■第191話 風の行き先編 草原を駆ける
シベリアンハスキーの足で、丸一日。
大草原は、どこまでも続いていた。
風が吹くたびに、草が波のように揺れる。
■草原の中へ
ラーシュたち十人は、モンゴリアンドッグ二百匹を引き連れて草原を駆け続けた。
大型犬たちは驚くほど従順だった。水も飲めない丸一日、それでも元気に走り回っている。
ラーシュはハスキーの背に揺られながら、不思議な気分に浸っていた。
あの雪山で、さくやたちと出会ってから。凍てつく世界から救い出されたようだった。共に旅をし、合戦をし、そして今、こんな草原を駆けている。
空が広い。どこまでも走れる気がする。
■チンギスの国
やがて、チンギスの国が見えてきた。
城はなかった。外壁もなかった。
移動式の天幕が点々と並び、馬やヤギ、ヒツジが草を食んでいる。家畜とともに生き、草原を移動しながら暮らす人たちだった。特に守るべき領土というものが、ここにはなかった。
ラーシュは連れてきた犬たちを解放した。
二百匹が、それぞれの天幕へ散っていく。嬉しそうに走り回っている。
ラーシュはそれを見て、少し笑った。
■草原の日々
それからラーシュは、チンギスの国にしばらく留まった。
動物に干し草を与え、それ以外の時間はハスキーと草原を駆けた。
ある日、さらに東へ向かってみた。一日で往復できる範囲には、草原が広がっているだけだった。畑には小麦とじゃがいもが育っている。
戦うことはできる。誰かを守ることもできる。だが、作物を育てることは彼の領域ではなかった。
それでも、大草原はラーシュを解放してくれた。いつまでもここにいたいと思えた。
■さくやの部隊
一週間が過ぎると、草原の向こうから人影が現れた。
「よう、ラーシュ」
さくやが手を振った。後ろには測量機材を担いだ部隊が続いている。
「ずっと続く草原だから、設計も測量もやりやすいんや」
さくやは地図を広げながら、楽しそうに鉄道計画を語った。どこに駅を作るか、どのルートを通すか、資材をどう運ぶか。聞いているだけで、ラーシュも楽しくなってくる。
杭打ちをラーシュも手伝った。
「なあ、さくや」
作業をしながら、ラーシュは尋ねた。
「遊牧民の村に、鉄道が必要なのか?」
さくやは笑った。
「地図に残る仕事が、楽しいんよ」
その目が輝いていた。
■思い
数日、手伝いをしながら、ラーシュはふと思った。
雪山で出会ったさくや、ユーリ、レイナ、エレナのことを。
あの凍てつく世界から救ってくれた彼女たちの役に立ちたい。十人となった自分たちの使命は、誰かを守ることだと思った。
「なあ、さくや」
杭打ちの手を止めて、ラーシュはその思いを伝えた。
さくやは少し間を置いて、ラーシュを見た。
「なら、湖の拠点に戻ったらいい。きっと師匠を中心に、新たな旅を画策してると思う。そこできっと役立てるはずやで」
ラーシュは頷いた。
■帰路
翌日、ラーシュは設計部隊に別れを告げた。
「気をつけてな」
「ああ、またな」
草原を後にして、河川改修工事の現場に寄った。チンギス軍は着々と工事を進めていた。
最初はびくびくしていた彼らも、一週間一緒に働いたら意気投合した。夜は相撲大会になった。最初はチンギスに投げられた。地面に叩きつけられて、なぜかラーシュは笑った。チンギスたちも笑った。最後はラーシュが全員放り投げていた。
「強いな」
「お前もだ」
笑い合いながら、互いを称え合った。
翌日、東の村でジュウベェたちに別れを告げた。
「またいつでも来い」
「ああ、また会おう」
鉄道に乗り込んだ。窓の外を流れる景色を眺めながら、ラーシュは思った。
これを作った爆音社長はすごい。構造はよくわからないが、犬よりも速い。
誰かを守る。それが自分の使命だ。
やがて、湖の拠点が近づいてきた。新たな旅が、そこで待っているはずだった。
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