■第204話 風の行き先編 出発の朝
列車爆破の煙が、まだ残っていた。
その夜明けに、ファリダから連絡が入った。
画面の向こうの顔が、いつもと違った。
■ファリダからの連絡
モニターに映し出されたのは、疲労の色が濃いファリダの顔だった。いつもの落ち着きはそのままだが、目の下に隈ができている。
「私たちの鉱山は奪われました」
第一声から、重い空気が部屋を支配した。
「敵はカイザーと名乗り、スキンヘッド軍団を従えています」
「あのサウザーみたいな奴の名前か」さくやが呟いた。
「王族軍は大ダメージを受け、レオンたちも甚大な被害を受け捕らえられました」
「レオンが……」ラーシュが眉をひそめた。
「とても強かった」
ファリダの言葉は短いが、その重みは計り知れない。
そしてファリダは、丁寧な口調で語り始めた。
「まず彼らの戦術についてですが、極めて粗野でありながら効率的、武力偏重型でありながら組織的、知性は欠片も感じられませんが戦闘センスは一級品、教養は皆無ですが実戦経験は豊富、礼儀作法は最低ですが統率力は卓越、言葉遣いは下品極まりないですが指揮系統は明確、身なりは不潔ですが武器の手入れは完璧、態度は傲慢ですが戦略は緻密、人格は最悪ですが戦闘力は驚異的、倫理観は欠如していますが連携は見事、美意識はゼロですが戦闘美学は持っている、常識は通用しませんが戦場の常識は心得ている、会話は成立しませんが号令は的確、交渉は不可能ですが威嚇は効果的、まったくもって野蛮で未開で粗暴で乱暴で暴力的で攻撃的で破壊的で——」
「ファリダ、ちょっと待って」さくやが割って入った。「息継ぎは?」
「失礼しました」ファリダが一瞬だけ息を吸った。「要するに彼らは戦闘に特化した集団であり、文明的ではありませんが軍事的には極めて優秀、対話は不可能ですが戦闘は超一流、人間性は疑問ですが兵士としては一流、友好関係は築けませんが敵対関係は明確、信頼はできませんが脅威は本物、尊敬はできませんが警戒は必要、好感は持てませんが実力は認めざるを得ない、共存は困難ですが——」
「わかったわかった」さくやが両手を上げた。「めっちゃディスってるのは伝わった」
エレナが冷静に言った。「要するに、戦闘能力は高いが、それ以外はダメということですね」
「端的に言えばそうです」ファリダが頷いた。
「現在鉱山はカイザー軍に支配され、どんどん鉱石が運搬されています。一日あたり私たちの十倍のペースです。環境への配慮もなく、ただひたすら掘り続けています」
「すぐに枯渇しちゃうんじゃ……」ユーリが言った。
「その通りです。しかし彼らはそれを気にしていません。必要な量を確保したら次の鉱山へ移動するつもりでしょう」
通信が終わり、部屋に重い沈黙が落ちた。
さくやが仲間たちを見回した。
「皆、明日の出発の準備を万全に。あいつらが万全で乗り込んで来たら、ここも危ない。でも私たちには私たちの使命がある」
■爆音社長の激励
モニターに、爆音社長の顔が映った。
「大丈夫や。心配せんと行って来い」
ニカッと笑っている。後ろにラボの機材が見えた。もう次の仕掛けに取り掛かっているらしい。
「ここは鉄壁にするで。次の仕掛けを十個は考えてんねん。列車だけやないで。船にも仕掛けるし、岩山にも仕掛ける。あいつらが来たら、もっとド派手な花火を見せたるわ」
「社長……」
「お前らは空や。空に行って、やるべきことをやってこい。ここは俺らに任せとけ」
モニターが切れた。
さくやが小さく頷いた。
「……わかりました」
■師匠の見送り
出発の日、飛行船基地の手前で師匠が待っていた。
パイロットスーツを着ていた。
基地の中には入れない。だから、ここで待っていた。それだけのために、着てきた。
五十人の出発メンバーが、師匠の前を通った。師匠は一人一人の顔を見た。言葉はなかった。
さくやが最後に通った。
「……その格好、どうしたんですか」
「着てみたかったんです」
さくやは少し笑った。
「似合ってますよ」
師匠が頷いた。
「墜落せずに帰ってきてください」
■出発
真っ白い飛行船が朝日を浴びて輝いていた。
さくやが操縦席に座り、全員を見回した。エレナが航法を確認している。レイナが窓の外の雲を読んでいる。ユーリが静かに前を向いている。ラーシュが武器を確かめている。
「みんな、準備はいいか」
返事はなかった。でも、全員の目が答えていた。
エンジンが唸りを上げた。プロペラが回り始める。飛行船がゆっくりと浮き上がった。
地上でジュウベェたちサムライ軍が整列して頭を下げている。師匠が静かに見上げている。パイロットスーツのまま。
飛行船は、青い空へと舞い上がっていった。
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