■第159話 荒野の開拓編 荒野に水が流れた日
水が来た。
荒野に、川が生まれた日のことを、
みんなはずっと覚えているだろう。
■ダム完成
夜明けだった。
ダムのゲートが開いた。
堰き止められていた水が、勢いよく放流された。支川へ流れ込み、護岸の間を走り、集落へ向かって下っていく。
作業員たちが川沿いに並んでいた。水が近づいてくる音が聞こえた。
集落の取水口に水が届いた瞬間、歓声が上がった。
上下水道の配管を通り、各所の蛇口から水が出た。透明な水が、荒野の朝の光を受けてきらきらと光った。
「……来た」ユーリが言った。
「来たな」さくやが言った。
レイナが目を閉じた。しばらくして、静かに目を開けた。スケッチブックを取り出した。水が流れる取水口、歓声を上げる労働者たち、光を受けてきらめく水面。手が素早く動く。
エレナが流量を計測していた。「……理論値を超えました」
「え、超えたん?」さくやが言った。
「ユーリが見つけた水脈の補助効果です。想定より水量が多い」
ユーリが川を眺めた。「……水脈が思ったより大きかった」
「結果オーライやな」さくやが笑った。
■新しい集落
午前中、四人はリオンと一緒に新しい集落を歩いた。
基礎からきちんと建てられた住居が並んでいた。窓から朝の光が入り、風の通り道が確保されている。住居エリアと仕事エリアが分かれ、共用施設が中央に配置されていた。
「……別の場所みたいですね」レイナが静かに言った。
「一か月前と全然ちゃうな」さくやが言った。
リオンが新しい集落を見渡した。
「……信じられない」
「リオンが指揮したからや」さくやが言った。
「お前たちがいたからだ」
「両方やな」
リオンが頷いた。
■さくやの屋台
昼過ぎ、広場に屋台が出現した。
さくやが鉢巻きを締め、法被を羽織って網の前に立っていた。
「いらっしゃい!完成祝いや!並んで並んで!」
3万人が列を作った。
「……長すぎひん?」さくやが呟いた。
「3万人いますから」エレナが静かに言った。
「わかってたけど、改めて見ると……」
「……多い」ユーリが言った。
リオンが列に並んでいた。
「リオン、責任者が並ぶんか」さくやが言った。
「俺も食べたい」
「……前来て」
リオンが先頭に来た。後ろから文句の声が上がった。リオンが「今日だけだ!」と叫んだ。笑い声が広場に広がった。
■レイナの絵
夕方、レイナが広場の壁に絵を並べた。
荒野に上陸した日の絵。岩山を眺めた日の絵。リオンに初めて会った日の管理室の絵。坑道の中で火花が散る絵。支川が伸びていく絵。ダムが少しずつ立ち上がっていく絵。そして今日、水が流れた瞬間の絵。
3万人が絵の前に集まった。
誰も何も言わなかった。
しばらくして、一人がぽつりと言った。「……俺たち、こんなことをやったんか」
また一人が言った。「……すごいな」
リオンが絵を一枚一枚見ていった。最後の絵の前で、しばらく動かなかった。
「……ありがとう」リオンが言った。
レイナが静かに頷いた。
■夜の祝い
夜、広場に火が焚かれた。
3万人が集まり、食事を囲んだ。笑い声が荒野に響いた。リオンが走り回りながら全員に声をかけていた。
「リオン、今日くらい座って食べて」さくやが言った。
「全員に声をかけてから座る!」
「3万人に声かけたら朝になるで」
リオンが止まった。「……そうか」
「そうや」
リオンが座った。椀を受け取った。一口食べた。
「……うまい」
「当たり前や」さくやが笑った。
エレナが記録帳を閉じた。「今日の作業、全工程完了です」
「お疲れ様でした」レイナが静かに言った。
ユーリが火を眺めていた。「……雪山の焚き火と同じだ」
「荒野でも火は温かいな」さくやが言った。
「……どこでも同じだ」
■翌朝・出発
夜明け、四人が荷物をまとめていた。
リオンが来た。
「……もう行くのか」
「やることはやった」さくやが言った。
「次はどこへ行く」
「王族のいる場所を目指してみようと思う」さくやが言った。「借金の問題、根本から解決できるかどうかわからへん。でも見に行かないと何もわからへん」
リオンが黙った。
「……危険だ」
「わかってる」
「……止められないな」
「止められへんな」さくやが笑った。
その時、ポニーがユーリのそばに来ていた。手綱を誰も持っていないのに、ユーリの隣を離れなかった。
リオンがその様子をしばらく見ていた。
「……連れていってやってくれ」
ユーリが振り返った。「……いいのか」
「お前のそばを離れないなら、俺が持っていても意味がない」
ユーリがポニーの鼻をそっと触った。ポニーが目を細めた。
「……わかった」
「リオン、気前がええな」さくやが言った。
「……ポニーが決めたことだ」リオンが言った。
四人とポニーが荒野を歩き始めた。
しばらくして振り返った。
リオンが広場に立っていた。その後ろに、3万人が並んでいた。誰も何も言わなかった。ただ、立っていた。
新しい集落が朝の光を受けて並んでいた。ダムが遠くに見えた。川が光っていた。
レイナが歩きながらスケッチブックを開いた。その景色を、描き始めた。
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