■第208話 遥かなる光編 霧の竹林探索
川沿いを辿り、ようやく森を抜けた。
霧の向こうに、竹林があった。
普通の竹の、二倍も三倍もある竹が。
■竹林へ
森を抜けた先に、霧に覆われた竹林があった。
「あれや……」さくやが指差した。
幻想的な景色だった。竹は普通の竹の二、三倍はありそうなほど太く、まるで巨大な柱のように天を突いている。霧は上空にいくほど深くなり、まるで雲の中に竹が生えているようだ。
「上に何かあるのかな」ユーリが竹を見上げた。
ロープを使いながら器用に竹を登っていく。スルスルと身軽に登る姿は、まるでサルのようだ。
しばらくして、上から声が降ってきた。
「何も無い」
「降りてこい」
竹の上から降りてきたユーリが、さくやを見た。
「上から見ても霧しか見えんかった」
「やっぱり歩くしかないな」
二人は同時にため息をついた。
■拠点建設
「ここを探索拠点にしよう」さくやが提案した。「登山の第一キャンプみたいな感じで」
エレナが周囲を確認しながら頷いた。「こんな平場がいつ出てくるかわかりませんし」
「皆でゆっくり眠る場所も必要です」レイナも同意した。
その日から拠点建設が始まった。皆はコテージ作りは得意中の得意だった。東の村で、ジャングルで、高地で、何度も繰り返してきた作業だ。
「木材はこっちに」
「基礎はここに作ろう」
「屋根は竹で編めばいいんちゃう?」
五十人が寝泊まりできるコテージを、たった三日で建てた。近くの小川から水を引き、調理場を作り、倉庫を作る。
エレナが水の分析結果を伝えに来た。
「煮沸しなくても飲料水として飲めます。ミネラルバランスも良好です」
「マジで?」
「名水と言ってもいいレベルですね」
「それは助かるな」
レイナは畑を作り始めた。
「ここ、土が良いんです。野菜が育ちそうで……」
「……いつまでここに滞在する気や」さくやが苦笑した。
「備えあれば憂いなしです」
レイナは全く悪びれなかった。
ユーリは竹林の端に巨大な檻の設計図を描いていた。
「ここに柵を立てて、ここに扉を作って……」
「まだ虎のこと考えてるんか……」さくやがため息をついた。
「だって、絶対捕まえるもん」
「捕まえる算段を先に立てろや」
ラーシュが設計図を覗き込んだ。
「この檻、小さすぎる」
「そやな」とさくやが言った。「あのサイズやったら、うちらが入れるくらいの穴しかあかへん」
しばらく沈黙があった。
「……大きくする」ユーリが設計図を書き直し始めた。
■探索開始
ドローンを飛ばして竹林の広さを確認しようとしたが、霧で全く把握できなかった。カメラには白い霧しか映らない。
「あかんな……」さくやが画面を見ながら呟いた。
「歩くしかないね」ユーリが肩をすくめた。
作戦会議が開かれた。全員を半分にすることになった。二十五人が拠点待機、二十五人が探検隊となる。それを数日交互に繰り返す。
探索初日、二十五人の探検隊が竹林に入った。
竹林は深い霧で覆われており、入るとすぐに暗くなった。昼間なのに夕方のような暗さだ。
「前が見えづらいな……」
「はぐれないようにな」
獣道らしき跡を慎重に歩いていく。小川に沿って、水場を確保しながら進んだ。
数時間進んだが、竹林は終わることがなかった。どこまでも同じ景色が続く。
「これ……迷うな」エレナが不安そうに言った。
「トンネルの中を歩いているようやな」さくやが周囲を見回した。
ラーシュが無言で竹に印を刻んでいく。「戻る時はこれを頼りにするしかない」
小川が小さな滝になった場所が、少し開けて明るくなっていた。霧が薄く、空が見える。
「あそこで休もうか」ユーリが提案した。
一同が昼食を取っていると——
ラーシュが立ち上がった。
「何かくる」
「すごい数だ」ユーリも弓を構えた。
ドドドドドドドドド——
轟音とともに、白と黒の生物が一行の目の前を通り過ぎていった。
大きな体、丸い耳、白と黒のコントラスト。二足歩行で、猛烈な速さで走っている。
さくやが呆然と呟いた。
「たぶん……パンダやな……」
「二足歩行で走ってたな……十頭くらいやろか……」
レイナが目を丸くした。
「大柄なおじさんみたいですね……」
「走り方は可愛くないな……」
その時、ラーシュが叫んだ。
「でかいのが来るぞ」
「ぐるおらぁぁぁあああ」
咆哮とともに、巨大な虎がパンダの後を走っていった。地面が揺れる。竹が揺れる。
一行の真横を、完全に無視して通り過ぎた。
誰も動けなかった。
虎の視線はパンダだけを追っていた。一行など、最初から見えていないようだった。
轟音が遠ざかっていく。また静寂が戻った。
ユーリが目を見開いたまま言った。
「……崖の上にいた虎と同じ咆哮や」
「同一個体か?」さくやが聞いた。
「わからん。でもこの森にあのサイズがいるってことや」
しばらく間があった。
「……うちら、眼中になかったな」さくやが呟いた。
エレナが冷静に言った。「ユーリ、ワクワクされてますか?」
「してる。めっちゃしてる」
ラーシュが腕を組んで黙っていた。
「……どうやって手なずけるか、考えてた」
レイナが手を合わせた。
「無事に手なずけられるよう祈りを捧げます……」
「……帰ろうか」さくやが言った。
「賛成」
■夜の拠点
拠点に戻り、一同はパンダと虎の話で盛り上がった。
「パンダが二足歩行って」
「しかもめっちゃ速かった」
「あの虎、どうやって手なずけるんや」
ユーリだけは真剣に設計図を広げていた。
「罠を仕掛けて、落とし穴に落として、縄で縛って……」
「それ、怒らせるだけやろ……」さくやがため息をついた。
「じゃあどうするんや」
「……わからん。でも方法はある」
ユーリは設計図を畳んで、焚き火を見つめた。
夜は更けていった。焚き火の周りで、冒険者たちの笑い声が響いている。
明日も、探索は続く。
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