■第149話 白銀の冒険編 1292人の現場
人数が多ければ、できることも増える。
でも多ければ多いほど、まとめる人が大変だ。
さくやは今日も、元気いっぱいに叫んでいた。
■資材到着
大型トレーラーが北西の橋を渡ってきたのは、朝早い時間だった。
一台、また一台。荷台に積まれた資材が、レイナの村の広場に次々と下ろされていく。鉄製の支柱、ワイヤー、ゴンドラの部品、基礎工事用のアンカーボルト。全て寒冷地仕様で、梱包には「極寒対応」と書いてあった。
「多っ!」
さくやが荷物の山を見上げた。
レイナたちが資材の周りに集まり、仕分けを始めた。梱包を丁寧に開き、部品ごとに並べ、種類と数を記録していく。1000人が一斉に動くと、広場があっという間に整理されていった。
「支柱の部品、全部揃っています」
「ワイヤーの長さ、設計図通りです」
「ゴンドラの窓枠、三セット確認しました」
報告が次々と上がってくる。エレナが仕様書と照らし合わせながら確認していった。
「……全て揃っています。搬入完了です」
「よし、現場に運ぶで!」
■搬入
レイナの村から工事現場まで、資材を運ぶ作業が始まった。
重い支柱はさくやたちが重機で運ぶ。ワイヤーの束はさくやたちが分担して引いていく。ゴンドラの部品など細かいものはレイナたちが手分けして運んだ。
雪道は足を取られやすい。レイナたちは力こそ強くないが、1000人が列をなして少しずつ運ぶと、思いのほか効率よく進んだ。
「レイナって、力ないのに頑張るな」
さくやが感心して言った。
「手は千本ありますので」
レイナが静かに答えた。
ユーリたちが先頭を歩き、雪道の安全を確かめながら進んだ。時折「そこ、踏むな」と短く言う。全員が止まり、迂回する。それだけで事故がなかった。
■着工
現場に資材が揃うと、さくやが重機に乗り込んだ。
「第一支柱、基礎工事から始めます!」
重機のエンジン音が雪山に響いた。アームが雪を掘り起こし、凍った地面に穴を開けていく。エレナが深さを計測しながら指示を出した。
「あと二十センチ。……そこで止めてください」
「了解!」
基礎穴が完成すると、アンカーボルトを打ち込む作業が始まった。さくやたちが重機で大まかな位置を決め、レイナたちが細かいボルトを丁寧に締めていく。
「この角度、少しずれています」
エレナが計測器を当てながら言った。
「どのくらい?」
「〇・五度」
「レイナ、調整お願い」
レイナたちが集まり、ボルトを少しずつ回した。1000人の指先が、細かい作業を丁寧にこなしていく。
「……合いました」エレナが確認した。
「よし、次!」
■支柱建て込み
基礎が固まると、いよいよ支柱を建て込む番だった。
分解されて運んできた支柱を組み立て、重機のアームで吊り上げる。さくやが重機を操作し、ゆっくりと基礎の上に支柱を下ろしていく。
「もう少し右……そこ!」
エレナが叫んだ。支柱がゆっくりと基礎に収まった。
レイナたちが一斉に取り付け金具を締めていく。一本、また一本。小さな手が素早く動く。
「ボルト、全部締まりました」
「垂直、確認します」エレナが計測した。「……完璧です」
「やったー!第一支柱、完成!」
さくやが重機の上から叫んだ。現場に歓声が上がった。
ユーリが支柱を見上げた。
「……思ったより、早い」
「うちら、人数だけは多いので」さくやが笑った。
■塗装
支柱が建つと、レイナたちの出番が来た。
塗装だった。
「雪山の白に溶け込む色で塗ります」
レイナが色見本を確認しながら言った。ブラシを手に、1000人が支柱の周りに散らばった。下から上へ、丁寧に、均一に塗っていく。
「画家が塗装すると、やっぱり違うな」
さくやが出来上がっていく支柱を眺めながら言った。
「塗装も絵を描くことと同じです。ムラなく、丁寧に」
レイナが答えた。その手は止まらなかった。
エレナが塗装の厚みを計測した。「……均一です。防錆効果も十分です」
「レイナ、すごいな」
「褒めても何も出ませんが……うれしいです」
■進捗
夕暮れが近づいた頃、さくやが現場を見渡した。
第一支柱、完成。第二支柱、基礎工事完了。第三支柱、基礎穴の掘削中。
「初日にしては、上出来やな」
エレナが記録を確認した。「予定より少し早いです。このペースなら工期内に収まります」
レイナは現場のスケッチを描いていた。建ち上がった支柱、その周りで動く仲間たち、遠くに見えるユーリの村。
ユーリが隣に来て、スケッチを覗き込んだ。
「……上手い」
「ありがとうございます」
「あたしたちの村も、描いてくれるか」
レイナはしばらくユーリを見てから、新しいページを開いた。
「もちろんです」
雪山に、工事の音が静かに響いていた。
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