■第206話 遥かなる光編 霧の竹林へ
飛行船は、広い海を越えていた。
目指すのは、霧に覆われた竹林。
上から見ても、どこにあるかわからなかった。
■上空から
半日飛行しては無人島に着陸という工程を繰り返しながら、目標の大陸上空を進んでいた。
「見えないなぁ……」ユーリが窓から外を眺めながら呟いた。
「雲が多いですね」エレナが計器を確認した。「視界が悪い」
「竹林って、上から見たらどんな感じなんやろ」
「緑の塊じゃないですか」
「それ、普通の森と区別つかなくない?」
操縦席では、レイナが祈るように呟いていた。
「空の神よ、風の神よ……どうか私たちに道を示してください……」
「レイナ、もうちょい具体的に頼んでくれへん?」さくやが苦笑した。
ラーシュは窓際で腕を組んで、外を見ていた。
「霧に覆われた竹林か」
「危険そうですよね」ユーリが言った。
「ああ」
少し間があった。
「だから面白い」
退屈な時間が続いた。同じような景色が延々と続いている。
小さきものたちは、それぞれ暇を持て余していた。
■発見
上空から霧の竹林を探すこと三日目。
「あれ……かもしれない」エレナが計器から目を上げた。
遠くに、森とは違う色合いの一画が見えた。霧に包まれて輪郭が曖昧だったが、近づくにつれて少しずつ形が見えてくる。
「竹や」さくやが呟いた。
高度を下げるにつれて、それははっきりしてきた。広大な竹林が霧の中に広がっている。周囲の森林との境界が見え、竹の太さも上からわかるほどだった。
「でかいな……」
しかし、飛行船が着陸できそうな場所がない。
「竹が密集しすぎています」エレナが観測した。「周りの森も木が多すぎる」
「どこに降りるんや……」さくやが困った顔をした。
その時、レイナが言った。
「あそこ、川が流れています」
竹林から川が流れており、森を縫うように下流へと続いていた。数キロ先の川沿いに、着陸できそうな草地が見えた。
「よし、あそこや」さくやが決断した。
「先に降りる」ラーシュが立ち上がった。
「私も」ユーリも準備を始めた。
二人はパラシュートを背負い、ハッチを開けた。風が吹き込んでくる。
二人が飛び降りた。白いパラシュートが空に開き、ゆっくりと降下していく。
しばらくして、草地から光が瞬いた。
鏡の反射だった。事前に取り決めた合図——着陸可能のサインだ。
「よし、降りるで」
ゆっくりと飛行船が着陸した。プロペラの音が止み、静寂が訪れた。
■作戦会議
さくやが全員を集めた。
「ここから川沿いの数キロ上流に竹林がある。そこを探索して、光る鉱石を見つけるのが私たちの役目や」
飛行船をどうするか、議論があった。
「守備隊を残すべきでは?」エレナが提案した。
「五十人を分散させたら、探索も守備も中途半端になるで」さくやが答えた。
結局、飛行船は守らない方針となった。ガスを抜いてぺちゃんこにし、作動用のキーは外す程度とした。
「これで使い物にはならんやろ」
「盗まれても動かせないですね」
「まあ、ええやろ」
■森の中へ
早朝、五十人は出発した。朝霧がかかる中、川沿いを上流へ向かって歩いた。
森は高地のジャングルとは違い、涼しくて過ごしやすかった。木々の間から差し込む朝日が美しい。
「東の村に向かう森と近い感じやな」さくやが懐かしそうに言った。
「あの時も川沿いを歩きましたね」エレナが思い出した。
しかしここは未開の森だった。獣道を探して進むしかなく、時には藪をかき分け、時には倒木を乗り越えながら進む。
ユーリは前衛と後方に分散し、ラーシュは斥候の役目となった。
二人は目を合わせた。言葉はなかった。でも、同じことを考えているのはわかった。
■イノシシの群れ
少し平坦な場所を見つけ、キャンプをすることにした。
テントを張り、焚き火の準備をする。疲れた様子の小さきものたちが、ほっと一息ついた。
しかし、ラーシュは何かに囲まれている気配を感じていた。視界の端で、何かが動いている。
ユーリも気づいているようだった。弓を手元に置き、時折、森の奥を見つめている。
両者とも黙っていた。
輪になって食事をしている時、それは確信に変わった。
ラーシュの十人が、さりげなく斧を近くに置いた。
「……来る」ラーシュが小声で言った。
「全員伏せろ」
ラーシュが叫ぶと同時に、ユーリが弓を構えた。
「ブおぉぉぉぉぉぉ」
巨大なイノシシの群れが突っ込んできた。黒い毛並みで牙を光らせ、一頭一頭が成人男性ほどの大きさだ。
ラーシュが盾で受け止め、体重を乗せて押し返す。はじかれたイノシシを、ユーリが弓で撃っていく。百発百中だ。
「まだ来るの?」ユーリが叫んだ。
「撃て」ラーシュが短く答えた。
百頭は撃っただろうか。ようやくイノシシの突進が収まった。
しかし、ラーシュは顔色を変えた。
「逃げるぞ。荷物をまとめろ」
「なんで?」さくやが驚いた。
「早く」
それだけだった。
大至急、キャンプを撤去して荷物をまとめた。一行は小走りで先に進んだ。
その時——
「ごおおおおおおおおお」
新たな咆哮が背後から聞こえた。先ほどのイノシシとは比べものにならない、低く重い声だ。
遠くで木が一本、根ごとへし折れる音がした。続いてまた一本。また一本。地面が揺れている。イノシシ百頭を追い散らした何かが、こちらに向かっていた。
誰も何も言わなかった。
さくやだけが、小さく呟いた。
「……走ろか」
五十人は必死に走った。後ろからは、巨大な何かが木々をなぎ倒しながら近づいてくる音が聞こえる。地面の振動が、足の裏から伝わってくる。
「もっと速く」
「息が……」
「死ぬよりマシや。走れ」
森の中を、一行は逃げ続けた。
#小説 #ショートショート #ファンタジー #創作 #冒険 #探検 #旅 #ほっこり #キャラクター小説 #読書好きと繋がりたい




