■第177話 王都奪還編 王の決断
一週間は、長いようで短い。
王は考え、街は動き、時間は流れた。
そして、歴史が変わった。
■一週間
王が「考えたい」と言った翌日から、さくやたちは動き始めた。
報告会の結果を待ちながら、街の再開発計画を具体に進める。設計図を更新し、工事の優先順位を整理し、資材の調達ルートを検討する。ファリダの一人が毎日隠れ家を訪れ、城内の情報を運んでくる。
「マルコナは別室で王と話し合いを続けているようです、内容は分かりませんが、王は毎日資料を読み返しているとのことでして、正直に申し上げると良い兆候だと思います、たぶん」
「たぶん、か」さくやが苦笑する。
「確信はありません。でも希望はあります」
■街の中で
その間、四人は城下町で動いた。
さくやはインフラ工事の段取りを組み、工事業者に話を聞いて回った。エレナは改修計画の精度を上げ、工期と費用をより細かく計算した。レイナは市民の声を集め、どの地区から優先すべきかをまとめた。ユーリは城下町の水路を歩き、現地の状況を再確認した。
七日目の朝、ファリダの一人が隠れ家に駆け込んできた。
「王が会見を開きます、今日の昼です、詳細は聞いていませんが、全市民に向けた発表とのことで、わたくし、朝から呼ばれておりまして、正直に申し上げると何が起きるのか分からなくて少し怖いです」
「大丈夫や」さくやが言った。「行ってきてください」
■王の会見
城の広場に、市民が集まっていた。三百万人の街が、静かに息を潜めている。
王が広場の高台に立った。
「この国は長い間、わたしが全ての決定を行ってきた。しかしそれは、必ずしも正しい形ではなかった」
広場が静まり返った。
「五年前、戦争を勝ち抜くためにマルコナの力を借りた。それは事実だ。しかし、その後の判断の全てが正しかったとは言えない。市民の生活を支えるべきインフラ整備が滞り、予算が正しく使われていなかった。それはわたしの監督不足でもあった」
さくやは広場の隅で、息を殺して聞いていた。
「この国を、新しい形に変える。これからは一人の王が全てを決める国ではなく、市民の代表が国を運営する、大統領制に移行する」
広場がざわめいた。
「初代大統領には——」
王は広場を見渡した。
「ファリダを任命する」
■ファリダの演説
広場の端に立っていたファリダは、固まった。
書類を抱えたまま、目を丸くして、王を見ていた。
「ファリダ、前へ」
ファリダはゆっくりと歩み出た。高台に上がり、王の隣に立つ。広場の三百万人が、ファリダを見ていた。
ファリダは口を開いた。
「えっと、あの、わたくし、ファリダと申しますが、正直に申し上げると今この瞬間まで全く聞いておりませんでして、朝に呼ばれた時も何の話か分からないまま来てしまいまして、王様がいつも通りお話しされるのかと思っておりましたら大統領制とおっしゃいまして、その瞬間はまだ他の方のお話かと思っておりましたがわたくしの名前が出てきまして、えっ、となりまして、えっ、となったまま今ここに立っております、頭が真っ白でございます、正直に申し上げると今も真っ白でございます」
広場がざわつく。
「あの、三年間、インフラ整備の問題を申し上げ続けてきたわけでございますが、正直に申し上げると毎回握り潰されておりまして、握り潰されるたびに悲しかったわけでございますが、諦めなかったのはなぜかと申しますと、嘘をつくのが苦手だからでして、問題があると分かっているのに黙っているのは嘘をついているのと同じだとわたくしは思っておりまして、それで言い続けたわけでございますが、正直に申し上げると言い続けることがこんな結果になるとは全く思っておりませんでした、思っておりませんでしたが、あの、リトルさくや様たちがいらっしゃらなければここまで来られなかったわけでして、ハリム商人のご紹介がなければそもそもお会いできていないわけでして、ハリム商人の紹介状には『ちょっと抜けたリーダーを筆頭に優秀な四人組』と書いてありましたが、今となってはその表現は少し失礼だったかもしれないと思っております、ちょっと抜けているどころか全然抜けていらっしゃいませんでして、むしろわたくしの方が今この瞬間かなり抜けております」
広場がどっと笑った。
「あの、大統領というのが何をする役職なのかはこれから勉強いたします、正直に申し上げるとまだよく分かっておりません、ただ一つだけ申し上げられることがございまして、わたくし、嘘をつくのが苦手でございますので、正直に全部申し上げます、良いことも悪いことも、都合の悪いことも、全部申し上げます、それだけは自信を持って申し上げられます、あの、よろしくお願いします、以上でございます、たぶん」
広場が、しばらく沈黙した。
さくやが大きな声で言った。
「つまり、全力でやるということです!」
広場が、どっと沸いた。
ファリダは真顔でさくやを見た。
「解説ありがとうございます」
「どういたしまして」
「正直に申し上げると助かりました」
「知っとる」
王は静かに微笑んだ。それから、広場に向かって言った。
「マルコナについては、別途処分を決める。この国の新しい出発を、共に祝おう」
広場に歓声が上がった。
■その夜
宿に戻ると、四人は肩の力が抜けた。
さくやが天井を見上げながら言う。
「……ファリダさんの挨拶、長かったな」
「内容は全部本当のことでしたわ」レイナが微笑む。
「解説が必要な挨拶は初めて見ました」エレナが静かに言う。
ユーリは短く言った。
「ファリダらしかった」
さくやは笑った。
城下町の夜に、祝いの灯りが揺れていた。
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