■第236話 ジャングルの光編 ピンクのイルカで渡河!
ワニが23匹現れた。ラーシュが全部叩いた。
ピラニアがボートを一秒で消した。
そしてピンクのイルカが、渡れない川を渡してくれた。
■ バルコ——方向がずれた
その頃、リトルバルコは五百人でさくやたちを追っていた。百人が先行して進んだが、手がかりは何も見つからなかった。残る四百人がジャングルに広がって包囲網を作り、慎重に進んでいた。
しかし、さくや一行は川沿いの開けた場所で合流していた。バルコ一行はジャングル寄りに進行していたため、追う方向が完全にずれていたのだ。
■ ワニが23匹現れた
川沿いで合流したさくやたちは、上流へ向けて進み始めた。「もう少し上流へ進んで、川幅が狭くなったところで対岸に移ろう」ラーシュが提案した。「ほな、川沿いを進もうや」さくやが決めた。
歩き始めてしばらくして——
ザバッ!
岸辺から巨大なワニが飛び出してきた。「うわっ!」さくやが飛び退く。ラーシュが即座に斧を構えた。ワニの顎が迫る——ラーシュが斧の峰でそれを受け止め、そのまま鼻先を力強く打った。ドンッ!鈍い音が響く。ワニが目を回して——ぼちゃ、と川に引き返した。
「よし」ラーシュが斧を持ち直した。
「また来た!」
別の場所からワニが顔を出した。ラーシュが走って移動し——ドンッ!ぼちゃ。「あっちも!」ドンッ!ぼちゃ。「右!」ドンッ!ぼちゃ。「後ろ!」ドンッ!ぼちゃ。
さくやたちが、川沿いを走り回るラーシュを見ながら次々と指示を出す。「左!」「前!」「また右!」「さっきのやつが戻ってきた!」
ドンッ!ぼちゃ。ドンッ!ぼちゃ。ドンッ!ぼちゃ。
ラーシュだけが必死だった。さくやたちは、どこか楽しそうに見ている。「ラーシュ、次は二時の方向や!」「二時?」「あそこ!あそこ!」「言い方が分からん!」
ドンッ!ぼちゃ。
「うわ、三匹同時に来た!」「右から!左から!正面から!」「うおぉぉ!」ラーシュが斧を横薙ぎに振った。ドンッ!ドンッ!ドンッ!三匹が同時にぼちゃんと川に消える。「今の、かっこよかったな」ユーリが呟いた。「ゲームみたいですね」エレナが冷静に言った。「ゲームやない!」ラーシュが怒鳴った。
ドンッ!ぼちゃ。ドンッ!ぼちゃ。
それでもワニは次々と現れる。ラーシュの息が上がってくる。汗が顎から滴り落ちる。足元の泥が跳ねる。腕が痺れ始めていた。
やがて——ワニたちが、ほぼ同時に川へと引き返していった。
「はぁ……はぁ……もう来ないだろ……」ラーシュが膝に手をついた。「お疲れ様や」さくやが笑った。「何匹叩いたんだ……」ラーシュが呟く。「数えてたんですか?」エレナが即座に答えた。「23匹です」「……」ラーシュが黙った。23匹。自分でも信じられない数字だった。
「次は川から少し離れて進もう」エレナが地図を確認しながら言った。「そうだな」ラーシュが斧を肩に担ぎ、前を向いた。その背中は、どこか誇らしげだった。
■ ピラニアがボートを消した
二日ほど進むと、川幅がぐっと狭くなる地点があった。開けた土地を見つけ、船作りが始まった。さくやの設計、ラーシュの力、ユーリの器用さ。黙々と手を動かし、小型ボートが完成した。
「まず無人で試してみよう」さくやが提案した。
小型ボートを川に浮かべ、対岸へ向けて流す。川面は穏やかだ。ゆっくりと進んでいく。全員が川面を見つめていた。誰も声を出さない。
川の中央に差し掛かった。
水面が——ざわざわし始めた。
「あれ……」レイナが呟いた。
水面の下で、何かが動いている。一つではない。無数だ。ざわざわ、ざわざわ——水面全体が、まるで生き物のように揺れ始めた。
「……まずい」エレナが一歩後退した。
次の瞬間——
ザバァアアアッ!!!!
