■第175話 王都奪還編 王との面会
証拠は、言葉より重い。
準備した者だけが、その場に立てる。
さくやは、立った。
■報告会
朝、城の大広間に通された。
天井が高く、石造りの柱が左右に並んでいる。正面に玉座があり、王が座っていた。穏やかな顔つきの小さきものだった。威圧感より、どこか疲れた印象があった。
王の隣に、マルコナが立っていた。黒衣、冷たい目。四人を見て、一瞬だけ表情が変わった。
資料を持ったさくやを見て、マルコナの目が細くなった。
「……資料がある」
小声だったが、さくやには聞こえた。
ファリダが前に出て、王に頭を下げた。 「本日はお時間をいただきありがとうございます。旅の方々より、城下町のインフラ整備についてご報告申し上げます」
王は頷いた。 「聞こう」
■さくやのプレゼン
さくやは一歩前に出て、深く頭を下げた。
「旅の者です。ここから東南の方角、船で十日ほどのところにある島から参りました。リトルさくやと申します。荒野に上陸し、鉱山を経て、砂漠を越え、オアシスの村々を通り、この王都へ辿り着きました」
王は少し身を乗り出した。 「それは長い旅だな」
「はい。ハリム商人のご紹介で、ファリダ秘書官にお取り次ぎいただきました」
王は頷いた。 「続けてくれ」
さくやは地図を広げ、写真を並べ、数字を示す。上水道の老朽化、防火水槽の不足、施設への供給不足、雨水管と上水管の合流箇所。一つひとつ、丁寧に説明していく。
「これは先日の火事の現場です」さくやが写真を示す。「消火活動が間に合わなかった理由は、上水道の水圧不足と防火水槽の枯渇です。インフラ整備予算が適切に使われていれば、被害は最小限に抑えられていたはずです」
王は身を乗り出した。
「インフラ整備費は、毎年予算を組んでいる。それが使われていないということか」
「はい」さくやは答えた。「現地と図面を照合すると、少なくとも十二カ所で工事済みの記録があるのに実際には手がついていません」
王の視線がマルコナに向いた。
マルコナが口を開く。 「その資料の信憑性は確認されていません。旅の者が持ち込んだ情報です。精査が必要かと」
「精査できます」エレナが静かに言った。「全てのデータの出典と測定方法を説明できます」
王はしばらく黙っていた。
「続けてくれ」
さくやはプレゼンを続けた。改修計画、優先順位、工期と費用の見積もり。一ヶ月分の仕事が、言葉になって広間に響いた。
マルコナは何度か口を挟もうとしたが、王は手を上げてそれを制した。
プレゼンが終わると、広間に沈黙が落ちた。
王はゆっくりと口を開いた。
「インフラ整備費の流用について……詳しく聞きたい」
マルコナの声が飛ぶ。 「陛下、この者たちは外部の者です。城下町の事情を正確に把握しているとは——」
王は静かに言った。
「マルコナ、少し黙っていてくれ」
広間が、静まり返った。
ファリダは顔を上げ、さくやに目をやった。さくやは小さく頷いた。
王は資料をもう一度手に取り、じっと見つめた。
「明日、改めて話を聞こう。ファリダ、場を設けてくれ」
「かしこまりました」ファリダは深く頭を下げた。
■広間の外
四人は広間を出た。廊下に出た瞬間、さくやは息を吐いた。
「……手応えあったな」
「王の目が変わりました」エレナが静かに言う。
「神様が動いてくださっていますわ」レイナが手を合わせる。
ユーリは何も言わず、ただ前を向いていた。
廊下の奥から、マルコナの足音が遠ざかっていった。
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