■第218話 遥かなる光編 発展する拠点、広がる世界、そして山積みの課題
光が満ちるほど、影も深くなる。
広がる世界は、問いを増やし続ける。
それでも、前へ。
■湖の拠点
さくやたちが飛行船に揺られている頃。
湖の拠点では、今日も潜水ロボットが動いていた。
深度2500メートル。
ブルルル……
アームが岩盤を削る。
青白い光が、暗い水底に滲む。
「順調でござるな」
監視室でノブナガが報告書を確認しながら、窓の外を見た。
かつては小さな集落だった場所が、今では見渡す限りの街になっている。
「……大きくなったでござるな」
独り言のように呟いて、また書類に目を落とした。
■海の拠点
沖では、モーガンが今日も動いていた。
怪しい船を見つけては、近づく。
「おい、止まれ」
有無を言わさず乗り込み、積荷を確かめ、素性を洗う。
少しでも引っかかれば、そのまま拘束する。
「……また一隻、引っとらえたぞ」
無線でレッドに報告する。
「ヒャッホー、今日で何隻目ですか」
「五隻目だ」
「朝から五隻!?」
「怪しい奴が多すぎる」
それだけ言って、モーガンは次の船を探しに行った。
レッドが首を振る。
「……化け物やこの人」
■高地の拠点
高地では、プロペラ機の訓練が続いていた。
ブルルル……
「よし、離陸!」
機体が浮き上がる。訓練生が操縦桿を握りしめる。
少し離れたところで、爆音社長が戦闘機の設計図を広げていた。
眺める。
また眺める。
「……難しいな」
閉じた。
師匠が滑走路の造成図を持ってきた。
「南西の丘を削って、長い滑走路を作る。格納庫と管制塔も」
「拙者たち、土木も得意でござる!」
すでにジュウベェたちが、スコップを持って並んでいた。
チンギスの遊牧民も来ていた。
「草原の民も、力仕事は慣れているぞ」
工事が始まった。
■会議室
夜。
都市開発事業部の会議室。
テーブルに、山のような資料。
師匠の秘書チームとエレナ、レイナが顔を揃えている。
さくやは、呼ばれて来た。
扉を開けた瞬間——
秘書と目が合った。
「来ましたね、さくや」
笑っていない。
「……呼ばれたら来るやろ、普通」
さくやが、そっと席に座る。
テーブルの上の書類の山を見て、少し引いた。
「では始めます」
秘書がファイルを開く。
「議題その一。ユーリの村の先、ラーシュの村への調査隊派遣です。覚えていますか」
「覚えてるで」
「同じ答えを三回いただいています」
「三回!? そんなに?」
「そんなにです」
「……来週中に編成する」
「来週中ですね。確認します」
秘書がメモに書き込む。
さくやがレイナに目配せする。
レイナが静かに祈っている。
助けてくれへんのかい、とさくやは思った。
「議題その二。東の草原の管理者です。チンギスに相談すると半年前におっしゃっていました」
「半年!? 嘘やろ」
「本当です」
「……時間の流れ、はや」
「はやくありません。止まっていたのはさくやの足です」
「今週中に話す」
「今週中ですね」
秘書がまたメモに書き込む。
「議題その三。高地の巨大洞窟の装備発注書です」
秘書が分厚いファイルをテーブルに置いた。
どさり。
「承認が止まっています」
「誰のとこで止まってんの」
「さくやです」
「……またか」
「またです」
「ていうか、なんで全部私を通さなあかんの」
「師匠がそう決めました」
「……え」
「現場判断はさくやを通せ、と。師匠は全体を見る、現場はさくやが見る、という考えです」
「聞いてへんけど」
「伝えました。三回」
さくやがペンを取る。
「師匠に一回文句言うとかなあかんな」
「それもさくやが直接どうぞ」
「議題その四。ファリダの国との航空路です。飛行船なら一日、船なら一週間の距離です」
「飛行船で一日か、それは早いな、進めよう」
「承認書があります」
またファイルが出てきた。
「……これも私か」
「全部さくやです」
エレナが静かに補足する。
「理論値を超えた滞留量です」
「そういう使い方やないと思うけど」
「的確だと思いますが」
「……せやな」
「議題その五。研修所がお泊まり会になっています」
「あー、それ聞いた」
「原因が判明しました」
「誰や」
「さくやです」
「は」
「以前『たまにはゆっくりしてもええで』とおっしゃった言葉が全体に広まりました」
「いや、あれはそういう意味で言うたんちゃうねん」
「存じております」
「でも結果は結果、って言うんやろ」
「そうです」
「……せやな」
さくやが遠い目をする。
「議題その六。ジャム工場の建設です」
「これは進めよう、ええ話や」
「承認書が——」
「わかった書く、もう何も言わんといて」
「議題その七」
秘書が、一度ファイルを閉じた。
珍しい間だった。
「師匠の労働環境の改善です」
エレナが測定装置のデータを開く。
「計算上、毎日四割超過しています。このまま続けば——」
「神様、師匠に休息を……」
レイナが祈り始めた。
「わかってる。でも師匠は『大丈夫だ』としか言わへんねん」
「だからさくやが言うんです」
秘書がまっすぐ見てくる。
「私が言うても聞かへんのに」
「言い続けるんです」
「……秘書さん、師匠より怖いかもしれん」
「師匠が私をそう育てました」
「そっか、師匠のせいか」
「師匠のおかげです」
「……なんか悔しいな」
■そして
会議が終わったのは、深夜だった。
さくやが承認書の山にサインしながら呟く。
「師匠、私を通せって言うたくせに、自分は大丈夫って働き続けるって、なんやねん」
「矛盾していますね」
秘書が珍しく、少し笑った。
「でも師匠は、さくやを信頼しているからそう決めたんだと思います」
「……それ、もっと早よ言うてくれ」
「言っています。四回目です」
「でごぁ」
窓の外。
湖の拠点。
無数の灯りが、夜を照らしている。
「でも」
エレナが静かに言う。
「これだけ課題があるのは、それだけ大きくなった証拠でもあります」
「その通りですわ」
レイナが頷く。
さくやが最後の承認書にサインして、ペンを置いた。
「明日も、頑張るで」
「頑張ってください」
秘書が、今度ははっきりと笑った。
空のどこかで、飛行船が飛んでいる。
世界は、広がり続けている。
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