■第202話 風の行き先編 暴走列車の前夜
出発まで、二日あった。
その夜、海から音が聞こえた。
サイレンが、拠点中に響き渡った。
■出発前夜
北西の飛行船基地、格納庫に五十人の小さきものが集まっていた。二日後の出発を控え、空気に微かな緊張感が漂っている。
「いよいよやな」さくやが呟いた。
「二日後の風向きは飛行に影響しない予想です」エレナが淡々と報告した。
「空の神よ……」レイナが祈るように言った。
「空って何を狩るんだろうな」ユーリが首を傾げた。
「空での戦闘は経験ないな……」ラーシュが腕を組んだ。
まったく会話が噛み合っていなかったが、誰もそれを気にしていなかった。各々が思いを巡らせていた。
■サイレン
その時、サイレンが鳴り響き、拠点放送が流れた。
「こちら海の拠点。近海に巨大な戦艦一隻と戦闘船が数隻、こちらへ向かって進行中。リアンとレッドの巡視船に威嚇射撃をしてきており、仲間でも貿易船でもありません。全員、戦闘時の配置に付いてください。ラーシュ、海の拠点へ。サムライたちが集結しています」
マダムの予感が的中した。
■海の拠点
海の拠点では、ジュウベェ率いるサムライ軍が各百名、総勢四百名が集結していた。後方にはレッドが百名を率いて銃を構えている。船団はすでに港付近まで迫っていた。
戦艦から、鼻につく尊大な声が響いた。
「おーい下等生物ども。このワタシの尊き声をよーく聞くがよい。我ら高貴にして優秀なる者達は、この辺境の地にあるであろう光る鉱石を発掘してやりに来たのである。何も抵抗せずおとなしくしていれば、下等生物どもから何も奪わぬ。だから邪魔をせず我らに協力するがよい。ありがたく思え」
やたらと偉そうな声が港に広がった。
戦闘船には、スキンヘッドで筋骨隆々、入れ墨だらけの小さきものが極悪な武器を担いで騒いでいた。
さくやが小声で呟いた。
「マッドマックスみたいなんおるやん」
「鎖に繋がった鉄球ぶん回してる……」
「鉄のバット持ってる奴、キングダムやん」
「一隻に百人として五百人かな」
「戦艦でしゃべってる銀髪オールバック……悪そうやな」
「わかりやすく極悪な見た目やな……」
「つーか下等生物って……」
「おーいって、フレンドリーに呼びかけてくんな……」
「ありがたく思えって、なんやねん……」
■戦闘開始
戦艦から大砲が発射され、岩山が粉々に砕け散った。それを合図に、スキンヘッド軍が次々と上陸してきた。
ラーシュが猛烈な速さで最前線に躍り出た。激しく武器と武器がぶつかり合い、火花が飛び散る。十人のラーシュが繰り返し放つ攻撃を、スキンヘッドが受け止めてしまう。十対百とはいえ、ラーシュと互角の相手だった。
他のスキンヘッドは百人単位でサムライにぶつかっていった。四百人のサムライが、五百人のスキンヘッドに圧されていた。剛力なシンゲンが武器を弾き飛ばされる場面もあった。
レッドがマシンガンを発射するも、スキンヘッド軍は分厚い盾で受け止めてしまう。
「めちゃくちゃ強いでござるな」ジュウベェが言った。「三倍の数でぎりぎり耐えているでござる」
戦艦に並んだ百人ほどの部下を従えた銀髪の男が、マイクを握った。
「おーい下等生物ども。このワタシが参戦すれば、下等生物どもなど一網打尽よ。諦めて光る鉱石の場所へ案内するがいい。我らを案内する栄誉を与えてやろう。ワタシは忙しいのだ」
さくやが小声で呟いた。
「おーい下等生物どもって三回目やん……」
「案内する栄誉って……」
「ワタシは忙しいって、知らんがな……」
「いや案内したところで、あんなに深い湖からどうやって発掘するんや……」
遠くから低く唸るような音が聞こえてきた。
全員が空を見上げた。
何かが、接近してくる。
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