表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
227/234

■第224話 渓谷の光編 リトルナバホの村

洞窟の闇を抜けた先に、失われかけた村があった。

格子越しに始まった会話が、深夜には焚き火を囲む輪になっていた。

新しい力が、古い絶望を打ち破れるか。


■ 洞窟を抜けて——奇跡の景色

半日歩いて、前方に光が見えた。「外だ!」

洞窟を抜けた瞬間、全員が息を呑んだ。

360度を絶壁に囲まれた、巨大な窪地。まるで大地が深く息を吸い込んで、そのまま固まってしまったような場所だ。底には柔らかな光が満ちていて、思ったより明るい。細い川が銀色に光りながら流れ、その両岸に緑が広がっている。

そして——その緑の中に、村があった。

円錐形の住まいが、整然と並んでいる。木の骨組みに動物の皮を張ったティピー。頂上からは細い煙が立ち上り、青い空に溶けていく。村の周囲には小さな畑。トウモロコシの葉が、風にそっと揺れていた。

「……綺麗やな」さくやが呟いた。厳しい渓谷の底に、こんな場所があるとは思っていなかった。渓谷の虹色の地層、巨大な魚、コヨーテとの戦い——この旅で何度も驚かされてきたが、これは別格だった。

焚き火の匂い。獣皮を鞣す匂い。どこかから、低く静かな歌声が聞こえてくる。

「見たことない個体やな」さくやが呟く。「近づいてみるか」ラーシュが前を向いた。


■ 包囲——牢へ

村に近づくにつれ、歌声が止んだ。

羽飾りと民族衣装に身を包んだリトルたちが、こちらに気づき始める。浅黒い肌。色とりどりの羽飾り。胸には美しいビーズ細工。革の服には幾何学模様が丁寧に刺繍されている。質素だが、一つひとつに手間と誇りが宿っている。そういう暮らしだと、一目で分かった。

村人たちが立ち止まる。じっとこちらを見つめる。敵意ではなく——深い警戒だった。

その時——ガサッ。

音がした。一つではない。いくつも、同時に。岩陰から。木の陰から。畑の向こうから。気づいた時には、完全に包囲されていた。弓を構え、槍を手に、じっとこちらを見つめている。

村の中から、一人が前に出てきた。堂々とした足取り。頭には立派な羽飾り。顔には赤と白で描かれた紋様。「私はリトルナバホ!お前ら、何しにきた!」

「ラーシュ、ユーリ——動かんといて」さくやが素早く言った。「おとなしくしとき」

ラーシュが小さく頷く。ユーリも従う。全員が武器に手を伸ばさなかった。

武器が没収され、縄で縛られた。村の奥へ連行される。連れて行かれた先は、岩を掘って作った簡素な牢だった。格子の代わりに、太い丸太が並んでいる。

「ほな、ここで待つか」さくやが丸太に背中を預けて座った。「暴れたって意味ないしな」「敵じゃないのは、そのうち分かる」ラーシュが静かに言った。「分かってくれればええけどな」ユーリが苦笑した。

夜が来た。


■ 格子越しの会話

深夜に近い頃——足音が聞こえた。

一人のナバホが、牢の前に立っていた。武器は持っていない。ただ、じっとこちらを見ている。様子を見に来ただけ——そういう立ち方だった。

「なあ」さくやが声をかけた。「うちはさくや。よろしくな」

ナバホが少し驚いたような顔をした。沈黙。「怒ってるか?」さくやが続ける。「急に入ってきて、ごめんな。悪気はなかったんやけど」

「怒っていない。ただ……警戒している」「そらそうやな」さくやが笑った。「見知らぬやつが急に来たら、誰でもそうなるわ」

その笑顔に、ナバホが少し毒気を抜かれたようだった。「……何しにきた、本当に」「光る石を探しに来た。青白く光る石や」ナバホの目が、わずかに動いた。「なぜ」「うちらの暮らしを、もっと良くしたいんや。光鉱石があれば、できることが増える。小さきものがもっと豊かに生きられる」

ナバホが、その言葉を確かめるように繰り返した。「……暮らしを、豊かに」

しばらくして——別の足音が聞こえた。もう一人のナバホが、牢の前に立っている。最初のナバホと何か小声で話している。やがて、その一人も地面に座った。

また足音。また一人。気づけば五人になっていた。十人になっていた。

「なんか増えてきてるな」ユーリが小声で言う。「ええことやと思う」レイナが微笑んだ。


■ 深夜——焚き火を囲む輪

深夜になる頃には、牢の前に全員のナバホが集まっていた。

誰かが焚き火を起こした。炎が揺れる。その光の中で、格子を挟んで向かい合う二つの集団——でも、もう「囚人と看守」という雰囲気ではなかった。

話が、広がっていった。

さくやたちがこの渓谷に来るまでの話。飛行船で降り立った赤茶けた大地。コヨーテとチュール。巨木を全員で引きずった四日間。虹色の地層。3メートルの巨大魚。コンドルの雛。

ナバホたちが、身を乗り出して聞いている。時々、笑いが起きた。「チュール一本で百頭落としたんか」「ほんまやで。うちも信じられへんかったわ」

やがて——ナバホが、静かに話し始めた。

「私たちは……元々、1000人いた」

笑いが、止まった。

「この窪地で生まれ、この窪地で育った。渓谷の底で、ずっと暮らしてきた。水があり、光があり、作物が育つ。外の世界は知らないが、ここで十分だった」「だが——」ナバホが焚き火を見つめる。「今は、300人だけだ」

静寂が落ちた。

「様々な動物との戦いで、少しずつ仲間を失った。特に……巨大ピューマとの戦いで。月に一度、満月の夜に現れる。弓も槍も効かない。あの体に武器が刺さっても、止まらない」「次の満月まで、あと2週間……」

レイナが地面に棒でピューマを描き始めた。1.5メートル。「もっと」3メートル。「もっと」5メートル。「もっと!」レイナの手が震える。最終的に——体長7メートル超えの巨大ピューマの絵が、地面に広がった。

「うそやろ……」さくやが青ざめる。「怪物やん」「本当だ。あれが現れると——村が、また減る」

長い沈黙が続いた。焚き火だけが、パチパチと音を立てていた。

さくやが、ゆっくりと口を開いた。「……なあ」「なんだ」「そのピューマ、うちらが倒したるわ」

ナバホが、さくやを見た。「本当か」「本当や。300人がこれ以上減るのは、見てられへん」

ラーシュが頷く。「俺たちも戦う」ユーリも頷く。「準備しよう」エレナとレイナも、決意の表情を見せた。

ナバホが、長い間さくやたちを見つめた。それから——立ち上がり、牢の扉を開けた。無言で。

「……ありがとう」さくやが呟く。ナバホが小さく頷いた。「こちらこそ」


■ 夜明け——そして影

焚き火が静かに燃えている。空が、少しずつ白み始めていた。

ナバホが空を見上げる。月が、少しずつ満ちてきていた。「あと2週間……」

レイナが静かに手を合わせる。焚き火の光に照らされた横顔は、真剣だった。「どうか……みんなが無事でありますように」

その頃——渓谷の上では。

ブレイドたちが、洞窟の入口を発見していた。




#異世界ファンタジー #冒険小説 #Web小説 #オリジナル小説 #小説投稿 #ファンタジー好きと繋がりたい #異世界冒険 #連載中 #創作クラスタ #note創作


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