■第171話 王都奪還編 ファリダの本音
本当のことを言う者は、時に孤独だ。
それでも言わずにいられない。
それがファリダという小さきものだった。
■街の案内
翌朝、ファリダが宿に迎えに来た。書類を山ほど抱えている。昨日より多い。
「おはようございます、今日は街をご案内しますと昨夜申し上げましたが、正確には案内しながら現状をご説明したいと思っておりまして、良いことと悪いことが両方ありますが悪いことの方が多いので先にお伝えしておきます、覚悟はよろしいでしょうか」
「朝からそれか」さくやが苦笑する。
「事実ですので」
四人はファリダの後についた。
■大通り
大通りは朝から賑わっていた。店が次々と開き、荷車が行き交い、人々が声を上げている。一見すると活気のある街だった。
「この街の人口は推定三百万人でして」ファリダが歩きながら説明する。「王都として長い歴史があり、岩窟構造を利用した建築技術は他国に類を見ません、石材の加工精度も高く、道路網も整備されています、ただし」
「ただし?」エレナが反応する。
「税が法外です」
ファリダは立ち止まり、大通りの店を指差した。
「あの香辛料屋さん、昨年より品数が三割減っています、税を払うために在庫を売り払ったからです、隣の布屋さんは先月まで三店舗ありましたが今は一店舗です、理由は同じです、あちらの食堂は値段が二倍になっていますが量は半分です、お客さんの顔を見ればわかります、皆さん疲れています」
さくやは大通りを見渡した。賑わっているように見えて、確かに疲弊が滲んでいた。
「いつからそうなったんですか」
「マルコナ参謀が来てからです」ファリダは間髪入れずに答えた。「正確には五年前、戦争の後に王様がマルコナ参謀を迎えてからです」
■脇道
ファリダは大通りを外れ、脇道へ入った。石造りの建物が迫り、日よけが頭上を覆う。
「こちらが一般市民の居住区です、正直に申し上げると大通りより実態がよく分かります」
路地には洗濯物が干され、石畳に座って話す者、荷物を運ぶ者、井戸に並ぶ者がいた。皆一様に、どこか疲れた顔をしていた。
「水道の状態が悪いんですか」エレナが井戸を見ながら言う。
「はい、上下水道の老朽化が深刻でして、修繕予算を申請しても通らないんです、理由を調べましたらインフラ整備の予算が別の用途に流用されていることが分かりましたが、誰に報告しても握り潰されます、わたくしが王様に直接申し上げようとすると必ずマルコナ参謀に阻まれます、もう三年続いています」
「三年」レイナが息を呑む。
「はい、三年です、わたくし諦めていませんが、正直に申し上げると心が折れそうになることは毎日あります」
さくやはファリダを見た。小柄で、書類を山ほど抱えて、早口でまくしたてる。でもその目は、真剣だった。
■戦争の話
路地の突き当たりにある小さな広場で、ファリダは立ち止まった。
「戦争の話をしてもよいですか」
「聞かせてください」さくやが答えた。
「五年前、隣国と戦争になりました、原因は国境付近の資源をめぐる争いでして、最初は小競り合いでしたが次第に大きくなりました、そこにマルコナ参謀が現れたんです」
「武器の仲介をしたんですよね」エレナが言う。
「ご存知でしたか、そうです、マルコナ参謀は各地の武器商人を束ね王族に武器を供給し戦争を有利に進めました、王様はマルコナ参謀を命の恩人と思っています、今でも、たぶん、おそらく」
「たぶん、おそらく?」さくやが引っかかる。
ファリダは少し間を置いた。
「王様はとても善良な方です、民を思いやっています、ただ……マルコナ参謀の言葉を疑うことができないんです、恩人ですから、それを利用されているとわたくしは思っていますが、証拠がありませんでした、今まで」
「今まで?」
ファリダは四人を順番に見た。
「ハリム商人からの紹介状に書いてありました、『こいつらなら証拠を掴める』と」
さくやは空を見上げた。
「……ハリムさん、ほんまに商人やな」
■夕暮れ
案内が終わった頃、空が赤く染まっていた。
ファリダは書類を抱え直しながら言う。
「本日は長々とお付き合いいただきありがとうございました、正直に申し上げると、こんなに話を聞いてもらったのは初めてでして、いつも途中で遮られるか、あるいは誰も信用してくれないかのどちらかでして、皆様は最後まで聞いてくださいましたので、わたくし、少し、その」
ファリダは口をつぐんだ。
「嬉しかったです」
さくやは笑った。
「こっちこそ、ホントのこと教えてくれてありがとう」
ファリダは真顔で頷いた。
「嘘をつくのが苦手なんです」
夕陽が城壁を染め、街に灯りが灯り始めた。
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