■第196話 風の行き先編 湖底への挑戦
湖は、真ん中に進むほど深くなる。
誰も、その底を見たことがなかった。
爆音社長は、それが気に入らなかった。
■ラボにこもる
三ヶ月、爆音社長はラボにこもっていた。
湖に潜るための潜水艇の開発のためだった。現在確認できた深さは約五百メートル。耐圧式潜水服の限界だった。
八百メートル潜れる潜水艇は、割と早く完成した。だがそこから先は難航した。百メートル深くなるごとに何かが起きる。圧力で機体が軋む。接合部から水が染み出す。機器が誤作動を起こす。
トライ&エラーを繰り返しながら、千五百メートル潜れる潜水艇まで作った。当初は五人乗りで計画していたが、四人、三人と減っていき、今は二人乗りだった。
「まだまだやろな……」
深さ二千メートルを想定していた。テストでの限界は千八百メートル。しかも三十分で機体が耐えられなくなる。
「エレナを呼ぼう」
■エレナ登場
数日後、三十人のエレナたちが貿易船に便乗して現れた。
「爆音社長、待たせました」
エレナたちは元気よくラボに飛び込んできた。貿易船での航海の間、すでにシミュレーションを重ねていたらしい。ラボに現れた頃には、改良案を提示してきた。
「ここの接合部を変更して、この素材を使えば——」
エレナの説明は的確だった。
そこからトライ&エラーは一気に加速した。二人三脚で開発を続け、ついに二千メートルに常駐できる潜水艇が完成した。
■ロボット型
だが、新たな課題があった。視界の確保と、障害物の撤去だった。
ある日、さくやが言った。
「ロボット型にして欲しいんやけど」
「ロボット型?」
「腕と脚があって、障害物を除去できるような」
爆音社長は目を輝かせた。
「面白い」
数週間後、ガンダムみたいな潜水艇が完成した。頭部にコックピット、両腕と両脚が動く。実験では二千メートルでも問題なかった。
ただし、一人乗りになってしまった。
「誰が乗るか……」
さくやたちが揉めた。危険を恐れず乗りたい人員が大多数だった。
「くじ引きで決めよう」
■夜光石
湖での実験を続けていたある日、マケダが湖に現れた。
「おお、マケダか」
爆音社長はマケダを見つけると追いかけた。
「きゃあ」
マケダは笑いながら逃げた。捕まえて抱え上げると、首からぶら下げている光る石が目についた。
「それ、何だ?」
「夜光石って言うんです。地下の村を明るくしている特殊な鉱石なんですよ」
「……ちょっと借りてもいいか?」
「いいですよ」
試しに潜水ロボットに夜光石をぶら下げて潜水してみた。エレナとさくやたちがモニターを見守る。
「深度五百メートル。夜光石、光ってる」
「深度千メートル。もっと明るくなってる」
夜光石は、深く潜るほど明るく輝く性質だった。千五百メートルに達すると、岩や植物、魚の姿まで見えた。
「これだ」
爆音社長は、マケダを抱き上げて回した。
「きゃあ、回らないでください」
マケダは笑いながら叫んだ。
■湖底へ
夜光石を百個取り付けた潜水ロボットで、いよいよ深度二千メートルへの挑戦が始まった。
くじ引きで選ばれたさくやが、コックピットに乗り込んだ。
「行ってきます」
「気をつけろよ」
潜水ロボットがゆっくりと湖に沈んでいった。深度計が数字を増やしていく。五百、千、千五百——。
「深度、二千メートル到達」
「見えます。湖底が見えます」
さくやの声が、通信機から聞こえてきた。
「何が見える?」
「岩、植物、魚……それから——」
さくやの声が、しばらく途切れた。
「……社長、なんか、ある」
「何がある?」
「わからへん。でも、なんか……建物みたいな形してる。光ってる」
爆音社長はモニターを凝視した。画面の隅に、何かが映っている。輪郭があるような、ないような。
「引き続き潜るか?」
「……もう少しだけ」
通信機の向こうで、さくやが息を呑む音がした。
#小説 #ショートショート #ファンタジー #創作 #冒険 #探検 #発見 #ほっこり #キャラクター小説 #読書好きと繋がりたい




