■第180話 氷の城編 ロープウェイの異変
毎日来るから、来ない日が分かる。
当たり前が消えた時、初めて気づく。
雪山から、何かが消えた。
■いつもの朝
レイナの村では、毎朝ロープウェイが動く。
定員百人、片道三十分。ほぼ自動制御で動くそのゴンドラは、雪山のユーリの村とレイナの村を繋いでいた。ユーリはよく来た。トナカイの毛皮を持ってきたり、釣った魚を届けたり、何も持たずにただ来ることもあった。レイナの村の者たちも、ユーリが来ることを当たり前のように思っていた。
その日、さくやとエレナはレイナの村を訪れていた。
昼過ぎ、ゴンドラが到着した。
誰も乗っていなかった。
レイナはゴンドラの中を覗き込んだ。いつもユーリが座る場所に、誰もいない。荷物もない。ただ冷たい空気だけが残っていた。
「……今日は来ないんやな」さくやが言う。
「そうなんですが」レイナは首を振った。「ユーリは来ない時は必ず事前に伝えてくれます。何も言わずに来ないのは……初めてですわ」
エレナが操作室に向かい、雪山側の映像を確認した。
「乗り場に人影はありません。昨日から無線も繋がっていない」
さくやはゴンドラを見た。それから、二人を見た。
「行こう」
■雪山へ
さくやとレイナ、エレナはそれぞれ十人ずつ声をかけ、三十人がゴンドラに乗り込んだ。ロープウェイが動き出し、雪山へ向かって上昇していく。眼下にレイナの村が小さくなり、やがて雲の中に消えた。
ゴンドラの中は静かだった。
さくやは窓の外を見ながら言う。
「ユーリが何も言わんのは、おかしい」
「ええ」レイナが静かに頷いた。
エレナが手帳を開きながら言う。
「最後にユーリが来たのは昨日。今日は朝から応答がない。無線の不通と合わせると、単なる外出では説明がつきません」
「つまり、何かあったということやな」さくやが静かに言った。
誰も否定しなかった。
■村の残骸
ゴンドラが雪山側の乗り場に到着した。
扉が開いた瞬間、冷たい風が吹き込んだ。乗り場には誰もいなかった。雪が静かに積もり、足跡一つない。
乗り場のすぐそばにユーリの村があった。
だが、そこにあったのは村の残骸だった。
家々は壊れ、壁が崩れ、屋根が落ちている。生活道具が雪の上に散乱し、木々が根元から倒れていた。雪に半分埋もれた荷物、割れた器、引き裂かれた毛皮。誰かが暴れたような跡が、村全体に広がっていた。
「……何があったんや」さくやの声が低くなった。
誰も答えなかった。三十人は黙って村の中を歩いた。風が吹き、雪が舞う。白銀の世界に、静寂だけが広がっていた。
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