■第205話 遥かなる光編 要塞化する海
さくやたちが空へ旅立った翌日、海の拠点は動き続けていた。
さくやの声が、港中に響いている。
嵐の前に、できることをやり尽くす。
■防塞化
「よっしゃ、そこの砲台はもうちょい右や。岩で隠れるようにせな」
小さきものたちが汗を流しながら、大砲や砲台を運んでいた。
砲台はあちこちに設置されたが、いずれも木や岩で巧妙に隠されていた。遠くから見ても、ただの自然の風景にしか見えない。しかし、いざという時には一斉に火を噴く仕掛けだ。
「これなら敵も気づかへんやろ」
さくやがニヤリと笑った。
貿易船の安全な航行を確保するため、新しい信号システムが導入された。灯台からの光の色と回数で、安全ルートや待機、迂回を知らせる仕組みだ。リアンの島、モーガンの島、ファリダの国、エレナの国——行き来する船は多い。止めるわけにはいかなかった。
リアンとレッドの巡視船は大幅に改造された。船体は軽量化されて高速化し、マシンガンの数が倍増し、小型大砲も搭載されている。
夜の海、リアンの巡視船が波を切って進んでいた。
「レッド、北東エリア異常なし」
「こちらも問題ないで」
少し間があった。
「なあリアン、お前ほんまに強いんか」
「……また始まったのか」
「顔が胡散臭いねん」
「お前の方が胡散臭いわ」
「ヒャッホー、売り言葉に買い言葉や」
二人は不毛な会話を続けながらパトロールしていた。その目だけは、ずっと海を見ていた。
■モーガン登場
そんな中、爆音社長からWEBで連絡が入った。
「面白い奴を繋いだるわ」
モニターにもう一人の顔が映った。
モーガン——伝説の海賊だ。
レッドがいくら頼んでも現れなかったモーガンが、爆音社長のたった一言で繋がった。
「久しぶりだな、社長」
「おう、モーガン。話は通っとるか」
「ああ。スキンヘッドどもか。面白そうだ」
「あんたにピッタリの相手やで」
「だから来た」
モーガンは余計なことを言わなかった。それだけで十分だった。
レッドが不満そうに言った。
「なんでおれの時は来てくれへんかったんや」
モーガンがちらりとレッドを見た。
「お前が頼んできた時は、面白くなかった」
「今回と何が違うねん」
「社長が絡んでいる」
レッドは黙った。元手下として言い返せるものが、何もなかった。
翌日、モーガンの船が港に現れた。黒い帆に髑髏の旗を掲げた、いかにも海賊らしい船だった。
爆音社長の技術指示をもとに、さくやたちがモーガンの船団を格上げした。大砲は口径が大きくなり、船首には衝角が取り付けられ、甲板には投石器まで設置されている。
「これ、海賊船やなくて戦艦やん……」リアンが呆れたように呟いた。
同時に、貿易船の護衛も行うことになった。
「海賊が護衛……複雑な気分やな」ファリダの国の商人が苦笑した。
「金をもらった仕事はきっちりやる。それが俺の流儀だ」
モーガンが低く言った。文句は出なかった。
カイザーやスキンヘッドについて話すと、モーガンは顎に手を当てた。
「聞いたことがない。どこから湧いて出た」
「謎の軍団ってことか……」さくやも顎に手を当てた。
■三者の口論
モーガン、リアン、レッドの三人は、毎日のように揉めていた。
「モーガン、そっちのルートはおれの担当やで」
「俺の方が効率がいい」
「お二人とも、冷静に——」
「リアン、黙れ」
「ヒャッホー、黙ってられるかい」
さくやはその様子を遠くから見ていた。
「……まあ、仲ええんやろな」
誰も同意しなかったが、否定もしなかった。
■サムライの訓練
前回の戦闘でスキンヘッド軍に圧されたサムライたちの訓練は、鬼気迫るものだった。
早朝、訓練場に木刀を打ち合う音が響く。
ジュウベェが百人を相手に組手をしていた。その動きは風のように速く、誰も捉えられない。
「まだまだでござる。もっと速く、もっと鋭く」
シンゲンは巨大な岩を持ち上げる訓練をしていた。
「うおおおおお」
轟音とともに岩が地面に落ちる。額に汗が光っていた。
「もう一度でござる……」
マサムネは縄術の訓練をしていた。素早く動く的に向かって縄を投げ、一瞬で捕らえる。
「殺すだけが戦ではない。敵を生け捕りにする技も必要でござる」
ノブナガは地図を広げ、作戦を立てていた。
「敵がここから上陸したら、第一部隊はここで迎え撃つ。第二部隊は側面から——」
日が暮れても訓練は続いた。月明かりの下、サムライたちは黙々と体を鍛えていた。
それを遠くから眺めていたモーガンが、さくやに言った。
「あいつら、本気だな」
「前回、スキンヘッドに圧されたんや。悔しかったんやろな」
モーガンは黙って頷いた。
「前回の借りは必ず返すでござる」
シンゲンの声が、夜の港に響いていた。
■マダムの支援
これらの大規模な活動を支えたのがマダムだった。
マダムのSPチームは毎日、必要なものを届けてくれた。食料、武器、建材、医薬品——リストに書かれたものは必ず翌日には届く。
師匠の家のモニターの向こうから、マダムが言った。
「当然よ。ここが落ちたら、私たちも困るもの」
「それにしても、手配が早すぎひんですか」
「……秘密よ」
さくやはそれ以上聞かなかった。
■夕暮れの港
夕暮れ時、さくやは港を見渡した。
巡視船が規則正しく往復し、サムライたちが訓練に励み、貿易船が安全に入港していく。モーガンの船団が沖で警戒を続け、砲台が夕日を浴びて静かに佇んでいる。
モニターから爆音社長の声が聞こえてきた。
「準備は整ったな。あとは来るのを待つだけや」
「そうやな」
「次の仕掛けも十個は考えてんねん。楽しみにしとけ」
「社長……楽しんでません?」
「……当たり前やろ」
さくやは水平線を見つめた。
「来いや、カイザー。今度は派手な花火をたっぷり見せたるで」
海は静かだった。嵐の前の静けさのように。
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