■第197話 風の行き先編 青白い光
湖底に、何かがある。
それだけはわかった。
それ以外は、何もわからなかった。
■さらに深く
「もう少しだけ」
さくやはロボットを操縦し、さらに深く潜った。
これまでより慎重に、ゆっくりと降下した。生物はいなかった。植物も見当たらない。夜光石の光が照らす範囲に、岩肌だけが続いている。
「深度、二千二百メートル」
「機体、正常。圧力、許容範囲内」
「深度、二千五百メートル」
エレナがデータを確認しながら言った。
「圧力、かなり高くなってます。そろそろ限界かも……」
爆音社長は決断した。
「一旦上がろう、さくや」
だが、さくやは答えなかった。
「さくや?」
「……社長」
さくやの声が、低く、静かだった。
「なんか、雰囲気がちゃうねん。下の方に、うっすら光ってるのが見える」
爆音社長はモニターを凝視した。
確かに、画面の下の方に何かある。光っているような、いないような。夜光石とは違う色だった。
「危険や」
「もう少しだけ。あれが何か確認できるまで、いかして」
爆音社長は歯を食いしばった。
「……わかった。でも、異変が出たらすぐ上がるんやぞ」
「了解です」
■二千八百メートル
そこから、さらに慎重に降下した。
二千六百メートル。二千七百メートル。二千八百メートル。
「機体、まだ正常」
「圧力、ギリギリやけど持ちこたえてる」
エレナの声にも、緊張が混じっていた。
光は、カメラでも確認できるようになっていた。青白く、広範囲に広がっている。夜光石の光とはまるで違う。もっと静かで、もっと深い光だった。
「何や、あれ……」
爆音社長が呟いた。
「深度、二千八百メートル」
さくやの声が、震えていた。
「見えます……何かがあります……」
画面に、徐々に形が現れてきた。
塔のようなもの。広場のようなもの。石で作られた、何か。そして、その全てが青白い光を放っている。
「もっと近づきます」
さくやがロボットを操縦した。形が、徐々に鮮明になっていく。
「なんで、こんなところに……」
エレナが呟いた。
誰も答えなかった。
■緊急浮上
その時、さくやが叫んだ。
「社長、圧力が急上昇してます」
「今すぐ上がれ」
「わかりました」
さくやはロボットを急上昇させた。だが、カメラだけは最後まで下を向いていた。
青白い光。石の構造物。そして、塔の頂上に、球体のような何か。それも、光を放っている。
「あれは——」
その瞬間、通信が途切れた。
「さくや」
爆音社長が、叫んだ。
モニターが、真っ暗になった。
■浮上
数分後、通信が復旧した。
「社長、大丈夫です。機体は無事です。今、深度千五百メートル。上昇中です」
爆音社長は、息を吐いた。
エレナも、胸を撫で下ろした。
一時間後、潜水ロボットが湖面に浮上した。コックピットが開き、さくやが飛び出してきた。
「社長。見ました。湖底に、何かあります」
「ああ、記録も残っとる」
「もう一度、行きたいです。今度はもっと長く」
爆音社長は考え込んだ。
「そうやな……でも、もっと機体を強化せんと。二千八百メートルは、ギリギリやった」
「わかりました。改良しましょう」
エレナも、目を輝かせていた。
■夜の湖
その夜、爆音社長は湖を見つめていた。
静かな湖面。星が映り込んで、美しかった。
だが、その下には深い深い暗闇があり、そして何かがある。何千年前のものなのか。誰が作ったのか。なぜ、光を放っているのか。
「面白くなってきたな……」
爆音社長は、ニヤリと笑った。
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