■第179話 王都奪還編 新しい街と新しい旅
完成した街に、風が吹く。
別れは、次の出会いの始まりだ。
小さき者たちの旅は、まだ続く。
■完成
三週間後、主要工事が終わった。
新しい上水道が城下町全体に張り巡らされ、各地区の防火水槽が満水になった。雨水管と上水管が分離され、ろ過設備が各所に設置された。病院や学校への供給量が回復し、井戸の水が澄んでいた。
さくやは完成した水道の蛇口を開けた。
勢いよく、水が出た。
「……出た」
エレナが静かに言う。
「理論値通りです」
レイナが手を合わせる。
「神様のお導きですわ」
ユーリは水に手を触れ、何も言わなかった。
リオンが大きな声で言う。
「やったぞ!」
ハリムが隣で腕を組んでいた。
「ええ街になったな」
■ファリダハウス
その日の午後、ファリダに案内された四人は、城下町の中心部へ向かった。
「あの、実はもう一つご報告があります、正直に申し上げると昨日まで知らなかったのですが、リトルさくや様たちが設計されておりまして、わたくし、今朝初めて聞きまして、その、えっと」
「見てから話しましょう」さくやが笑った。
角を曲がると、建物が現れた。
白かった。城下町の赤茶色の石造りの中に、白い石だけで建てられた建物がそびえている。左右対称に並ぶ柱、幅広の石段、磨かれた正面扉。威厳があり、清潔で、どこか神聖な雰囲気があった。城下町の中で、その建物だけが別の空気を纏っていた。
入口の上に、小さな表札がかかっている。
「ファリダハウス」と書いてあった。
ファリダは固まった。
「……これ、わたくしの名前でございますが」
「大統領府や」さくやが言った。「ファリダさんが仕事する場所。書類も会議室も全部揃えた」
「なぜわたくしの名前が」
「ファリダさんが三年間言い続けたから、この街が変わったんや。名前をつけるのは当然やろ」
ファリダは白い建物を見上げたまま、しばらく動かなかった。
「……正直に申し上げると、泣きそうです」
「泣いていいで」さくやが言った。
「大統領が就任式の前に泣くわけにはいきません」ファリダは真顔で答えた。「でも、ありがとうございます」
■就任式
夕暮れ、広場で就任式が開かれた。
市民が集まり、ハリムとリオンの仲間たちも並んでいる。王が壇上に立ち、ファリダに大統領の証を手渡した。
ファリダは受け取り、広場を見渡した。
「えっと、あの、前回の挨拶が長すぎたとご指摘をいただきましたので、今回は短くいたします」
広場がざわついた。
「正直に申し上げます。この街をもっと良くします。以上です」
広場が、どっと沸いた。
さくやが笑いながら言う。
「短すぎるやろ」
「解説は不要でしたか」ファリダが振り返る。
「今回は不要や」
■レオンからの報告
就任式が終わった頃、リオンがさくやに近づいてきた。少し神妙な顔をしている。
「さくや、実は荒野から報告が来てて」
「なんや」
「船のことなんやけど……荒野の端に停めてた船、もうないぞ。盗まれたんとちゃうか」
さくやは固まった。
「……え」
「俺も確認したんやけど、跡形もないって。誰かに持っていかれたんやろな」
さくやはしばらく黙った。それから空を見上げた。
「……どうやって帰るんやろ」
エレナが静かに言う。
「現状、帰る手段がありません」
「分かっとるわ」
レイナが困ったように手を合わせる。ユーリは黙って遠くを見ていた。
四人の間に、長い沈黙が落ちた。
■ファリダからの贈り物
翌朝、出発の準備をしていると、ファリダが現れた。書類を抱えている。いつも通りだった。
「あの、正直に申し上げると昨日から考えておりまして、皆様にはこの街のために大変お世話になりましたので、お礼をしたいと思いまして、大統領として初めての公務がこれで良いのかどうかは分かりませんが、ともかく手配いたしました」
港に案内されると、一隻の船が停まっていた。
さくやのものより、ずっと大きかった。白い帆、しっかりした船体、広い甲板。新しい船だった。
「……これ」
「王都の造船所で作りました、正直に申し上げると予算の承認を自分で出すのは少し照れくさかったですが、大統領の権限でございますので、あの、受け取っていただけますか」
さくやはしばらく船を見つめた。それから、ファリダに向き直った。
「ありがとう、ファリダさん」
「嘘をつくのが苦手なので、本当に感謝しているとだけ申し上げます」
■旅立ち
四人は船に乗り込んだ。ハリムとリオンが岸で手を振る。ファリダは書類を抱えたまま、静かに立っていた。
帆が風を受け、船が動き出した。
さくやは振り返り、王都を見た。城壁、城下町、新しい水道が張り巡らされた街。白いファリダハウスが、青空の中に輝いていた。
「……ええ街になったな」
「理論値を超えました」エレナが静かに言う。
「神様が、ずっと見守ってくださっていましたわ」レイナが手を合わせる。
ユーリは風を受けながら、遠くの水平線を見ていた。
ポニーが甲板で鼻を鳴らした。
風が吹き、帆が大きく膨らんだ。次の旅が、始まろうとしていた。
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