■第186話 氷の城編 氷の城への道
知らない道が、まだあった。
印がなければ、たどり着けなかった。
城は、霧の向こうにあった。
■印の発見
六十人は雪山の奥へ進んだ。
ラーシュが先導し、ハスキーたちが鼻を地面に近づけながら続く。さくやとジュウベェ、エレナとレイナがその後に続いた。
数日が経った。
道は途中で何度か消えかけたが、ユーリの矢印が続いていた。木に刻まれた小さな印、石の上に置かれた目立つ石。ユーリが一歩ずつ残してきた痕跡を辿る。
その日の昼過ぎ、ラーシュが足を止めた。
岩の陰をじっと見ている。
「どうした」さくやが聞く。
「……ここに印がある」ラーシュが静かに言った。「この山に何年もいたが、こんな場所は知らなかった」
岩の陰に、矢印が刻まれていた。ユーリの印だった。方向は、誰も踏み込んだことのない方向を指している。
「ここから先か」さくやが呟く。
ラーシュは頷いた。
■獣道
矢印の先は、道がなかった。
密生した木々、深い雪、倒れた幹。それでもよく見ると、わずかに踏み固められた跡がある。獣が通ったような、かろうじて道と呼べる痕跡だった。
「行けるか」さくやがラーシュに聞く。
「行く」ラーシュは短く答えた。
六十人は獣道に入った。木の枝が顔を叩き、雪が服の中に入り込む。足元は不安定で、何度も転びそうになった。ハスキーたちだけが軽やかに進んでいく。
「ユーリはこんな道を連れて行かれたんか」さくやが息を切らしながら言う。
誰も答えなかった。
■氷山
森を抜けると、目の前が開けた。
氷山だった。
青白く輝く巨大な氷の塊が、天まで届くようにそびえている。表面は鏡のように滑らかで、六十人の姿が歪んで映り込んでいた。氷の山肌には、かろうじて人が通れるほどの足場が続いていた。
「……でかい」さくやが首を上げて見た。
「足場が狭い」エレナが静かに言う。「一人ずつ、慎重に進む必要があります」
「落ちたら終わりでござる」ジュウベェが下を覗き込んで言う。
谷底は霞んで見えなかった。
ラーシュは無言で足場に踏み出した。六十人がその後に続く。岩肌に手をつき、一歩ずつ体重を確かめながら進む。風が吹くたびに体が揺れ、氷の欠片が谷底へ落ちていく音が遠く響いた。
誰も余計な声を出さなかった。
一時間かけて、足場を渡りきった。
■氷の城
足場を抜けた先に、霧があった。
白く濃い霧が、前方を覆っている。六十人は足を止め、霧が晴れるのを待った。
やがて風が吹き、霧が流れた。
遠くに、建物が見えた。
霧の向こう、雪山の奥深く。青白い影がそびえている。城のような形をしていた。塔が見え、壁が見え、それが何であるか、距離があっても分かった。
ラーシュは建物を見つめたまま、しばらく動かなかった。
「……長年この山にいるが」ラーシュが静かに言う。「ここにたどり着いたのは初めてだ」
「ユーリの印がなければ来られへんかった」さくやが言う。
「ああ」ラーシュは頷いた。「迷宮のような道だった。気づきもしなかった」
さくやはラーシュを見た。
「ずっと十人なのか」
ラーシュは答えなかった。
焚き火の炎が揺れる。風が吹き、雪が舞う。
「今日はここでキャンプにしよう」ラーシュが静かに言った。
六十人はその場にキャンプを張った。遠くに城の影が見える場所で、焚き火が灯された。
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