■第192話 風の行き先編 光の縦穴
西の岩山の上に、別の世界があった。
ジャングルがあり、サバンナがあり、知らない動物がいた。
ユーリは毎日、どこかへ行った。
■高地の日々
三十人のユーリたちは、高地を隅々まで探索していた。
遺跡に住むゴリラ一家、コロシアムに棲む白き虎のチュール一家。彼らとはすぐに意気投合した。ワニやラーテルの群れは、ユーリの姿を感じると逃げていった。何度か対峙して、叶わないと悟ったらしい。
ユーリは別に戦いたいわけではなかった。ただ、自然の摂理として強い者には従うのだろう。
暑さだけはなかなか慣れなかった。額に汗が滲む。喉が渇く。それでも、この地は美しかった。
「三日経ったら、必ず帰ってきてね」
さくやにそう言われていた。どこに行ってもいいけど、心配だからと。
ユーリは毎回、三日で帰った。
■縦穴の脇で
巨大な縦穴の脇に、さくやとエレナの部隊が陣を張っていた。
ユーリが覗きに行くと、さくやが嬉しそうに説明してくれた。
「地熱と縦穴の滝の水力を利用した発電所を作るんや」
「はつでんしょ」
「そう。電気を作る場所。そのエネルギーで、縦穴を昇降できる巨大なゴンドラとエレベーターを設置するの」
よくそんなことが思いつくな、とユーリは感心した。
さくやとエレナは毎日、設計図を広げては何かを議論している。時に笑い、時に真剣な顔をして。二人とも、とても楽しそうだった。
■感電
ある日、放電した。
ユーリが振り返ると、さくやとエレナが髪を逆立てて立っていた。
「大丈夫?」
「あ、あかん……」
さくやは髪が逆立ったまま、笑っていた。エレナも同じように髪が逆立って、くすくすと笑っている。
ユーリは何も言えなかった。
■完成
試作を繰り返した。何度も失敗した。
そして、ついに成功した。
縦穴の底まで届きそうな明かりがついた。暗闇だった縦穴が、光に満ちた。滝が光を反射して虹色に輝く。壁に生える苔や植物が、緑色に浮かび上がる。
「すごい……」
ユーリは息を呑んだ。
美しかった。それ以外の言葉が出なかった。
■忍者部隊
さくやには忍者部隊というのがいた。
縦穴の壁にゴンドラの設備を取り付けていく。まるで蜘蛛のように壁を這いながら作業をしている。
ユーリは真似してみた。
見事に落下した。
オオワシが急降下して、ユーリを救った。
「ありがとう……」
オオワシの背中で、ユーリは苦笑した。忍者たちは何事もなかったかのように作業を続けている。
何百メートルも地下へ降りるゴンドラとエレベーターの工事は、難航した。難航するほど、さくやもエレナも楽しそうだった。寝る間も惜しんで対策を練り、試行錯誤を繰り返す。
ユーリは資材を運んだり、動物たちが工事現場に近づかないよう誘導したりした。少しでも役に立てることが嬉しかった。
■扉が開く
数か月後、ゴンドラもエレベーターも完成した。
さくやとエレナが抱き合って喜んでいる。忍者部隊も、疲れた顔で笑っている。
ユーリは完成したゴンドラを見上げた。巨大な籠が、縦穴の壁に沿ってゆっくりと動いている。
「さあ、マケダの村へ行こうや」
さくやが手を差し伸べた。
ユーリはその手を取った。
「よし」
縦穴の底に、光が満ちていた。
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