■第184話 氷の城編 極寒の小屋
生きるために、作る。
次に来る者のために、残す。
小さき者たちの知恵が、雪山に灯をともした。
■空が黒くなる
昼過ぎ、空がまた暗くなり始めた。
灰色から黒へ。あの冷気が来る前兆だった。
「全員、木の陰へ!」
四十人が散開し、太い木の幹に身を寄せた。ハスキーたちも低く伏せる。次の瞬間、大砲のような冷気が山の奥から叩きつけてきた。
木が軋み、雪が水平に飛ぶ。体の芯まで一瞬で凍りつくような衝撃だった。それでも木の陰に身を潜めていたおかげで、直撃は免れた。
突風が収まると、空が少しだけ明るくなった。
「……これが定期的に来るんか」さくやが白い息を吐きながら言う。
「夜になるともっと激しくなるはずです」エレナが静かに言う。「野外でのキャンプは危険です」
さくやは周囲を見渡した。木々、岩、雪。何もない。
「小屋を建てよう」
■小屋を建てる
四十人が動いた。
ジュウベェたちが木を切り、さくやが設計を考え、エレナが構造を計算し、レイナが資材を運ぶ段取りをする。ハスキーたちも荷物を引いて手伝った。
「柱はここに四本、壁は雪を詰めて断熱する」さくやが指示を出す。
「屋根の角度はこれくらいあれば雪が積もっても崩れません」エレナが補足する。
寒さの中、黙々と作業が続く。指先の感覚が消えても、誰も手を止めなかった。
二時間ほどで、小さな小屋が完成した。
狭いが、四十人が身を寄せ合えばなんとか入れる。壁の隙間に雪を詰め、屋根を重ねると、外の冷気がだいぶ和らいだ。
「……でも、まだ寒いな」さくやが言う。
「暖炉があれば解決します」エレナが静かに言った。
「作るか」
またジュウベェたちが動いた。石を積み、煙突を通し、薪を集める。一時間後、小屋の中に暖炉が完成した。炎が灯ると、小屋の中が一気に温まった。
「……なんか快適になってきたな」さくやが周りを見渡す。
レイナが荷物から布を取り出して床に敷き始めた。ジュウベェの一人が棚を作り始めた。エレナが換気の計算をしながら窓の位置を調整した。
気づいたら、それなりの家になっていた。
「……ちょっと待って」さくやが言う。「ウチら今、何しとるんや」
「家を建てていました」エレナが真顔で答えた。
「ユーリ探しに来たんやで」
しばらく全員が黙った。
「……でも、次に来る者のためにもなりますわ」レイナが穏やかに言う。
「……まあ、ええか」さくやが諦めたように笑った。
■夜
夜になると、冷気の突風が何度も来た。
その度に小屋が軋んだが、暖炉の炎は消えなかった。四十人は身を寄せ合い、ハスキーたちの体温も借りながら夜を越えた。
「ユーリは毎日こんな寒さの中で生きとったんやな」さくやが暖炉を見つめながら言う。
「それだけ強い」ジュウベェが静かに言った。
「そうやな」
レイナが手を合わせる。
「ユーリ、今夜も無事でいてください」
夜が明けた。突風は収まり、空が白くなり始めた。
出発の前に、さくやは小屋の壁に矢印を刻み、外に目印の石を積んだ。
「この道、また誰かが通るかもしれん。その時のために残しといたろ」
暖炉にはまだ火が残っていた。
四十人は小屋を出た。矢印はまだ続いている。
「行こう」さくやが言った。
雪山の奥へ、足跡が続いていく。
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