■第162話 砂漠の陽炎編 夜中の密会
砂漠の夜は、昼間とは別の顔を持つ。
月光が砂丘を銀色に染め、静寂が全てを包む。
だが静寂の中にも、隠された声がある。
■眠れない夜
満月が砂丘を照らす夜だった。
さくやは天幕の天井を見つめたまま、寝返りを打った。ハリムの背中、焼かれた村の話、税を払う代わりに守られるという仕組み。頭の中でぐるぐると回り続け、眠れない。
仕方なく寝床を抜け出した。
外の空気は澄んでいた。銀色の砂が月明かりを跳ね返し、遠くでフクロウが鳴く。昼間の灼熱が嘘のように、夜の砂漠は静かで冷たかった。
「……砂漠の夜って、ほんまに別世界やな」
その時、視界の端を影が横切った。
ハリムだった。背を丸め、足音を殺して村の外れへ向かっている。
嫌な予感がした。さくやは影から影へ身を潜め、後を追った。
■密会
村外れの岩場で、ハリムは立ち止まった。
砂を踏む音がして、別の人影が現れた。黒髪が背中まで流れ、薄い絹の衣が夜風になびく。小さきものだが、纏う空気が違った。冷たく、研ぎ澄まされている。
「遅かったわね、ハリム」
「すまん、マルコナ。村人の目があるからな」
ハリムの声から、普段の明るさが消えていた。
さくやは岩陰に張り付き、息を殺す。
「例の件は、予定通り進められるの?」 マルコナの声は事務的で感情がない。
「……ああ。ただ気になることがある。海の向こうから来た連中が村にいる。計画の邪魔になるかもしれん」
さくやの背中に冷たい汗が流れた。自分たちのことだ。
「心配いらないわ」マルコナの声は静かだった。「明日、計画が成功すれば、この地の主導権は完全に私たちの手に渡る。忘れてないでしょうね、ハリム。私との約束を」
「……もちろんや」
だが声は、わずかに揺れていた。
やがてマルコナは砂漠の闇に消え、ハリムも重い足取りで村へ戻っていく。さくやはしばらく岩陰から動けなかった。
「……やばいもん、見てもうた」
■翌朝
ハリムは普段通りだった。
「今日は隣のオアシス村へ行く予定や。一緒に来るか」
さくやは出発の準備をしながら、ユーリだけに小声で告げた。 「昨夜、変なもん見てもうてん。後で話すわ」
ユーリは無言で頷いた。
白きラクダとポニーに揺られ、一行は砂漠を進む。太陽が照りつける中、さくやだけが黙っていた。
■襲撃された村
目的地に着いた瞬間、空気が変わった。
井戸が破壊されていた。壁が崩れ、荷物が散乱している。村人たちが呆然と立ち尽くし、あちこちで声を上げて泣いていた。
「一体何が……」 ハリムの顔から血の気が引く。
「昨夜、盗賊に襲われました」 村人の一人が震える声で答えた。「守ってくれるはずの王族軍は、来なかった」
レイナとエレナはすぐに怪我をした者のそばへ向かった。レイナが手を握り、エレナが傷を確認しながら手当てを進める。ユーリは無言で周囲を歩き回り、足跡を辿りながら襲撃の規模を読んでいく。
手当てが一段落したところで、エレナが静かに言う。 「少し調べた方が良さそうですね」
ハリムは瓦礫の前に立ち、動かなかった。
■夕暮れの話し合い
夕暮れ、四人だけになった時、さくやは昨夜の密会を打ち明けた。
全員が黙った。
「……ハリムさんが、仕掛けた側の可能性もある」さくやが静かに言う。
「確証はありませんわ」レイナが慎重に言葉を添える。
「事実を確かめるしかない」ユーリが短く言った。
「観察や」さくやが息を吐く。「感情に流されんと、冷静に見る」
誰も頷かなかった。でも、全員が同じ顔をしていた。
砂漠の夜が、また静かに降りてくる。白きラクダが鼻を鳴らし、遠くで風が砂を運んだ。
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