■第200話 風の行き先編 飛行船基地
半年で、空き地は基地になった。
三つの格納庫が並び、白い気嚢が朝日に輝いている。
小さきものたちは、空の使い方を覚えつつあった。
■基地の全貌
北西の広大な空き地は、資材置き場から飛行船基地へと変わっていた。
巨大な格納庫が三つ並び、整備工場では爆音社長とエレナたちが飛行船の改良を続けている。管制塔からは離着陸を指示する声が聞こえてくる。
南西の拠点から西のトンネルに向かう鉄道が、北西側に延伸されていた。資材搬入が容易になり、開発は加速していった。
■縦穴での訓練
高地の縦穴での操縦訓練は、難航していた。
「もう少し左」
「これくらい?」
「もっと」
さくやが操縦桿を握りながらじりじりと微調整する。縦穴の壁まであと数センチ。ユーリが窓にへばりついて外を確認していた。
しばらく沈黙が続いた。
「……社長、見てましたか」
着陸後、さくやが通信機に向かって言った。
「見とったで。手に汗かいたわ」
「かいとったんかい」
■プロペラ機
高地の拠点裏の滑走路では、プロペラ機の訓練も始まっていた。
五人乗りの小型機で、飛行船よりも随分高速で機動性も高い。偵察や緊急時の移動に最適だった。
地上から見ていたさくやが呟いた。
「あっちの方が速そうやな」
「飛行船には飛行船の良さがあります」とエレナが答えた。
「どんな良さや」
少し間があった。
「……ゆっくりです」
■パラシュート訓練
縦穴の上から飛び降り、パラシュートを開いて着地する訓練が始まった。
ユーリは一番乗りだった。笑いながら降下して、あっさり着地した。オオワシに乗り慣れているせいか、まったく怖がっていない。ラーシュも続いた。着地。終わり。
次はレイナの番だった。
縦穴の縁に立ち、下を覗いた。目を閉じて、飛び降りた。
パラシュートが開いた。順調に降下している。あと少しで着地——という瞬間、風に流されて縦穴の壁に静かに激突した。
しばらく間があった。
「着地しました」
壁に貼り付いたまま、レイナが穏やかに報告した。
誰も何も言わなかった。
次はエレナだった。
「風向き、降下速度、着地点、全て計算済みです」
飛び降りた。パラシュートが開いた。降下速度、完璧。風向き、完璧。着地点——縦穴の壁のへこみにはまった。
しばらく沈黙があった。
「……理論値を超えた誤差が生じました」
爆音社長の笑い声だけが、通信機から漏れてきた。
■さくやの才能
飛行船の操縦は、さくやが別格だった。
操縦桿を握ると、まるで飛行船が自分の体の一部になったかのように動く。風を読み、気流を利用し、縦穴の壁すれすれを平然と通り抜ける。
「さくやは天才やな」
「いやいや、師匠の設計がええからですよ」
さくやは謙遜しながらも嬉しそうだった。
レイナは風や雲の動きを読むのが得意で、副操縦士としてはまった。エレナは機器の操作と整備が得意で、常に機体の状態を把握している。
パラシュートさえ除けば、三人のチームワークは完璧だった。
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