■198話 風の行き先編 三千メートル
深度計が、また新しい数字を刻んでいく。
誰も見たことのない深さへ、ロボットは降りていく。
湖底に、何かが待っていた。
■着底
「深度、二千九百メートル」
さくやの声が、通信機から聞こえてきた。
その時、明らかに底が見えた。青白く光る底が、カメラにはっきりと映っている。
「見えた。底や」
爆音社長がモニターを指差した。エレナたちも身を乗り出している。
「深度、三千メートル到達」
「湖底に着きました」
潜水ロボットがゆっくりと着底した。砂利のような音が、通信機を通して聞こえてくる。
■光る砂利
光は、鉱石から発せられていた。
湖底一面に、青白く光る砂利のようなものが敷き詰められている。夜光石よりも明るい光を放っていた。
「持って帰れそうか?」
「砂利みたいな感じや。ロボットの手で掴めそう」
さくやはロボットの大きな手を操作した。指が開き、湖底の光る砂利を掴む。手いっぱいに、砂利を握りしめた。
「よし、浮上するで」
随分と時間をかけて、さくやは浮上した。三千メートルという深さから、慎重に、ゆっくりと。
湖の周りには、大勢の小さきものが集まっていた。ユーリ、ラーシュ、マケダ。みんなが、さくやの帰還を待っていた。
「見えた」
誰かが叫んだ。
湖面が泡立ち、潜水ロボットが浮上してきた。夕日に照らされて、水しぶきが虹色に輝く。
さくやがコックピットから降りると、大歓声が上がった。
「ただいま。見てきたで、湖の底」
■発熱
ロボットの手を開くと、光る砂利がこぼれ落ちた。
だが、その瞬間。
光る砂利は、空気に触れた瞬間オレンジ色に変化した。そして、熱を帯びた。
「熱っ」
さくやが手を引っ込めた。砂利は地面に落ちて、じりじりと音を立てている。草が焦げる匂いがした。
「水や」
爆音社長が叫んだ。エレナが湖の水を入れた容器を持ってきた。さくやは慎重に光る砂利を容器に移した。
するともとの青白い光に戻った。
「水に触れると、冷えるんや……」
爆音社長は容器を覗き込んだ。青白く光る砂利が、水の中で静かに輝いている。
■エレナの解析
光る砂利はラボに持ち帰られ、エレナの解析チームが分析を開始した。
数日後、エレナが爆音社長と師匠を呼んだ。
「来てください」
二人がラボに入ると、エレナは解析結果を広げた。
「石炭のようなエネルギー資源になります」
エレナの声が、わずかに震えていた。
「石炭の百倍……いや、数千倍のエネルギーを発するかもしれません」
「何やて」
爆音社長が目を見開いた。
エレナは燃焼実験の記録を見せた。
「一粒で、すでに三日間燃え続けていますが、まだ燃え尽きる感じがありません。体積は、ほとんど変化していないです」
いつも沈着冷静なエレナが、頬を紅潮させていた。
「つまり……ほぼ永遠に燃え続けるってことか?」
師匠が尋ねた。
「そうかもしれません。少なくとも、わたしたちが知っている燃料とは、まったく異なるものです」
エレナは容器の中の光る砂利を指差した。
「これがあれば、船はもっと速く走れます。発電所はもっと大きな電力を生み出します。世界が、変わります」
しばらく、誰も口を開かなかった。
■師匠の判断
爆音社長は、師匠を見た。
「師匠、どうするよ。湖底三千メートルに新エネルギーだってよ」
師匠はしばらく考え込んでいた。光る砂利を見つめ、窓の外の湖を見つめ、それから言った。
「マダムに相談しよう」
「マダム?」
「この発見は、世界を変えるかもしれない。だからこそ、慎重に扱わないといけない。エネルギーは、人を幸せにもするし、争いの種にもなる」
エレナも頷いた。
「これだけのエネルギーがあれば、誰もが欲しがるでしょうね」
その夜、師匠はマダムに連絡を取った。
「マダム、実は——」
マダムは静かに聞いていた。
「……なるほど。面白い発見ね」
「どうすればいいと思う?」
「まずは研究を続けること。どれだけあるのか、どう採取するのか、どう保存するのか、どう使うのか。全て把握してから、次のステップに進みましょう」
「それから——」
マダムは少し間を置いてから言った。
「小さきものたちにも、知らせなさい。この発見は、みんなのものよ」
■会議
翌日、湖の拠点で会議が開かれた。
さくや、エレナ、爆音社長、ユーリ、ラーシュ、マケダ、レイナ。みんなが集まった。
師匠が光る砂利を見せながら説明した。
「湖底三千メートルで見つかった、新しいエネルギー資源だ。世界を変える力を持っている。でも、使い方を間違えれば、争いの種にもなる。だから、みんなで考えたい」
さくやが手を挙げた。「まずは、もっと調査すべきやと思います」
エレナが続けた。「安全に使う方法も、研究しないといけません」
ユーリが静かに言った。「争いにならないように、みんなで分け合えたらいいね」
マケダが頷いた。「村のみんなも、きっと喜びます」
ラーシュが腕を組んだ。「悪い奴らに狙われるかもしれない。守る準備も必要だ」
師匠は、一人一人の顔を見て、微笑んだ。
会議は夜遅くまで続いた。
決まった。まずは調査と研究を続ける。準備が整ったら、全ての小さきものたちに分配する。
師匠は湖を見つめた。
「新しい時代が、始まるな」
「みんなで力を合わせれば、きっとうまくいく」
爆音社長が隣に立った。
二人は、湖を見つめ続けた。
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