■第173話 王都奪還編 隠れ家と設計図
計画は、静かに育つ。
見つかれば、終わる。
だから、静かに。
■作業の日々
ファリダと四人の作業が始まった。
宿の一室に地図と設計図が広がり、朝から夜まで議論が続く。さくやが設計を引っ張り、エレナが数字を積み上げ、レイナが市民への影響をまとめ、ユーリが現地を確認しに行く。ファリダは王族側の資料を持ち込み、早口でまとめながら議論に加わった。
「この区画の上水管、図面では二十年前に交換済みとなっていますが、わたくしが現地を確認しましたら実際には交換されておらず、つまり書類と現実が一致していないということでして、正直に申し上げると予算が出たのに工事がされていないということはその予算がどこかへ消えているということで、これは非常に問題でして」
「つまり横流しやな」さくやが端的に言う。
「そういうことです」ファリダは真顔で頷いた。
エレナが資料を重ねながら言う。
「現地データと図面を照合すると、少なくとも十二カ所で同じ問題が見つかります。工事済みの記録があるのに、実際には手がついていない」
「全部、マルコナが来てからの話や」ユーリが静かに言った。
■尾行
三日目の朝、ユーリが宿に戻るなり言った。
「ファリダに尾行がついている」
全員が黙った。
「昨日から気づいとった。城から出るたびに、同じ人影が後をつけとる」
ファリダは少し間を置いてから言った。
「……やはりそうでしたか、わたくしも気になっておりましたが確信が持てず、正直に申し上げると怖かったので見て見ぬふりをしておりました、申し訳ございません」
「今後、ファリダさんは直接ここへは来ない方がいい」さくやが言う。「ファリダさんの千人のうち、百人で出かけてもらう。街のあちこちに分散して、最後の一人だけがここへ来るようにする。尾行がついても、どこへ向かっているか分からへん」
ファリダは頷いた。
「できます、やります、正直に申し上げると百人を同時に動かすのは少し大変ですが絶対やります、むしろこういう作戦、わたくし好きです」
「好きなんか」さくやが思わず笑う。
「はい、理にかなっていると思います」ファリダは真顔だった。
■隠れ家の移動
さくやは隠れ家を変えることにした。
最初の宿から、城下町の外れにある小さな建物へ。そこが怪しくなれば、また別の場所へ。脇道が迷路のように入り組んだこの街は、隠れるには都合がよかった。
「迷路みたいやから逆に使えるな」さくやが笑う。
荷物を運びながら、レイナが言う。
「でも、ファリダさんの一人がちゃんと辿り着けますか」
「目印を決めた」ユーリが短く言った。
翌日から、ファリダの百人が街に出た。城を出て、大通りを歩き、脇道に入り、市場を抜け、路地を曲がり、それぞれ別の方向へ分散していく。尾行がついても、百人がばらばらに動けばどこへ向かっているか分からない。やがて一人だけが、目印を辿って隠れ家に現れる。
「来ました」その一人が言った。書類を抱えている。ファリダの百人分の小ささが、さらに小さく見えた。
さくやは受け取りながら言う。
「ご苦労さん。ファリダさんによろしく」
■一ヶ月
それから一ヶ月、作業は続いた。
さくやが設計図を引き、エレナが解析し、レイナが模型を作り、ユーリが現地を踏査する。ファリダの一人が分散して情報を運んでくる。隠れ家は三度変わった。
設計図は少しずつ厚みを増し、模型が形になっていった。上水道の改修ルート、雨水管の分離工事、ろ過設備の増設、施設への供給強化。城下町の水回りを根本から立て直す計画が、確かな形になっていった。
ある夜、ファリダの一人が隠れ家を訪れ、小さな紙を差し出した。
さくやが開くと、短い文章が書いてあった。
『王が戻りました。報告会の日程が取れました。来週です。』
さくやは設計図を見渡した。山のように積み上がった資料、模型、数字。一ヶ月分の仕事が、そこにあった。
「……間に合ったな」
エレナが静かに言う。
「理論値通りです」
レイナが手を合わせる。
「神様のお導きですわ」
ユーリは模型を一度だけ見て、頷いた。
城下町の夜に、風が吹いた。
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