■第195話 風の行き先編 出港
港が、毎日少しずつ大きくなっていく。
岸壁が整備され、船が増え、人が増える。
リアンは、その変化を毎日見ていた。
■超大型船
見回りをしていると、見慣れない船が停泊していた。
でかい。
これまで見てきた船の中でも、群を抜いて大きい。三本のマストが空高くそびえ、甲板は広々としている。船体には美しい装飾が施されていた。
ファリダの貿易船だった。
「まあリアンお久しぶりねお元気でしたかわたくしはおかげさまで元気でしたよ荒野の鉱石と砂漠の国の調度品を持ってきたのよろしければ見ていただけるかしら……あら、まだいらっしゃるの」
甲板から飛び降りてきたファリダが、にこやかに言った。
リアンは愛想よく笑い返しながら、心の中で思った。
(相変わらずやな……)
丁寧なのに、なぜか断れない。柔らかいのに、気づけば向こうのペースになっている。
「ああ、久しぶり。元気だったよ」
「鉱石? 何に使うんだ?」
「石炭に代わる燃料としてエレナが研究しているのよ石炭の数十倍のエネルギーを生み出すそうでこれがあれば生活は豊かになるでしょうせっかくですから持ってきたのありがたく受け取っていただけるかしらわたくしの国は豊かですからこういうことができてよかったわ」
リアンは積み荷を見た。黒く光る鉱石が、箱にぎっしりと詰められている。
石炭の数十倍のエネルギー。それを使えば、船はもっと速くなる。風任せではなく、自分の意志で海を駆ける船が実現するかもしれない。
「砂漠の国は今どうなってるんだ?」
「おかげさまで繁栄しておりますよわたくしが統制してハリムが物流全般を担いレオンが開拓してくれているのさくやの設計部隊も百人が常駐してインフラ整備に尽力してくれているわあの子たちはほんとによく動くのねもう百人ほどいただけないかしら師匠はいらっしゃるご相談したいことがあるの」
リアンは、すぐにでも行きたくなった。
「なあ、ファリダ。俺も一緒に行っていいか?」
「まあもちろんよリアンが護衛してくださるならこちらとしても安心だわ」
■レッドも来る
その様子を見ていたレッドが、ファリダに近づいてきた。
「俺たちも乗せてくれ。戦いになったら任せろ」
ファリダは、レッドをまじまじと見た。
「まあ悪そうな方ねそれは頼もしいわ実はここまで来るのに海賊らしき船が迫ってきたことがあったの用心棒が増えるのはありがたいわ……師匠にはご報告しなくてもよろしいのかしら」
「ヒャッホー、乗った」
レッドは笑った。
■ドクロのボタン
翌日、爆音社長が護衛船を用意してくれた。
小型だが、頑丈そうな船だった。操縦席には、ドクロのボタンがいくつも並んでいる。
「これ、何だ?」
爆音社長は笑った。
「絶対押すなよ……って言いたいところだけど、十個くらいあるから、何かあれば押せってこと」
「押すと、どうなるんだ?」
「押してみればわかるさ。敵を驚かせる程度のものから本気でヤバいやつまである」
爆音社長は、意味深に笑った。
リアンは少し不安になったが、頼もしくも感じた。
■出港
ファリダは数日滞在した後、言い出した。
「せっかくですから色んな国を回って貿易をしたいわ物資を運んで人と人をつなぐのがわたくしの仕事だと思えてきたのこの頭脳世界のために使わないともったいないでしょう」
「わかった。俺が先導する」
「ありがとうリアン少しだけ頼りにしているわ」
船団が出航した。ファリダの超大型船を中心に、リアンの船、レッドの護衛船が並ぶ。小型の貿易船も数隻が続いた。
岸壁で、さくやたちが手を振っている。リアンも手を振り返した。
「行ってくるよ」
風が帆を膨らませた。海は穏やかで、空は青かった。
ファリダの船には、さくやが十人乗船していた。甲板を掃除したり、帆を調整したり、積み荷を整理したりしている。
「さくやたちも来てるのか」
「えぇいつも仕事を探して船をうろうろしているの雑用などしなくていいのにやるって聞かないのよまあ助かっているけれど」
■海賊
数時間後、見張りのレッドが叫んだ。
「船だ。後方から近づいてくる」
地平線の向こうから、黒い帆の船が来ていた。速い。明らかにこちらを追っている。
レッドが護衛船の舳先に立った。
「来たか。相手してやる」
ファリダが甲板から声をかけてきた。
「リアンどうなさるの戦う逃げる?」
「まずは様子を見る。近づいてきたら——」
リアンは、操縦席のドクロのボタンを見た。
「ボタンを押す」
「ボタンを押せば何もかも解決するよ。そんな気がする。レッドの出番もないさ」
海賊船は、どんどん近づいてくる。
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