■第176話 王都奪還編 ファリダVSマルコナ
言葉には、重さがある。
証拠には、力がある。
正直な者が、最後に立っていた。
■翌朝
翌朝、再び大広間に集まった。
昨日と同じ顔ぶれだったが、空気が違った。王は玉座に深く座り、腕を組んでいる。マルコナは昨日より少し表情が硬かったが、落ち着いていた。ファリダは書類を山ほど抱え、いつも通りだった。
王が口を開いた。 「昨日の資料について、さらに詳しく聞きたい。ファリダ、話してくれ」
ファリダは一歩前に出た。
「はい、それでは申し上げます、インフラ整備予算の流用について、わたくしが三年間調査してきた記録をご説明いたします、まず最初に申し上げたいのは、この問題は単なる予算管理の問題ではなく、市民の生活と安全に直結しているということでして、先日の火事もその一例でありまして、上水道の水圧不足と防火水槽の枯渇が被害を拡大させたことは昨日リトルさくや様がご説明の通りでして——」
■マルコナの反論
マルコナが静かに口を開いた。
「陛下、ファリダ秘書官のおっしゃることは理解できます。インフラ整備が重要であることは、わたくしも否定しません」
広間の空気が変わった。攻撃ではなく、認める言葉から始まった。
「しかし陛下、思い出していただきたいのです。五年前、戦争が終わった直後のこの国の状況を。隣国はまだ不安定でした。国境の警備を強化しなければ、再び侵攻される恐れがあった。あの時、防衛予算を優先したのはそのためです」
王は黙って聞いていた。
「インフラ整備を後回しにしたのは、段階的な計画があったからです。まず防衛を固め、国が安定したところで順次整備を進める。その計画を陛下にもご説明し、ご承認いただいたはずです」
王がゆっくりと頷いた。 「確かに、そういう話だった」
ファリダが口を開く。 「では、なぜ三年が経っても整備が進んでいないのですか、段階的な計画であれば、防衛が安定した後にインフラ予算が執行されるはずでして、しかし現地を見ると三年前と何も変わっていません、予算だけが毎年計上されて、使われていない」
マルコナは静かに答えた。 「隣国の情勢がまだ不安定だからです。防衛を緩める状況ではない。それはファリダ秘書官も承知のはずです」
「情勢は存じています」ファリダは止まらなかった。「しかし防衛予算と上下水道予算は別の項目です、防衛が必要だとしても、上下水道の整備予算がそこに流れる理由がありません、では予算はどこへ行ったのですか」
マルコナは一瞬だけ間を置いた。
「緊急対応のために流用した。それは必要な判断だった」
「緊急対応の記録はありますか」エレナが静かに言った。「予算の流用には記録が残るはずです。該当する記録を確認したいのですが」
マルコナは答えなかった。
■王の揺れ
王は腕を組み直した。
「マルコナ、防衛優先の判断は正しかったと今でも思っている。あの時、お前の判断に助けられた」
マルコナが頭を下げる。
「しかし」王は続けた。「インフラ予算の行方については、説明が必要だ。段階的な計画があったのなら、その進捗はどこにある」
「それは……」
「先日の火事で、近隣まで延焼した」王は静かに言った。「防火水槽が空だった。水圧が足りなかった。あれは防げたはずだ」
マルコナは口を開きかけ、止めた。
■盗聴記録
ファリダが続けた。
「もう一点、ご報告があります、わたくしの隠れ家が先日放火されましたが、犯人はマルコナ参謀の軍と判明しています、そしてその夜、マルコナ参謀はご自身の部屋でこのようにおっしゃっていました」
ファリダは紙を取り出し、読み上げた。
「『報告書は燃やした。ファリダが何を言っても証拠はない。王様は私の言葉しか聞かない』」
広間が凍りついた。
王の目が、ゆっくりとマルコナに向いた。
「これは捏造です」マルコナは静かに言った。「証拠のない言葉は——」
「証拠があります」エレナが静かに遮った。「盗聴記録です。音声として残っています」
マルコナは口を閉じた。
「防衛優先の判断は正しかったかもしれません」ファリダが静かに言った。「でも、報告書を燃やす必要はなかったはずです。正しい判断であれば、証拠を消す必要はないはずです」
広間に、長い沈黙が落ちた。
■王の沈黙
王は玉座に深く座り直し、目を閉じた。
誰も何も言わなかった。ファリダは書類を抱えたまま、じっと王を見ていた。さくやは息を殺した。エレナは手帳を閉じた。レイナが静かに手を合わせた。ユーリは動かなかった。
長い沈黙の後、王は目を開いた。
「ファリダ」
「はい」
「三年間、よく言い続けてくれた」
ファリダは一瞬、言葉を失った。それから、静かに頭を下げた。
王はマルコナを見た。
「マルコナ。お前には別室で話を聞く」
マルコナは何も言わなかった。ただ、静かに頭を下げた。その表情から、何も読み取れなかった。
王は立ち上がり、広間を見渡した。
「街の再開発を進める。ファリダ、リトルさくや、引き続き協力してくれ。そして……少し時間をくれ。一週間ほど、考えたいことがある」
「かしこまりました」ファリダが深く頭を下げた。
■広間の外
四人は広間を出た。
廊下に出た瞬間、ファリダが立ち止まった。書類を抱えたまま、壁に背をつけた。
「……三年間、言い続けてきてよかったです」
さくやは笑った。 「ファリダさんが正直やったから、ここまで来られたんや」
ファリダは真顔で頷いた。 「嘘をつくのが苦手なんです」
城下町の空が、青く広がっていた。
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