■第153話 波乱の女子旅編 岩山の影
荒野は、歓迎しなかった。
足を踏み入れた瞬間から、すべてが牙をむいていた。
それでも四人は、前へ進んだ。
■上陸
小舟で崖下の浜に降り立った。
砂が白く乾いていた。踏みしめるたびに足が沈む。熱風が顔を叩き、砂粒が目に入った。見上げると崖が続き、その上に荒野が広がっている。
「……思ったより過酷やな」さくやが額の汗を拭いた。
「気温は相当高いですね」エレナが空を見上げた。「記録しておきましょう」
レイナが荒野を眺めた。どこまでも続く褐色の大地。草一本見えない。しばらく黙ってから、スケッチブックをしまった。今は描く場面ではないと思ったようだった。
ユーリが崖を見上げた。
「……登れる」
「ほんまに?」
「……雪山の岩場より簡単だ」
四人で崖を登った。ユーリが先頭に立ち、足場を確かめながら進む。さくやが後ろから声をかけ、エレナが荷物を抱えて続く。レイナが最後尾でゆっくりと登った。
崖の上に出た瞬間、熱風が全身を包んだ。
荒野が広がっていた。果てしなく、褐色の大地が続いている。
「……あれ」ユーリが遠くを指さした。
水平線の手前に、黒い岩山の影が見えた。
「とりあえずあれを目指そうか」さくやが言った。「目印になるやろ」
■砂嵐
歩き始めてしばらくすると、空の色が変わった。
黄色い壁が地平線から迫ってきた。
「砂嵐や!」さくやが叫んだ瞬間、風が唸りを上げた。
レイナがその場で目を閉じ、両手を胸に当てた。祈りを始めた。ユーリがすかさずレイナの後ろに回り、両肩をしっかりと押さえた。
エレナは荷物から記録帳を取り出した。砂が顔を叩く中、風速を測り、砂粒の密度を目で確認し、淡々と数字を書き込んでいた。
さくやが「みんな伏せて!」と叫んだ瞬間、突風が真横から来た。
さくやだけが、飛んだ。
黄色い砂の壁の中に消えた。
レイナの祈りは続いていた。ユーリが押さえていた。エレナが記録していた。
三人がそのまま砂嵐をやり過ごすと、風が収まった。
砂煙が晴れると、さくやが三人の真横に立っていた。
「……今、戻ってきたん?」エレナが記録帳から顔を上げた。
「わからん」さくやが首をかしげた。「気づいたらここにおった」
「……どこに飛んだんだ」ユーリが言った。
「それもわからん」
レイナが目を開けた。「お祈りが届いたのかもしれません」
「届くの早すぎひん?」
さくやは砂だらけの自分を見下ろした。何事もなかったように前を向いた。
「……まあええか。行こうか」
エレナが記録帳に何かを書き足した。「……現象として記録しておきます」
■荒野を行く
砂嵐が去ると、空が静かになった。
四人は黙って歩き続けた。太陽が真上から照りつけ、影が短い。足元の砂が熱を帯びていた。
「……さくやはどこに飛んだんだ」ユーリがしばらく経ってから言った。
「だから分からんって」
「……砂嵐に飛ばされて同じ場所に戻るのは、理論的にあり得ません」エレナが言った。
「でも戻ってきたやん」
「……だから記録しておきました」
レイナが静かに言った。「神さまが戻してくださったのかもしれません」
「神さまも暇やな」さくやが言った。
「失礼ですよ」レイナが言った。
■岩山
夕方近く、岩山がはっきりと見えてきた。
近づくにつれて、輪郭がはっきりしてきた。山肌を覆うように無数の坑道が掘られている。黒い土煙が上がり、金属を打つ音が風に乗って聞こえてくる。
そして、人影が見えた。
無数の小さな影が、炎天下で動いていた。重い石材を運び、ツルハシを振るい、坑道に吸い込まれていく。
「……小さきものや」さくやが息をのんだ。
「こんな場所で……」レイナが声を詰まらせた。
エレナが無言で目を細めた。遠目でも、労働環境の過酷さが見て取れた。
ユーリが静かに言った。
「……助けに行くのか」
さくやが岩山を見つめた。熱風が髪を揺らした。
「まず、何が起きてるか見てこようか」
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