■第220話 渓谷の光編 銃声、そして新たな敵
荒野に生きる者は、言葉より先に撃つ。
だが、矢も負けてはいない。
睨み合いの果てに——何が残るか。
■発狂射撃
パンッ!
「伏せろ!」
ラーシュが叫ぶ。
全員が地面に伏せる。
パンパンパンパンパンパンパン!
止まらない。
パンパンパンパンパンパンパンパンパン!
まだ続く。
弾が地面を抉る。岩が砕ける。土煙が上がる。
パンパンパンパンパンパン!
「……いきなりなんやねん」
さくやが岩陰で頭を抱える。
渓谷の向こう側。
ブレイド300人が、完全に我を忘れていた。
二丁拳銃を両手でくるくる回しながら撃つ。
馬の上で立ち上がりながら撃つ。
叫びながら撃つ。
全員が叫びながら撃つ。
「ヒャッハーーー!!撃てー!撃ちまくれー!」
「弾が——!」
「補充しながら撃て!撃て撃て撃て!」
「挨拶代わりにしては、長すぎます」
エレナが測定装置を胸に抱えたまま呟く。
「理論値を超えた弾数です」
「今はそれどころやない」
「みんな俺の後ろに回れ!」
ラーシュが盾を構えながら叫ぶ。
ラーシュたち10人が一列に並ぶ。
キンキンキンキンキンキン!
銃弾が盾に弾かれ続ける。
火花が散る。
「神様……」
レイナが岩陰で静かに祈っている。
「早めにお願いします」
エレナが補足する。
■ユーリの反撃
その時——
ユーリが立ち上がった。
「……風が変わった」
「ユーリ、危ない!」
「大丈夫だ」
渓谷を吹き抜ける風。
その流れを読む。
矢をつがえる。
一呼吸。
「せいやっ!」
ヒュンッ
ぴたり。
矢が、ブレイドの一人の帽子を貫いた。
銃撃が、ぴたりと止む。
300人全員が、動きを止めた。
風の音だけが、渓谷を流れる。
帽子に刺さった矢を、ブレイドがゆっくりと見上げる。
5センチずれていたら、頭だった。
沈黙。
そして——
笑い出した。
「ハハッ」
小さく。
「ハハハハハッ!」
だんだん大きく。
「ヒャーッハッハッハッハ!!」
300人が、つられて笑い出す。
「ヒャッハッハッハ!!」
渓谷に笑い声が響く。
「……笑うとこか」
さくやが呟く。
「笑うとこではないと思います」
エレナが静かに言う。
帽子の矢をゆっくりと抜いた。
矢を眺める。
くるくる回す。
「ちょっとずれてたら——お前は今頃あの世行きだったぜ、相棒」
にやりと笑う。
「次は外すなよ。つまらなくなる」
「……こいつ、正気か」
ラーシュが低く言う。
「分からない」
ユーリが弓を構えたまま答える。
■底が読めない
「シャドウの邪魔をしたのは、お前らだよな」
ブレイドが銃をくるくる回しながら言う。
「色々あってな」
さくやが立ち上がって砂埃を払う。
「光鉱石を狙ってるんか」
「そうだぜ。で、お前らも狙ってる」
「ああ」
「ほう」
ブレイドがまた笑う。
「面白いじゃないか、相棒」
「……何が面白いんや」
「先に見つけた方が勝ち。それだけだぜ」
さくやが少し間を置く。
「ええやろ。勝負や」
■引き際
ブレイドが馬に飛び乗る。
帽子の穴に指を通しながら、さくやたちを見る。
「いい弓使いだぜ、相棒。次も楽しませてくれよ」
「望んでへん」
「ハハッ」
馬で去っていく。
300人が、どっと笑いながらついていく。
土煙が上がる。
静寂。
さくやがエレナを見る。
「理論値を超えた弾数って、何発や」
「計算では……3000発以上です」
「……人に向けて撃ってへんのが不思議やな」
「向けてましたよ。外れただけです」
「そっちの方が怖いわ」
「あいつ——話が通じるんか通じないんか、分からんな」
さくやが渓谷の向こうを見つめる。
「分かりません」
エレナが答える。
「でも、私の弓なら届く」
ユーリが静かに言う。
「神様に感謝ですわ」
レイナが祈る。
■遠くから
渓谷の向こう。
ブレイドが馬を走らせながら、帽子の穴を指で広げている。
「……面白い相棒が来たぜ」
誰にともなく呟く。
「光鉱石、先に見つけてくれよ」
ナイフを空に向けてくるくる回す。
「奪うのが——楽しみだぜ」
夕日が、赤茶けた大地を照らす。
渓谷に、影が伸びる。
戦いは——始まったばかりだ。
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