場の防衛線強化。エレナは医療と研究を同時にこなし、レイナは芸術と畜産を掛け持ちしている。二人が積み上げた資料が、机の上から床へとあふれ出していた。

ラーシュとユーリは到着した瞬間にどこかへ消えた。

誰も気にしなかった。いつものことだ。

「……二人とも忙しすぎるね。少し休ませないと」

師匠が小さく呟いた、その時だった。

コンコン。

扉が叩かれた。


■リトルヒジカタ

扉を開けると、師匠の膝下あたりに、整った黒髪を真ん中で分けた青年がすっと立っていた。学ランのような黒い服を着て、脇には分厚い本を抱えている。背後には十名ほどの同じ服装の者たちが、微動だにせず控えていた。

師匠は思わず少しかがんだ。

「……失礼します。私はリトルヒジカタ。東の森と北の雪山の境に住む者です。ジュウベェ殿に湖の拠点へ向かえと言われ、参上しました」

声は落ち着いて低く、よく通った。

「どうして僕のところへ?」

「鉄道を見ました。感動のあまり、三日三晩眠れませんでした」

「……そ、そう」

「居ても立っても居られず、気づけばここにおりました」

さくやが小声で師匠に耳打ちした。

「……この子、大丈夫?」

「たぶん、大丈夫だと思う」

「とりあえず……中へどうぞ」

ヒジカタは深く、深く一礼した。背後の十人も、ぴったり同じタイミングで頭を下げた。

「「「「よろしくお願いいたします」」」」

さくやは少しだけ引いた。


■ 知性という柱

仕事に参加させると、ヒジカタはすぐにその能力を示した。

机の上に広げられた図面を、30cmの体でさっと駆け回るように確認し、狂いのある寸法を次々と指摘する。必要な解析を黙々とこなし、出てくる答えはことごとく正確だった。

精密。正確。整然。

"知性"そのものが歩いているようだった。

眼鏡をかけるとさらに雰囲気が増す。視力は良いのに、だ。

「……眼鏡、必要なの?」

「乱世の、戦支度にございます」

「……そう」

師匠は特に深追いしなかった。

気づけばヒジカタの仲間は二百人に増えていた。机の上、床の上、棚の前――あらゆる場所に黒い学ラン姿が整然と並んでいる。誰も喋らない。だが質問すると止まらない。

「ヒジカタ、そのへんで」

「……御意」

さくやには、師匠が今どのヒジカタに話しかけたのかわからなかった。師匠にも、おそらくわからなかった。ヒジカタたちには、わかるらしかった。

それ以上のことは、誰も説明しなかったし、誰も聞かなかった。

それでも彼らは確かに、師匠オフィスの新たな戦力になっていった。光鉱石を巡る世界が拡大する中、その知性は新たな柱として、静かに、しかし確実に根を張りつつあった。




#ファンタジー小説 #冒険小説 #連載小説 #創作小説 #note小説 #SFファンタジー #さくやと仲間たち #光鉱石 #湖畔の胎動編 #胸アツ展開


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。