水面が爆発した。無数のピラニアが一斉に飛び出す。銀色の体が乱舞し、鋭い歯が光る。ボートが——消えた。一秒もかからなかった。木片の一つも残らない。水しぶきだけが、静かに川面に落ちた。
全員が、一歩後退していた。
「……木片すらない」エレナが呟いた。
誰も喋らなかった。さくやが地図を静かに畳んだ。「川沿いを進もうか」「そうだな」ラーシュが短く答えた。対岸に渡るのは、諦めることにした。
■ ピンクのイルカ
しばらく進むと、夕暮れが近づいていた。川面が赤く染まる中、何か大きなものが跳ねた。バシャン!「お魚にしては大きいですね。そして、ピンク色に見えました」レイナが不思議そうに言った。「ピンクの魚……?」さくやが首を傾げた。
その夜、川沿いに並んで寝た。ワニは23匹叩いたので、警戒は最小限にした。
朝、顔に水しぶきがかかって目が覚めた。バシャン!「何や!?」さくやが目を開けると、目の前に大きなイルカがいた。ピンク色のイルカだ。嬉しそうに水をかけてくる。「……おはようさん」さくやが苦笑いした。
川面を見ると、十頭ほどのピンクのイルカが整列していた。好奇心旺盛な目で、さくやたちを見つめている。「アマゾンカワイルカか」ユーリが静かに言った。「珍しいですね」エレナが測定装置を向けた。
■ おにぎりショー
朝ごはんに、久しぶりにご飯を炊いておにぎりを作った。皆で川沿いに並んで食べていると、イルカたちがこちらをじっと見ている。川の中で整列して、何かを待っているような雰囲気だ。
「あげてみるか」ユーリがおにぎりを投げた。一頭のイルカがジャンプして、空中でキャッチした。バシャーン!水しぶきが上がる。「食べた」ユーリが目を細めた。
他のイルカたちも近づいてくる。次々とおにぎりを投げると、イルカたちは一頭ずつ整然とジャンプしてキャッチしていく。「ピィー!」「ピィー!」嬉しそうな声が川面に響く。水しぶきが朝日に照らされてキラキラと輝いている。
「賢いな」ラーシュが腕を組んで見ていた。「訓練されてるわけじゃない。本能的に、人との距離の取り方を知ってるんだろう」ユーリが答えた。「昨日のピラニアと同じ川とは思えへんな」さくやが呟いた。「同じ川です」エレナが即答した。「……分かっとるわ」
■ ピラニアが潜む川を、イルカで渡る
しばらくして出発すると、イルカたちが川沿いをずっとついてきた。
一頭のイルカがユーリの前に来て、背中を見せた。「乗れってことか」ユーリが静かに言った。躊躇なく背中に乗る。イルカが泳ぎ始めた。「乗れる」ユーリが振り返った。
さくやたちも次々とイルカの背に乗った。川に入る瞬間、誰もが水面下を意識していた。あのボートを一秒で消したピラニアが、今もこの川底にいる。
「行くで」さくやが静かに言った。
イルカが泳ぎ出した。水しぶきが顔にかかる。川の冷たさが体に伝わってくる。水面下をそっと覗くと——暗い川底に、巨大な影がゆらゆらと揺れていた。ピラニアだ。近い。
その瞬間、周囲のイルカたちが密集した。さくやたちを乗せたイルカを囲むように、隙間なく並ぶ。まるで盾だ。ピラニアの影が近づく——イルカが低く鳴いた。ピラニアが、止まった。引き返した。
誰も声を出さなかった。ただ、イルカの背中にしがみついていた。
気づくと、足の下に土の感触があった。
「対岸や……」
渡れないと諦めていた川を、いつの間にか渡っていた。おにぎりのお返しだったのか。それとも、ただそういう生き物なのか。答えは分からない。
対岸に降りると、イルカたちは尾びれを一度振って、川の向こうへと去っていった。「ありがとうな」ユーリが静かに手を振った。一同も手を振り、イルカたちを見送った。
■ 右岸のジャングルへ
新たな土地へと足を踏み入れた。
右岸のジャングル。ここから先は、誰も足を踏み入れたことのない未知の領域だった。木々の密度が、左岸とは明らかに違う。空気も、重い。
「バルコも渡れない川を渡ったんや」さくやが前を向いた。「ここから先は、追手の心配はない」エレナが静かに言った。「その分、何があるか分からない」ラーシュが斧を握り直した。
ジャングルが、静かに一行を飲み込んでいった。
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